第7話 マリアベル

 夜更けの空気の中でドアを叩く音が響いた。ドアを開けると其処そこには大山さんが立っていて私は背中に冷たいものを感じた。


 頬がほんのりと赤く、にやにやと不敵な笑みを浮かべていた。少し話があると言う、夜も遅いし、明日ではいけないのかと説き伏せるが、重要な話だと引き下がらない。


 ならば深澤さんと三人でと提案するも、深澤さんの事なので話せないと言う。ならばこのまま此処ここで話を聞こうとするも、異世界人だから目立ちたくないと言う。


 他に断る理由が思い付かず仕方がなく部屋に招き入れた。


マリベル

「それで話って何ですか?」


 手短に終わらせたかったので立ったまま話しかけた。


大山

「それでな深澤さんなんやけどな、帰れんからもう死にたい言うて塞ぎ込んどんのや」


 隣の部屋の深澤を気にしてか、いつもの大声を出さないが大山は図々しく、どかりとベットに腰掛けた。


 口からは酒の匂いがする少し酔っているようだ。


マリベル

「本当ですかそれ、さっきまで普通でしたけど」


 大山の言葉に私は訝しんだ。


大山

「あんたにそんな所見せるわけないやろ、ワシの前だから弱いとこ見せてんねん。ワシらは二十年同じ釜の飯食ってきとんやぞ、あんたに何が分かるんや、あんたいくつや?」


マリベル

「22才ですけど…」


大山

「ほう」


 大山は舐めるように私の体を見ている。思わず胸を隠すよう二の腕を掴んで視線を逸らした。


大山

「まあええわ、ほんでな、あんたどうする?」


マリベル

「どう…する?」


 何故こんな事を言われるのか解らずににおろおろしてしまう。


大山

「そうや、どうするんや?」


 険しい顔で此方こちらを睨む大山に恐る恐る聞いてみる。


「どういう…意味ですか」


大山

「どう責任とれるんや」

 

 そう言いかけると、大山は立ち上がり胸を鷲掴みして愛撫してくる。


大山

「ホンマにエロい体しよって」

 

マリベル

「ちょっと!」

 

 両手で大山を突き放す。すると大山は太々しい顔で口を開く。


「ワシな、深澤さん死にたいって言ってる以上ワシもどうなったっていいんやで。異世界人ですーっていい振らしてもええんや。そしたら困るのはあんたと違うんけ? 重罪人ちゅーぐらいやから下手したら死罪もあるんちゃうの? ばれてもいいのけ?」


マリベル

「最低ですね、脅迫してるんですか」


 マリベルが睨み付けるとその目を見て大山は笑みを漏らした。


「脅迫ちゃうで。でもワシの心ひとつちゅーのは忘れんといてな。ワシかて自分大事やし、マリベルちゃんが自分の女だったら大事にするで。只それだけの話しっちゅー事や」


大山

「それにな、別にワシは嫌いな女にこんなこと言わんで。好きやから言うとるんやで。見てみいてもうこんなんになってるんやで」


 大山はズボンとパンツをり下ろすと膨張したものをマリベルに見せつける。


マリベル

「ちょっと! 本当に止めてください!」


 マリベルは顔を背ける。大山のそれを見ないようにするが、大山が抱きついてきて、太股に擦り付けるように腰を振る。


大山

「ワシここまでしとるんやで、ワシに恥を掻かせる気け? もう堪らんて、自分もホントは濡れとるんちゃうんけ?」


 マリベルは閉じた太股をこじ開けようとする大山の手を必死に押さえた。


マリベル

「そんなことありません!」


 大山は眉間にしわを寄せた。


「何や自分! 偉そうに! ほんなら触らしてみいや! ほんまに濡れてないんやったら諦めたるわ! 」


マリベル

「………」


大山

「早よせえて! 早よ脱げ! 」


マリベル

「………」


大山

「ああ!! もうええ!! 腹立つわほんま!!」


 どん、と床を蹴飛ばすと大山はズボンを履き直し、白々しく声をあげる。


「せやな! ワシもこんな恥掻かかされて死んだ方がましや! 異世界から来た言うて死刑にして貰お! うん、そうや! その方がええわ! あんたも深澤さんも巻き添え喰うけどしゃあないわな!! しゃあない、しゃあない」


マリベル

「……分かりました…」


大山

「ホンマけ!! 嘘ついたら針千本やで! 」


 大山は満面の笑みでマリベルの顔を見た。


マリベル

「…服を脱ぐので後ろを向いて下さい……」


大山

「焦らすやんけ!」


 そう言って大山は嬉しそうにくるりと後ろを向いた。


マリベル

上級精神操作魔法サイキアトリックLEVEL-3」

上級幻覚魔法ハルーシネイションLEVEL-3」

上級混乱魔法コンフュージョンLEVEL-3」


 私は部屋を後にして、1階の酒場に下り、店主に一匹の人猿を借りた。店主が訝しんだので、大銀貨をもう1枚を渡すと訳を聞かないでくれた。


 部屋に戻り人猿を入れドアを閉める。後はどうなっても知らない。


 隣の部屋をノックするが、どうやら深澤さんは寝ているようだった。私は部屋に入りもう一つのベットに潜り込んだ。


 ふと首飾りが目に映り、目から涙が溢れて、しくしくと泣いた。そしていつの間にか眠りについていた。


 ロイの夢を見た。宿の部屋で二人きり。ロイの顔は綺麗な人間の顔をしていた。


 私はロイを引き寄せて、首に両手を回してキスをした。それから二人でベットに転がった。ロイが私の上になって、胸の谷間に顔を埋める。私はロイの頭を優しく撫でさすった。


 そして重なり合おうとしたその時に、突然ロイの背後に大きな蟻の頭が現れた。ロイはその恐ろしいあぎとの中でゆっくりと死んでいった。



 朝になって目覚めたが、昨日の事を思い出してまた泣いた。深澤さんが驚いた表情で私を見ていたので、黙って首飾りを深澤さんに見せた。深澤さんは黙ったまま私を見ていた。











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