第10話 深澤の読み
深澤
「大山、マリベルの事だが、彼女には気をつけろ。王宮から戻ったらマリベルは俺達を殺すかもしれない」
不意に飛び出した深澤の言葉に大山は困惑したようだった。
「すんません課長、自分考えられんですわ。自分には真面目そうな子にしか見えないんですけど」
深澤
「だからこそじゃないか、真面目って事は良い意味だけじゃないんだ。真面目に悪い事をする奴もいる。それにマリベルは明らかに嘘を付いていた、異世界人が捕まったらどうなるか分からないと。死罪に決まってるじゃないか」
大山
「いや、死罪かもしれんですけど、どうなるか分からんからそう言ったんじゃないですか?」
深澤
「この世界では俺達の命は軽いんだよ。マリベルが
大山
「オーブを取り戻して、と、殺しちゃ駄目、でしたっけ?」
深澤
「そうだよ、マリベルは殺しちゃ駄目と言ったんだ、何でだと思う?」
大山
「間違って殺さんよう注意してくれたんですかね?」
深澤
「マリベルは言ってたじゃないか
深澤は独り言のように呟いた、
「多分、間違ってじゃないんだ…」
大山
「?」
深澤
「人を殺す事を前提として扉の外に居たって事だよ」
「大山は人を殺したいか?」
大山
「い、嫌ですわ」
苦虫を潰したような顔で大山は首を振る。
深澤
「俺もそうだよ、嫌だよ。悪人じゃないんだ普通誰だって嫌がる。だからこその人猿だよ。
ごくりと大山の喉仏が鳴る音が部屋に響いた。
「か、課長、だとしてもですよ、殺すつもりは無いと思いますわ。だってあん時、人猿に殺しちゃ駄目って言ってくれたんですから」
深澤
「殺さないじゃなくて、殺せないだったとしたら?」
大山は眉を顰めて首を捻る。
「課長、滅茶、難いですわ。整理させて下さい、ゲート内では異世界人は死んでも問題ない。異世界人がゲートの外に出るとマリベル達が死罪になるから人猿に殺させる。ここまでは合ってますよね」
深澤
「ああ、合ってる」
大山
「異世界人がゲートの外に出たけど人猿に殺させなかった。その理由は殺せない理由が有ったから。これも合ってます?」
深澤
「ああ、理由は恐らく二つ、1つ目は殺さない理由だ、あの時はまだ俺達をゲートの中に戻すという選択肢が残ってたろ、異世界人は異世界の中にいれば例え死んだとしてもゲートボスさえ倒せば何事も無かった様に元の世界に帰れる。これはマリベルが俺達の事を思っての選択理由だ。」
大山
「それならワシも分かります」
深澤
「次に殺せない理由だけど、あの時お前は扉を締める為にオーブを台座から取ったよな? だから殺せなかったんだと思う。オーブを持った者は殺せない、何か理由が有る筈だ」
大山
「オーブですか? 手に取ったらビリッとした感じしましたけど」
深澤
「大体オーブの事が一番不可解なんだ、あの異世界の扉を開ける事が出来るオーブだぞ。何で簡単に貰えるんだ? 割れた時もそうだった、とんでもない力が封じ込められていても、おかしくないのにガラス玉のようにただ砕け散っただけじゃないか。オーブには何か秘密がある、恐らくマリベルも知ってると思う。俺達に隠しているんだ」
「ゲートを開く為のオーブの申請、その後の報告義務、ゲート内限定の召還魔法、そして人猿。こんなに徹底してるんだ、マリベルが王宮で俺達の事を上手く誤魔化せると思うか、ばれるに決まってるだろ、もしばれなかったとしてもマリベル自身が少しでも疑われたと思ったら、暗に俺達を始末した方が今後生活するうえで不安材料が無くなるんだよ」
大山
「ほ、ほんならどうします? 今から逃げますか?」
深澤はまだ成り止まないレベルアップの音に、再びその重い頭を枕の上に置いた。
「いや、その必要は無いと思う。それに俺達も生活の目処が立ってないんだ、マリベルは必要不可欠だ。でもマリベルにはこの事を言うな絶対にな」
大山
「分かりました、ワシ絶対に言いません」
時の神…もしも時間が戻せるのなら………
深澤は天井を見つめて考える。
個々ならば問題は起きない…いや…いくら何でも虫がよすぎる…恐らくは大山も一緒……しかも一度きり……となると大山を……………
窓から西日が射す頃にようやくレベルアップの音が鳴り止んだ。
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