第15話 大山武器を買う



大山

「課長ほんなら今日はワシも武器屋行ってきますんで」


 大山は颯爽と軽い足取りで部屋を出ていった。



武器屋

「いらっしゃいませ!お客様本日はどのようなご用件でしょうか?」


大山

「ワシ武器買いに来たんやけど、これや! このでっかい剣にするわ」


武器屋

「鋼の大剣ですね金貨1枚となります」


大山

「お、重、上に上がらんわ。あかん」


 大山は柄を握り締めぷるぷると震えているが剣先は床に着いたままだ。


武器屋

「お、お客様! こちらは如何でしょうか、御値段も半分ですし、切れ味もなかなかの物ですよ」


大山

「これやらな何とか振れるやん」


 大山は両手で鋼の剣を振る。しかしその顔は少し不満毛だ。


大山

「どっちが格好ええ?」


武器屋

「どっちがかっこええ?」


大山

「どっちが格好ええかって聞いとんや! おうむ返しすなて!」


武器屋

「し、失礼しました!…ま、まあ、お客様は背もお高いですし体つきもがっしりとしてますから大剣の方が似合うと思いますが…」


 大山は爪を噛み、暫く考えた末に大剣に指を指した。


武器屋

「だ、大丈夫ですか」


大山

「へ、平気や! 背中背負ってくからちゃんと鞘も付けなあかんで!」


 大山は大剣を背負い込むとよろよろと足元が覚束ない様子で店を後にした。


大山

(…あかん、やっぱり重すぎるわ、どないしよ)


  大山は道端に座り込み途方にくれた。時間だけがただ過ぎて行く。


(……せや! ええ事思い付いたで! ワシって天才やん)


 大山は武器屋に戻るとすぐにさっきの鋼の剣を買った。


大山

「それとな、さっき買ったこの大剣やけど、根元の所切ってくれるけ、鞘から見える部分は出しとかなあかんで」


武器屋

「え、えっと宜しいのですか?」


大山

「ええて! ワシがええ言うてんのやからええに決まっとるやろ! ワシお客様やで!」


武器屋

「そ、それでは工賃大銀貨1枚となります」


大山

「また金とるのけ? ほんまかなわんわ、ほんならちゃっちゃと済ませてや」


 大山は不機嫌そうに渋々大銀貨を取り出してカウンターに置いた。武器屋は大剣を受け取るとそそくさと奥の鍛冶場へと向かって行った。


 大剣を台に置き硬度の高いたがねで剣の根元に線を入れると線に沿ってたがねを押し当てハンマーで叩いていく。店の中に鍛冶場独特の金属音が鳴り響いた。



武器屋

「御待たせ致しました」


大山

「遅いでほんま! 早よ貸してみ!」


 大山が大剣を背負うと透かさず武器屋は褒めちぎった。大山は満足そうにに笑みを浮かべる。武器屋はそれを見て胸を撫で下ろした。


大山

(武器はこれでええな、早よ二人に見せびらかしたいわ。あかん、武器はええけどマントやマント)


「後は防具や! マントは置いてないのけ? 色は赤や!」


武器屋

「マントですか? 生憎当店では取り扱っては御座いません、町の道具屋なら取り扱っていると思うのですが」


大山

「何で道具屋やねん! 防具屋と違うんけ!」


武器屋

「マ、マントというものはあくまでも温度調整の為のものでして防具として扱われる方は殆どいないのです、それに赤色をご指名為さるのであれば道具屋で染め直す事も可能かと思いまして」


大山

「ほんなら町まで行ってみるわ」


(お金もまだ仰山あるし、少し町中ぶらついてから帰ろ)


大山

「結構栄えとるやん」


 石畳の道に石造りの建物がずらりと立ち並び厳粛した雰囲気を醸し出す。衛兵の剣と鎧の擦れる音、商人の掛け声、冒険者達と人猿の引く荷車、時折り通る馬に跨がった貴族、


 キョロキョロと辺りを見回す大山の目に占いと書かれた看板が、ふと目に入った。


大山

(気になるわー、この世界はテレビが無いけ、往生するで)


 店に入ると暗い部屋にフードを深く被った占い師が椅子に腰掛けていた。占い師の前には淡く光る水晶玉が置いてある。


大山

(いかにもやんけ)


「すんません! 今日のラッキーカラーとラッキーアイテム教えて下さい! 自分魚座です!」


占い師

「…そんなものはありません」


大山

「無いってことないやん!」


占い師

「無いものはないのですから仕方のない事です、どうぞお引き取り下さい」


大山

「何帰そうとしとんねん! ワシ客やで!」


占い師

「衛兵を呼びますよ」


大山

「腹立つ奴やな! このインチキ占い師が!」


占い師

「インチキとは心外ですね」


大山

「ほんなら何占えるんや! 言うてみ!」


占い師

「来世でも前世でも」


大山

「ほんならワシの前世占ってみ!」


占い師

「金貨2枚です。払えないのであればお引き取り下さい」


大山

「高! ぼったくりやん!」


占い師

「出口はあちらになります」


大山

「払うて! そん代わり適当な事言うたら返してもらうで!」

(ワシはこの世界の人間やないんや!嘘なんか直ぐにばれるで!)


占い師は水晶玉に手を翳すと何やらぶつぶつと呟やき始める。


占い師

「貴方の前世は……貴方です、!!! 私は何を言ってるんだ?」


大山

「ほんまに何言うてんねん! このインチキ占い師が! お金は返してもらうで!」


占い師

「こ、こんな筈は、もう一度、お代は結構ですからもう一度占わせて下さい!」


大山

「もうええて! あんた表の看板にちゃんとインチキ占いって書いとかなあかんで!」


 引き止める占い師を無下にして大山は店を出た。


大山

(ほんま、ぼったくり店はどの世界にもあるんやな、気を付けなあかんで。それにしてもラッキーカラーとラッキーアイテムが無いなんて…皆どないして生活しよるんやろ)


 大山はうろ覚えの道を辿り道具屋へと入って行くと、おかっぱ頭の店の主人が和かに出迎えた。


道具屋

「いらっしゃいませ! これはこれは先日マリアベル様と一緒にお出でになった方ですよね、本日はどのようなご用件でしょうか」


大山

(やるやないけ、一見でお客様の顔を覚えるその仕事振り、ワシとそっくりや)


「マリベルの事知っとるのけ?」


道具屋

「白銀のマリアベル様は有名な方ですから」


大山

「そうなんけ、実はなここだけの話しなんやけどワシとマリベルは付き合うとるんや、内緒やで」


道具屋

「そうでしたか! とてもお似合いですね」


大山

「せやろ! 自分分かっとるやないけ、贔屓にしたるさかいな、ワシは大山や、覚えとき」


道具屋

「有り難う御座います、大山様」


大山

「ほんでな、格好ええ赤いマントあるけ?」


道具屋

「赤よりも格好いい黒マントなら御座います。襟元も閉じれるタイプで魔術師に間違えられる事も御座いません」


大山

「それや! 早よ見せてや!」


 道具屋は棚から黒いマントを取り出して大山に渡した。


大山

「な、なあどっちが格好ええ」


 大山は大剣をマントの内側に隠すか外側に出すかで決め悩んだいた。


道具屋

「立派な大剣ですから内側だとマントに隠れて柄しか見えないのが残念です。やはり外側の方が刃も見えて格好いいと思います」


大山

「や、やっぱりこっちけ! ワシもそうやと思うたんや!」


道具屋

「それと、このような物も御座いますが」


 そう言って道具屋は棚から黒い皮の手袋を出した。


道具屋

「指先が無いタイプの手袋でして使い勝手が良い物ですよ。それに黒マントと合わせれば黒一色で、すっきりとした印象を与え格好良さも倍増しますよ」


大山

「ほ、ほんならそれも買うで!」


道具屋

「そうなるとマントに少しアクセントが欲しいですね、刺繍を入れたら如何でしょうか? そうですねー例えば、剣聖大山なんて如何でしょう?」


大山

「ひゃ、100点やな! 店主あんた100点満点や!」


道具屋

「それでは直ぐに入れてきますので少々お待ちください」


大山

「は、早よしてや! ワシもう我慢できんて!」


道具屋

「御待たせ致しました。締めて大銀貨5枚となります」


大山

「赤やん! 赤の糸使ってくれたん! ほんま最高やで! お釣要らんから取っときや!」


 大山は金貨1枚渡すと急いで宿屋へと走り出した。










 大山が出て行った後、少しの間を置いて店の奥から女性が現れた。その耳は尖っている。


「貴方あれで良かったの?」












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