第16話 マリアベル正式にパーティーに加わる
あの日に帰りたい、それが叶わぬのなら、せめて彼女の夢を見たい。まるで呪いのように、纏わり付いた切望が、消え去ろうとしている。
もう願う必要はない、此の道を進むだけでいい、邪魔な者は排除する。決意が良心を凌駕するのを感じていた。
深澤
「大山、そろそろマント脱げよ、それに剣も置け」
帰ってきた大山の姿を褒めたのが悪かったのか、ずっと見せびらかすように視界に入って来ては、にやにやしている。このままいくとまた面倒な事になるに決まっている。
大山
「もう少しだけいいですか? マリベルが来るまででいいんで」
童謡北風と太陽。北風と太陽が旅人の服を脱がそうと勝負する話しだ。北風がいくら強い風を吹いても旅人の服は吹き飛ばされない。大山に必要なのは強い風ではない、太陽の暖かさが必要だ。
深澤
「大山、明日レベルを上げに行こう、その時マリベルにお前のその姿を見せるんだ、そうすれば大山さん素敵ってなるよ」
大山
「で、でも早よみせたいんですわ」
大山は食い下がる、まだ暖かさが足りないようだ。
深澤
「大山、然り気無くだよ、然り気無くがいいんだ。今のお前はどうぞ見て下さいって顔になってるんだよ、それじゃ台無しだろ。折角、格好いい格好してるのに勿体無いだろ」
大山
「ほ、ほんまでっか、なら脱ぎます、明日見せますわ」
大山は現代の戦士だ、それだけは間違いない。いつも人より率先して一歩前に出る。その姿勢は俺には無いものだ。思考も単純で実に分かりやすく、上手く周りと打ち解けている。承認欲求が強すぎるのが玉に瑕だが、そんな大山を頼りにしている。
しかし、そんな大山をいずれ切り捨てる日が来るかもしれない。そんな思いを知ってか知らでか大山は、仕事に行ってくる、と部屋を後にした。俺はマリベルの部屋に足を運んでドアをノックした。
深澤
「マリベル少し話せるか」
ガチャリとドアが開きマリベルは部屋の中に招いてくれた。いつもの白銀のローブとは打って変わって絹のキャミソールを着ている。生地を見るとうっすらと下着が透けていた。
俺は立ったままドアに背もたれを預けると、俺の内心を悟ったのかマリベルは距離を取ってベッドに腰を下ろした。
深澤
「明日、大山とレベルを上げに行きたいんだが付き合ってくれないか?」
マリベル
「いいですけど場所は決まってるんですか?」
深澤
「いや、マリベルに決めてもらおうと思って」
マリベル
「じゃあ、ダンジョンにします?」
深澤
「ああ、それでいい。あと一つ頼み事があるんだけど、明日、大山の格好見たら褒めてやってくれないか」
マリベル
「そういうところ深澤さんの悪い所ですよ、何で甘やかすんですか」
確かに彼女の言う通り俺は甘い。しかし、それは表面上での事であり、その薄皮の下には本来の残酷な自分がいる、それは彼女の想像を遥かに越えるものだろう。これは、幼少時代の失敗を糧に身に付けた、社会を円滑に生きていく為の
深澤
「頼むよ、マリベルだって面倒くさいの嫌だろ? 上手くやっていく為なんだよ」
マリベル
「分かりました。その代わり条件があります。」
深澤
「条件って?」
マリベル
「深澤さんが隠している事教えて下さい」
深澤
「何も隠してないよ」
マリベル
「嘘!」
深澤
「俺の言い方が悪かったな、言いたくない事はある。でもそれはマリベルだって一緒だろ?」
マリベル
「……………」
深澤
「大体マリベルはこの先どうしたいんだ?俺達には元の世界に帰るという目的がある。でもマリベルは? 平穏な日常? それともいずれ結婚して家庭を持つ?」
マリベル
「私は…分からない…」
深澤
「なら、あの日に戻りたくないか?」
マリベル
「あの日?……戻りたい……でも、無理だから…戻れる訳ないから…」
深澤
「俺達の世界にはさ、魔法なんてものは無いんだよ。勿論精霊なんて存在しない。空想像の生き物なんだ。俺達にとってこの世界は非現実世界であって、元の世界に帰っても誰も信じたりはしないんだ。でもこの世界は存在してる、だから俺は時の神も存在すると信じてるんだよ」
マリベル
「でもどうやって…」
深澤
「だからそれを擦り合わせて行くんじゃないか」
恐らくここが分岐点だろうと俺は感じていた。
「マリベルは精霊界に行った事はあるのか?」
マリベル
「行ったことは無いです、どうやっていくのかも知りません」
深澤
「でも王宮で契約する時に精霊界の住人を召還するんだろ?」
マリベル
「確かに召還はしますけど、魔方陣の中にその相手の肉体までは召還しません、口頭のみで契約します。相手がどう出るか分かりませんので」
深澤
「ふーん、だからゲート内なら召還出来るってことか」
俺は少し考え、世界地図を見せてもらった。
深澤
「これを見ると大陸しか載ってないな、もっと大きな地図はないのか?」
マリベル
「全部載ってますよ、大陸の周りは海ですから」
深澤
「海の向こうは?」
マリベル
「海の向こう? 海の先は滝になっていて奈落まで落ちてしまいます」
深澤
「見たことあるのか?」
マリベル
「見たことないけど常識です」
深澤
「マリベル、この間夜空を見上げたら沢山の星が見えて綺麗だったんだ」
マリベル
「どういう意味ですか?」
深澤
「この世界も星だってことさ、だからこの世界は丸い、海の向こうに滝なんて無い」
マリベルの表情が瞬時に変わる、
マリベル
「深澤さん! その考え異端ですよ! 海の先には滝があるんです、これが人に知れたら死罪ですよ!」
前のめりになって、語気を強めた彼女の目は、真剣そのものだった。
深澤
「そんなに怒らないでくれよ、でもこの世界の文明は随分と遅れてるんだな、いや、暗に世間に発表していないだけかも知れない。王国は船ぐらい持っているんだろ?」
マリベル
「…立派な軍船を幾つか所有はしていますけど」
深澤
「じゃあ決まりだよ、この世界は丸い。上手く行けば海の向こうに精霊界と呼ばれる大陸がある」
マリベル
「ちょっといいですか? 仮にこの世界が丸かったとしても滝はありますよね?」
深澤
「無いよ、何で?」
マリベル
「じゃあ海の水は何処に落ちるんですか?」
深澤
「ああ、こういう事だよ」
ペンを床に落とした。それを見たマリベルは首を傾げる。
深澤
「今、ペンが落ちたろ? 正確に言うとこの星の中心に引っ張られたんだ。星には引力があってあらゆる物を引っ張る性質があるんだよ。だからこの世界の何処に行っても、大陸か海があるだけで落ちるも何も、無いんだよ」
マリベル
「じゃあ本当にここ意外にも大陸が存在するの?」
深澤
「恐らくな、そしてそれは精霊界の可能性が高いかもしれない。じゃなきゃ軍船なんて用意しないよ」
「今の話の中で四つ程、精霊界に行く方法を抽象的に言ってみるよ。一つ目、何とか船でいく。二つ目、召還魔法で呼び出して精霊界の行き方を聞く、3つ目、召還魔法で呼び出した住人に逆に召還してもらう、四つ目、召還魔法で呼び出した時にその魔方陣に飛び込む。どう?」
マリベル
「全部重罪にあたりますね」
深澤
「マリベル、王国の法の中に居たんじゃ何も出来ないよ。俺は命を掛けるつもりでいるんだ、マリベルに仲間に入って欲しいんだよ」
マリベル
「命を掛けるってどういう風に掛けるんですか?」
深澤
「…………なら今もこの場で掛けるよ。…マリアベル!俺達の仲間になるつもりが無いなら今すぐ殺せ! どうせ殺すつもりだったろ?」
マリベル
「!!!……な、何ですか急に……どうしてそう思ったんですか…」
俺は無言でマリベルだけを見ていた。目を剃らさないように。
すると彼女の顔が驚きから笑顔に変わる。
マリベル
「そっか…やっぱり気づいてたんだ。あの時…泉に行った時に、そうじゃないかなって思ってたんだ。可笑しいよね、だって深澤さん空気読めない人じゃないもん、それなのにあんな事言って。それで、今も駆け引きしてるのかな? 深澤さんは。人目に付く所じゃ殺せないとか思ってたりして? でもそれ、外れですよ。始末しようと思えば何時でも出来るんですよ。フフフっ、どうしよっかな……可愛い、震えてるんですね。嫌いじゃないですよ、男の人のそういう所」
マリベルは立ち上がるとゆっくり近づいてきて俺の耳に囁いた。
マリベル
「私…抱かれた男しか信用しないの」
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