第8話 深澤と大山の失態

 あの日に帰りたい、それが叶わぬのなら、せめて彼女の夢を見たい。ベットに入っていつものように眠りに就く前に念じてみる。異世界に来てもそう願い今日も眠りにつく。


 朝になって目覚めるが、いつものように瞼は閉じたままだ。女のすすり泣く声が聞こえる。願いを込め、ゆっくりと目を開けてみる。


 最初に目にしたのは泣き崩れたマリベルの顔。どうして彼女が此処にいるのだろう。マリベルは黙ったまま首飾りを俺に見せてきた。


 3つの石は輝きを失っていた。掛ける言葉を少し考えたが何も言わない事に決め、泣いているマリベルをただ見ているだけだった。


 少し休ませて欲しいと言うので俺は部屋を出た。店主が人猿の手を引き、悲鳴を上げながら1階に駆け降りて行くのが見えた。


 隣の部屋を覗くとベットに大の字で大山が寝ている。ひどい匂いがしたので起こしてシャワーを浴びるよう促した。



深澤

「そういえば俺が廃材の山に登った時、みんないなかったけど何があったんだ?」


大山

「あ、あん時ですか? 何か出入り口にデッカイ扉見えたからみんなで見に行ってたんですわ。そしたらデッカイ蟻出てきて大変でしたわ、ホンマでっせ」


深澤

「そうか、やはり…。それにしてもお互い大変だったな、それで此れからどうするよ? 異世界だってさ」


 今滞在してる宿屋は1階が酒場になっており食事や消耗品の売買をまかなえ、そこにはダンジョンに往き来する冒険者がたむろっている。

 

 二階は宿になっていて、部屋の扉が廊下を挟み左右に8つ程並んでいて、その内の2部屋を我々3人が借りているのだ。


 窓を開けて顔を出すと石畳の道が左右に伸びており、西にはすぐ隣に武器屋がありその先にはうっすらと町の景色が見える。


 一方、南側には視界一面に拡がる森が見え、東の先には言わずと知れたあのダンジョンがある。


大山

「課長! 異世界でっせ! まずはレベルあげな何かあったら大変でっせ! モンスター倒しに行きましょ!」


 がたいのいい大山は腕に自信があるようだが相手は人ではない、怪物なのだ。俺は却下した。


「モンスター倒すって、俺達武器持って無いだろ」


 そもそも異世界というものは、10代の若者が誰かに召還されて世界を救う、そんなイメージしかない。


大山

「ワシ達なら素手でいけますって! 結構強いと思いますよ!」


 そして万全とはいかないまでも、最低限の初期装備と説明があるイメージなのだが。


深澤

「どんだけ強いんだよ」


 何故、この歳で仕事中に来る羽目になったんだろうか。意味が分からない。


大山

「ちょっと待って下さい!」


「ステータス!」


 大山は声をあげると目の前の空間を見て訝しがる。


「何や、同調しますか?って」


深澤

「何だ? 何してんだ?」


大山

「ステータスって言えば、自分の能力見れるんですわ。課長も言ってみて下さい!」


深澤

「ステータス」


 そう言うと確かに目の前に2Dの青い画面が浮かんだ。


「あ、俺も同調しますか?って出てるぞ」


大山

「じゃあ、はいにして下さい」


深澤

「いやお前が先にやれよ」


大山

「多分、大丈夫ですから」


深澤

「マリベルに聞いてからにするか?」


大山

「マリベルにですか? あの課長、実はマリベルの事で課長に言っとかなあかん事がありまして…」


 確か昨日の晩、彼女の部屋に大山は行ってきた。何か重要な話しを聞かされたのだろうか。


深澤

「何?」


大山

「あ、やっぱりいいですわ。今度言いますんで」


深澤

「じゃあ最初から言うなよ」


大山

「すんません」


深澤

「そういえばさっきマリベル泣いてたぞ、仲間死んだみたい、首飾りの石、光って無かったからな」


大山

「ホンマですか! やっぱりワシの言った通りになったじゃないですか! 絶対にアカンと思うてましたもん! ええ気味だと思いません?」


深澤

「いや別に。それよりお前、後で慰めてきてやれよ、そういうの得意だろ?」


大山

「分かりました、後でワシ慰めにいきますわ」


「まあでもこれって普通に考えたら、この世界に同調しますかって意味やと思うんですわ。ちょっと自分はいにしてみますわ」


《同調しました》


種族 人間 


Lv0


体力 G

魔力 G

筋力 G 

素早さ G 

物理攻撃力 G

物理防御力 G

魔法防御力 G      

 

魔法


契約 


特性 ?????


大山

(……数字ちゃうんけ?、分かりにくいわぁ、ギガントのGなのけ?、もしかしてジャイアントのGかもしれん。あ! 何か特性付いとる! もしかして勇者の素質け? せや! 絶対そうや!)


「見れるようになりましたわ。課長もはいにしてみて下さい」


深澤

「分かった」


《同調しました》


《蓄積されたエナジーが適応されます》


レベルが上がりました レベルが上がりました

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レベルが上がりました レベルが上がりました

レベルが上がりました レベルが上がりました

レベルが上がりました……………………

    


 突如として頭に鳴り響くレベルアップの音に俺は困惑した。


「何か凄え鳴ってるわ」


大山

「何がですか?」


深澤

「駄目だ、ちょっと休んでくるわ」



 二人で部屋に戻るとマリベルは少し落ち付きを取り戻した様子でベッドに座っていたので、ステータスを見れるようにした事を話した。


 マリベルは口を押さえ何かを考えているようだった。その表情は険しい。


 俺は少し気になったがずっと頭の中で鳴っているレベルアップの音に負けて自分のベッドで少し横になった。


 10畳程の部屋に大人三人は少し狭苦しく感じる。大山は椅子に腰掛けマリベルに優しく声を掛けた。


「マリベル大丈夫け?」


 大山を睨むように見るマリベルは、何も答えない。


大山

「ワシ、何時でも相談に乗るから何でも言ってな?」

(何なんこの態度! 昨日は自分から腰振ってた癖に!)


マリベル

「相談なら深澤さんにします、それとずっと気になってたんだけど何か話し方変じゃないですか、なまりが酷くて正直分かりにくいんですけど」


大山

「そ、そうけ? あっちの世界じゃこの話し方は普通なんやけど」

(ワシがどんだけ西の人間の話し方を勉強したか分かっとんのけ! 人のチャームポイント馬鹿にしくさって!)


マリベル

「それより深澤さん少し話せますか?」


深澤

「んー寝たままでいいなら」


マリベル

「昨日とは状況が打って変わってしまいましたので、今後の事を話したいのですが、まず私達三人の現状の確認をしたいと思います。まず、ダンジョンでも言いましたが今の私は重罪人です。二人も王国に知れたらどうなるか分かりませんので呉々も行動には注意して下さい。そして、もうお分かりになってると思いますが、お二人は異世界の方です。本当ならばゲートの中に居なくてはいけませんでした」


大山

「死んでたやん!! あのままおったら死んでたやん!!」


マリベル

「ちょっと大山さんは黙っていて下さい! 私は深澤さんに話しているんですから!」


深澤

「大山、取り敢えず最後まで聞こう、なっ」


大山

「はい…」

(ホンマ課長が居ると言いたい事も言えんわ)



マリベル

「理由は二つあります」


「1つは王国の決まりです。異世界の生物は人、モンスター問わずゲートの外に出してはいけず此れを破りし者は如何なる理由を持ってしても重罪と処す、とあります。この重罪という文面ですが、死罪としない理由は貴族を保護する為にあります。犯した者の身分によって罪の重さが変わる為に重罪という文面が使われているんです。」


深澤

「マリベルはどうなんだ?」


マリベル

「私は王国に貢献してきたけど貴族じゃないから死罪だと思う」


深澤

「そうか…2つ目は俺の為って奴か?」


マリベル

「そう、異世界に居ればゲートボスさえ倒せば何事も無かったように元の世界に帰れた筈なの、たとえ命を失ったとしても…」


深澤

「何だよ、じゃあゲートの中で死んでいれば、いずれ誰かがゲートボスを倒した時に自然と帰れたという訳なのか? ……なら、またゲートを開けて中に入れば良いんじゃないか? まあ死ぬと思うけど、なあ、大山?」


大山

「課長! 痛いでっせ! ワシ痛いの嫌ですわ」


深澤

「平気だよ大山、何事も無かったように帰れるって事は痛かった記憶も無くなるって事なんだから。そうだろ? マリベル」


 押し黙ったままマリベルは答えなかった、その顔はとても暗い表情だ 


深澤

「どうした? マリベル違うのか?」


マリベル

「それが……もう駄目なの、


 彼女はぽつりと呟いた。




 調













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