第13話 初めてのクエスト
~町~
マリベルは深澤の前を歩き魔術師ギルドへと案内する。
マリベル
(大山さんは太陽と海を描いていた。随分と幼稚な絵。でも問題なのは深澤さん。自分では気づいていないみたい。あの絵自体に問題はない。でもあの絵を描いた心理的行動は虚偽。私に知られたくない何かを隠している。何かは分からないけどそれだけは間違いない)
マリベル
「深澤さんそろそろ着きますけど覚えてますよね?」
振り返ると確認するように聞いてくる。
深澤
「建物入って直ぐに掲示板、聞きたい事があれば正面の受付、だろ」
マリベル
「自立する為ですから頑張って下さい」
早くに結婚した俺は仕事以外の事は全て妻に任せてきた。洋服を選ぶ事でさえも。常に妻が目となり耳となり俺はただ横で突っ立っているだけだった。
それから二十四年が経ち、そこに残ったのは仕事以外何も出来ない男だった。その妻が今は居ない。マリベルに、妻の代わりにと頼んでみたのだが、あっさりと断られたのだった。
深澤
「じゃ、行ってくるわ」
魔術師ギルドのドアを開けると直ぐ左に掲示板、正面には受付、右側には関係者用の扉が見えた。掲示板に目を通して一番簡単そうなものに決めた。
「すいません、グリーンハーブの採取依頼受けていいですか?」
受付
「はい、G難度の依頼ですね、どうぞ、いつでも買取りしていますので採取したら持ってきて下さい」
マリベル
「随分早かったですね」
深澤
「ああ、グリーンハーブの採取にしたよ、簡単そうだし。どの辺で採れるんだ?」
マリベル
「珍しいものじゃないから森に入って探せば直ぐに見つかると思う。でも泉まで行った方が、沢山生えてるから効率がいいかな。どうします?」
深澤
「んー、泉にしようかな」
マリベル
「じゃあ武器屋に寄ってから行きましょうか、モンスターが出るかもしれないから」
深澤
「マリベルがいるから大丈夫だろ」
マリベル
「念のためにです。それに素手で採取するつもりですか?」
返す言葉が出そうになったが喉元で止めた。正論が正しい結果をもたらすとは限らない。独り言のように呟いた、
深澤
「武器屋に寄っていこうかな」
~武器屋~
深澤
「じゃあこれ下さい」
武器屋
「ダガーですね、銀貨五枚になります」
マリベル
「深澤さん、ちゃんと選びました?」
深澤
「ああ、あまり重い物持ちたくないし、これなら採取に便利だろ」
マリベル
「後は荷車で行くだけですね」
深澤
「荷車必要か?」
マリベル
「あまり荷物を持ちたくないんですよね」
したり顔でマリベルは言った。
深澤
「荷車で行こうか」
両手を上げ即答する俺に、マリベルは満足気な顔を見せた。
~宿屋~
宿屋に戻るとマリベルは荷車を
深澤
「大山は?」
マリベル
「大山さんは別にいいんじゃないですか」
マリベルは少し大山を毛嫌いしている。その心情を汲んで二人だけで行く事にした。
深澤
「それにしてもマリベルは俺達の世界の事何も聞かないんだな、興味沸かないのか」
マリベル
「興味が無い訳じゃないけど何か私からは聞き辛かったし、深澤さんは家族がいらっしゃるんですよね。だから思い出しちゃうかなと思って」
深澤
「マリベルは優しいんだな」
マリベル
「そんな事ないです、そんな事……」
そう呟くその目には、悲しい影が過っていた。
気付けばもう森の入り口に差し掛かっていた。清々しい独特な木の香りが鼻腔を心地好く刺激してくる。森の緑からは木漏れ日が差し木陰の涼しさと相まって心を和やかにしてくれる。
~森の中~
深澤
「何か気持ちいいな」
マリベル
「何がですか?」
深澤
「森の空気だよ、心が癒される」
マリベル
「深澤さん、大袈裟ですよ」
深澤
「マリベルには分からないんだよ、都会には緑が少ないから俺にとっては特別な事なんだ」
マリベル
「ふーん、そんなもんなんですか。あ、これです、これがグリーンハーブです」
指を差すその先には林道に沿って緑色の植物がひっそりと佇んでいた。そのまま手で抜こうとしたら、根っ子を残すように言われたので、茎の下側にダガーの刃を入れた。こうすることで1ヶ月程でまた収穫できるとの事だ。
深澤
「これっていくら採ってもいいのか?」
マリベル
「大丈夫です。この森は王国の所有地になってますけど、余程貴重なものでもない限り罪には問われませんから」
深澤
「王国で一番重い罪って何なんだ?」
マリベル
「王国に逆らう事、反逆罪ですね。一族皆死罪になりますから…」
深澤
「厳しい世界だな」
俺が苦笑いをすると、決まりだから仕方がないと、マリベルは悲しそうに言う。それからは人道に沿って時折見つけるグリーンハーブを採取しながら、吸い込まれるように森の奥深くまで歩いて行った。
深澤
「随分奥まで来たな、まだ着かないのか?」
マリベルは、もう少しで着くと、先を歩きながら言った。
深澤
「さっきの罪の話の続きだけど、俺は人を殺す事が一番罪が重いと思う。人としての罪だよ、法律は関係ない。俺達の世界では人を殺した人間が自ら罪を受けようとする。何故だか分かるか?」
マリベルは歩いたまま振り返り「さあ…」と一言だけ言うと、また前を向いて歩き続けた。
深澤
「罪の意識に
マリベルは何も答えずにただ前を歩いている。
深澤
「直接手を汚さなくても業を背負う、一生自責の念に駆られるんだ」
マリベル
「あ、泉が見えました。ね、言った通り沢山生えてるでしょ」
マリベルは、俺の言葉を振り払うかのように俺に笑顔を見せた。
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