第19話 剣術道場その弐
~剣術道場二日目~
剣術道場には三人の影があった。一人は師範もう一人は衛兵、最後の女性は分からない。マリベルの顔色が変わる、咄嗟に二人で口裏を合わせた。向こうもこちらに気付いたようだ、嫌な予感しかしない。
検査監
「こんにちわ!貴方が深澤さんでしょうか?」
その女性の姿は、肩にかかる銀髪の髪に整った顔、着ている鎧は厳粛さを兼ね備えている。
「はい」と答えると、師範にも間違いないかと確認している。師範は俺と目を合わせようともしない、ずっと逸らせている。
検査監
「申し遅れました。
マリベル
「あの、アイリーン様一体どのような用件でいらっしゃったのでしょうか」
素知らぬ様子で話し掛けるマリベルのその顔は笑顔を取り繕っている。
監査官
「実は、密告が有りましたのでマリアベルさんにも幾つか質問に答えてもらいます。まず、此方の男性とはどういったご関係でしょうか?」
マリベル
「えーっと深澤さんとは酒場で会いました、ダンジョン初心者なので慣れるまでの間、パーティーを組んでいます。以前報告した通り、私達のパーティーは壊滅してしまいましたので…」
監査官
「なる程、それで此処には鍛えに来たということですか、分かりました。深澤さん、それでは貴方の素性を教えて下さい」
マリベルとの打ち合わせ通りにヴェール地方に住んでいた事、農作業をやっていたが近年の不況で思い切って出稼ぎに来た事、酒場でマリベルに声を掛けた事を監査官に説明した。
監査官
「それはおかしいですねえ」
マリベル
「!!!」
そう言って俺の顔を覗き込む。監査官は何処がおかしいかまでは言わない。
深澤
「すいません、意味が分からないです」
(ブラフだ! こいつは取り調べの刑事とやり口が同じだ、時折嘘を織り交ぜてこちらの動揺を誘う、しかし、俺にその手は通用しない)
深澤はポーカーフェイスを崩さない。
何処がおかしいか、この、何処がと言うワードを引き出そうとしたのだろう。慣れていない奴は大抵これに引っ掛かる。
大山がいない事だけが救いだった。昨日の稽古が堪えたらしい、
監査官は、にっこりと頷き、なにやら帳面を取り出した。
監査官
「記録書によると魔法の契約はなさそうですね、グリーンハーブのクエストが1件これはお一人で?」
マリベル
「私が一緒に同行しました。場所は森の泉です」
監査官
「なる程、それでこの量ですか。武器はと、そのダガーだけですね。はい、大体の事は分かりました」
監査官は納得した様子をしたが、次の瞬間、鋭い目付きで衛兵を見ると顎を
監査官
「拘束しろ!」
深澤 マリベル
「!!!」
監査官の台詞に、言葉を失い血の気が引いた。逃げるか、戦うか、それとも大人しく捕まるか。急な選択を迫られ、身動きが取れない。マリベルに目を流すと、両手で口を覆っている。
しかし、絶体絶命の状況に、立たされてしまったという思いとは裏腹に、衛兵は俺ではなく師範を縄で縛り上げていた。
師範
「な、何で俺なんだ!! アイリーンどういう事だ!!」
師範は監査官に狼狽しながら訴える。
監査官
「様だ! アイリーン様、分かったか? セルジオス! いつまで上司面をしてるいるつもりだ!」
まるで汚物でも見るような目で、押さえられ
監査官
「此処に来る前にお前の弟子から聞き込み済みだ! 昨日、一悶着あったそうだな、大方、腹いせで密告してきたのだろう。お前のやりそうな事だ、この下衆が!」
師範
「ち、違う、俺は…」
そう、言い掛けた師範を「弁明は王宮で聞く」と衛兵が地面に押さえつけた。
監査官
「大変失礼しました! 密告したのはこの男です。何でも人では有り得ない殺気を放った、とか言い張るので、信じた訳ではないのですが、仮にも剣聖と呼ばれた男なので、念の為に確認に来ました。それに、私達が追っている人物の可能性もあったものですから」
どうやら差し当たっての危機は去ったようだ。それにしてもこのセルジオスという男、元剣聖で彼女の上司とは。今までに行ってきた行動の結果なのだろうか、随分と落ちぶれたものだ。
監査官
「そういう訳だセルジオス、王国に対して偽証とは覚悟は出来ているんだろうな」
師範
「偽証なんてしていない! いや、していません! アイリーン様! 勘違いです、
師範は芋虫のように這いずり寄り、監査官の靴を舐め始めた。大山がこの光景を見たら、さぞ喜ぶことだろう。
監査官
「穢らわしい! そこまで堕ちたか!」
強烈な蹴りを顔面に叩き込まれる師範、だがその顔は鼻血すら出ていない。元剣聖というのは肩書だけじゃないという事なのだろう。
こいつは意外に使えるかも知れない、そんな考えが頭の中に浮かんだ。この監査官をなんとか説得する事を考えに考える。
深澤
「あのー、アイリーン様、勘違いということでしたら、私の方は特にこの方をどうして欲しいとか要望はありません。それに昨日から剣術を教わったばかりですので、この方がいないと少し困るというか…。今回は穏便に済ます事は出来ないでしょうか?」
少し間を置き監査官は師範を一瞥した。師範は顔を地面に付けひれ伏している。
監査官
「助かったなセルジオス! この方に感謝しろよ、だが次はないぞ! 肝に銘じて置け!」
セルジオス
「深澤さん有り難う御座います! 本当に有り難う御座います!」
監査官
「それでは私達の方はこれにて失礼させてもらいます」
監査官は踵を返し
監査官
「大変失礼しました。深澤さん、最後にステータスの確認だけさせて下さい、形式上のものですから」
又も窮地に追いやられる。先程から窮地と安堵を何度繰り返したことか、監査官は巻物の束が入った袋をゴソゴソと手探りしている。
しかし、もう誤魔化す言葉も浮かばない、なす術もなく、神に祈るより他は無かった。
監査官
「失礼しました、
監査官は照れたような微笑を浮かべていた。どうやら祈りが届いたらしい、心の緊張の糸が一気に緩むのを感じた。
だが、ほっとしたのも束の間、マリベルが口を開く。
マリベル
「私で良ければ魔法で見ますが?」
監査官
「それではお願いします」
マリベル
「
「!!!…レベルは0です、能力補正値は全てG、特性は有りません」
監査官
「レベルが0、能力補正値が全てG、特性は無し、と。はい書き終わりました、マリアベルさんご協力どうも有り難う御座いました。今度こそ本当に失礼させてもらいます、それでは」
どれ程の苦悩を味わい
マリベルの顔を見るのが恐ろしい、ゆっくりと地面から彼女の顔へと視線を移し、また地面に戻した。
想定していた表情とは違う、彼女は何も言わずただ俺を見ていた。
面子は異なるが剣術道場には又、三人の影だけが残っていた。
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