第9話 王国の決まり事

 俺は工場での仕事を思い出していた。何時もとは違う音、若年の頃は確認を疎かにした、結果、決まって後になって割を喰う。


 壮年になってからは必ず確認した、結果、何度確認して良かったと思った事か。


 やはりマリベルに確認してからするべきだった。


マリベル

「二人はもうこの世界に同調してしまったからゲートボスを誰かが倒しても二人だけ元の世界に戻れないの…まだ同調さえしてなければゲートの中に戻って帰れた可能性があったけど…」


大山

「分からんて!! だったらあん時そー言うたら良かったやん! ワシのせいやないで!」


 大山はマリベルに大声を張り上げると俺の顔をちらりと伺った。


深澤

「いや、あの状況では俺達に死ぬ覚悟は無かった筈だろ、より一層混乱するだけだったと思う。それにお前の所為だとは思って無いよ、お前が同調してステータスを見れるようにした時、俺もその事にあまり疑問を持たなかったしな」


大山

「そ、そうでっか」

(あー良かった、課長のこういうとこ好きやねん)


深澤

「マリベル、そうなるともう俺達は元の世界に戻る選択肢は無くなったのか?」


 彼女が否定してくれる事を期待する自分がいる。まるで二択のギャンブルのように。


マリベル

「はい、無くなりました」


 あまりにもあっさりと外れ落胆する。


 マリベル

「……けれど非現実的な方法なら可能性が全く無いわけではないです。神界に住むと云われる時の神クロノスとカイロスの力を借りる事が出来たらの話しですけど…殆ど不可能に近いと思います」


 外れからの復活パターンのように彼女は喋りだす、だがそれは俺にとっては元の世界に帰る以上のものだった。

 

大山

「何で不可能なんけ?」


 マリベルは大山には目もくれず、深澤を見て口を開く。


マリベル

「まず、現実的には精霊界は確認できていますが、それ以外の存在は確認出来た事が無いとされているからです。それに、仮に神界が確認出来たとしても、人の身でありながら最高位神に謁見は疎か、その御声を拝聴するなど正気の沙汰とは思いません」


深澤

「確認出来た事がと断言しないのは何故なんだ?」


マリベル

「それは王国が抱える問題の一つ、ブラッドメイジの存在です。私達が魔法を使える事が出来るのは精霊界の住人達との契約によるものです。王国で禁止されている闇魔法も精霊界の住人達との契約によって成り立ちます。しかしブラッドメイジが使う闇魔法はそれ以上の力を持っているのです」


深澤

「つまりは精霊界以外の住人との契約が行われたという事か。」


マリベル

「はい、おそらく考えられるのは魔界…そして現実に魔界が存在するのなら天界、さらにその上の神界も現実に存在するという考えです」


大山

「契約って精霊界でするのけ?」


 マリベルはため息をついた。


「契約は王宮で召還魔法を使ってやるの! 話の邪魔をしないで下さい!」


深澤

「召還魔法は空間移動魔法と違うのか?」


マリベル

「違います。召還魔法は王宮で宮廷魔導師監視下の元、習得する事が出来ます。但し使用条件が付きます。法的には、召還魔法はダンジョンのゲート内のみ使用できます。契約者を召還して、ゲート内のモンスターを鏖殺する事が目的とした場合にだけ、召還魔法の使用が法で許されています」


深澤

「それ以外で使用したらやはり重罪か?」


マリベル

「はい、一方、空間移動魔法は習得する事自体許されていません。重罪人の逃亡防止の為にと言われています。そして、誰がどんな魔法を使えるか王国が把握する為に、契約は必ず王宮で行います。逆に言えば王国側は法の元に如何なる魔法でも使用できるという事です」


深澤

「大体の話は分かった。最後にオーブについて教えてくれ、オーブって何だ? 簡単に用意出来るのか?」


マリベル

「オーブはゲートを開くのに必ず必要なもので、扱いには慎重を要します。王宮で申請すれば直ぐに用意して貰えます」


深澤

「費用は?」


マリベル

「掛かりません」


深澤

「そうか、助かった。取り敢えず俺のほうは大丈夫だ、大山は他に何かあるか?」


大山

「1つだけいいですか。マリベルワシええ事思い付いたんやけど、オーブでまたゲート開いて仲間に蘇生呪文掛けたらええやん!」


マリベル「…………そんな魔法は無いの……一度死んだ人間は生き返らない……………」


大山

(アカン、変な空気なってもうた)


マリベル

「じ、じゃあ私の方ですけど、王宮にゲート内での出来事を報告しに行かなければなりません。勿論、御二人の事は言いません。報告が終わった後は特には有りませんが暫くの間、一緒に行動したいと思っています」


大山

「ホンマに?」


深澤

「監視か?」


マリベル

「まだ二人共、この世界の常識を知らないですよね、ボロが出ると私も困るの、だから暫くの間宜しくお願いします」


深澤

「分かった、此方こそ宜しく頼む」


大山

「何かあったらワシにも言ってな」


マリベル

「じゃあ支度したら王宮に行って来ます。夕方には戻れると思うから」


 マリベルは一階の酒場に下りると、宿の店主に別の部屋をもう一つ借りたいと申し出た。店主は何も聞かずに鍵をくれた。二階に上がっていくマリベルを見送る店主。宿代を持つその手は、ぶるぶると震えていた。


 









 マリベルが出て行った後、暫く経ってから深澤は、重い頭を起こして大山に告げる。


「大山、マリベルの事だが、彼女には気を付けろ。王宮から戻ったらマリベルは俺達を殺すかもしれない」









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