第6話 レグルスとロイの絆

白銀魔法使い

(退路が断たれおったか…荷物運人猿びも連れて来るべきだったのう、想定外じゃて、其れにしてもまさかこれ程とは、アイスクルソードで傷一つ付かぬとは底知れぬ固さじゃて)


白銀魔法使い

「勇者は下がっておれ、これより儂が采配を振るう」


白銀勇者

「いけるのか?」


 白銀魔法使いは白銀勇者の問いに直接的には答えなかった。


白銀魔法使い

「ジャイアントアダマントアントを、此れよりナイトメア級と判断して取り扱う」


 二人に緊張が走る。ナイトメア級…それは生き残れない事を前提とした死闘だからだ。


白銀魔法使い

「闇魔法の使用を許可する。騎士よしばし動きを封じよ」


白銀騎士

「御意」

上級闇魔法ペインチェーンLEVEL-3」


 白銀騎士の胸から暗黒のオーラをまとった鎖が飛び出し、じゃらじゃらと螺旋らせんを描くとアダマントアントの体に巻き付き拘束した後に魂と結び付く。


白銀勇者

(禁断の魔法…闇魔法…騎士は使えたのか……王国に知られたら死罪じゃないか)


白銀魔法使い

上級移動魔法クイックステップLEVEL-3」

上級火炎魔法バーニングタッチLEVEL-3」

 

 白銀魔法使いが消えたと同時に、アダマントアントの背後に突如姿を表し、燃え光る左手をその腹部に押し付けるとアダマントアントの甲殻が瞬く間に真っ赤に焼ける。尻先がひくひくと動くが白銀魔法使いはそれを見逃さない。


白銀魔法使い

上級火炎魔法フレイムウォールLEVEL-3」

 

 炎の壁が白銀魔法使いを包み込み、勢いよく放出した蟻酸を防ぎ止める。


白銀魔法使い

上級雷魔法ライトニングLEVEL-3」

 

 一億ボルトもの雷が天よりアダマントアントを打ち叩く、計り知れない電撃を体に受けアダマントアントの足という足が一瞬にしてピンと紐で引っ張られたように伸びて、ばたばたと上下に激しく震える。


白銀魔法使い

(微々たるものだがダメージは通る…、じゃが此れでは魔力が尽きるのが先か…勇者の物理攻撃では火力不足じゃし…せめて勇者のレベルがもう少し高ければ………致し方ないか…) 


白銀魔法使いが白銀勇者のほうを向く。


白銀魔法使い

「勇者よ死ぬ覚悟はあるか?」


白銀勇者

「…ある!」


白銀魔法使い

「ならば騎士の首を跳ねよ!」


白銀勇者

「騎士の首を…跳ねる?」


白銀魔法使い「そうじゃ勇者よ、お前が跳ねるのだ!」


白銀勇者

「何故だ!!何故そんな事を!!」


白銀魔法使い

「今、騎士とアダマントアントの魂は魂の鎖に寄って繋がっておる。騎士が死ねばアダマントアントも死ぬのが道理」


白銀勇者

「そんな事を聞いてるんじゃない!仲間だろ!!」


白銀魔法使い

「騎士も覚悟は出来ておる!無論鷲もな。お主もそう答えた筈じゃ」


白銀勇者

「でも……他に方法が…火蜥蜴サラマンダーを召還したらどうだ?火蜥蜴サラマンダーなら」


白銀魔法使い

「勇者よそれは悪手じゃて。火蜥蜴サラマンダーでも恐らくは無理じゃ」


白銀勇者

「な、なら、此のまま、此のまま少しずつダメージを与えたらいいじゃないか!」


白銀魔法使い

魔法回復薬エーテルも無しにか?持ってきた道具は全て荷車の中じゃ、勇者よ分かってくれ、鷲の魔力にも限りがある。此れが最善の方法なんじゃ」


 白銀勇者は両手大剣を握り締め、幾度となくアダマントアントに切りつける。


白銀勇者

「くそ!くそ!くそおおお!!」


白銀騎士

「構わん…斬れ!」


白銀勇者

「出来ない!それでも俺には出来ないんだ!」


白銀勇者

「何で俺なんだ!魔法使い………じ…ゃ駄…目…か」


 白銀勇者は懇願こんがんするが、魔法使いの顔を見る事が出来ない。失望の眼差しを見るのが怖かったからだった。


白銀勇者

「ァアそうだよ……口だけ野郎の足手纏いだよ!」


 白銀勇者は、長年溜め込んだ心の内をさらけ出した。


白銀勇者

「ピエロだと分かってピエロやってたんだ。

勇者何て名前だけじゃねーか!」


 がっくりと膝を尽き両手で力一杯土を握りしめる、その手の甲には、ぽたぽたと涙と涎が混ざり合いとどめなく落ちていた。


白銀勇者

「それなのにみんなして勇者、勇者って…」


白銀魔法使い

「心を弱い方に流されるな!確かにお前は弱い。だが一度足りとて足手纏あしでまといいと思った事は無い。鷲は過去じゃがお主は未来なんじゃ」


白銀勇者

「じゃあ何で!何で闇魔法の事教えてくれなかったんだ!」


白銀騎士

「…済まん」


白銀勇者

「そ、それと…ずっと、ずっと僧侶の事が…お、俺はいつも興味ない振りして…お前と僧侶の事気が付かない振りして…二人のアイコンタクトが一々いちいち気になって嫉妬して…お前達二人を見掛けないとき俺がどんな気持ちだったか分かるかよ!」


白銀勇者

「…何で!何でちゃんと公言してくれなかっんだよ!そうしてくれてたら…まだ俺は…まだ俺は…」


白銀騎士

「僧侶の事は済まん…お前が気づいたように、俺達もお前が僧侶を意識してる事を気づき、とても困っていた。隠さないようにしたんだが逆に傷つけてしまっていたとは…本当に済まん」


白銀勇者

「謝るなぁ!!」

「謝るな頼むから謝らないでくれ…これ以上惨めにしないでくれ…」


 鼻水やよだれぬぐう素振りもせずにその汚ない泣き顔を白銀騎士に向け叫ぶ。


白銀騎士

「勇者…やはりお前は勇者だ。みっともなく弱い所をさらけ出す、とても勇気のいる事だ。だから…私もお前に堪える!全てを聞く覚悟がお前にあるか!」


白銀勇者

「騎士…」


 白銀騎士は墓場まで持っていくと誓った思いを意を決して口に出す。


白銀騎士

「勇者!お前は馬鹿で弱い!お前の感情を優先してる場合じゃないんだ!こんな事も分からないのか?僧侶からも迷惑だから何とかしてくれとよく相談されていた。お前と違って死ぬ覚悟も殺す覚悟も私はある!だから早く首を跳ねろ!


白銀勇者

「……あ、あおってるんだよ…な?」


 唐突な白銀騎士の言葉に白銀勇者は狼狽ろうばいした。


白銀騎士

「煽ってなどいない!逃げるな!しっかりと受け止めろ!お前は馬鹿の癖にメンタルが弱い!だからみんなお前が傷付かないように気を使っていたんだ。それとお前ごときが僧侶に夢見るんじゃない!」


 白銀勇者は呆然と立ち尽くすが、白銀騎士は優しく笑う。


白銀騎士

「もっと早くこうしてれば良かったな? いつもお互いに気を使って……勇者、いや、レグルス! 最後に本当に仲間になれて良かった、私は満足だ」


レグルス

「ロ、ロイ…」


 二人の魂が共鳴した。するとレグルスが勇者の本当の力に目覚める。溢れんばかりの激しいオーラに包まれる。


レグルス

「これが…俺の本当の力…」


白銀魔法使い

「信じられぬ、まさかこんな事が起きるとは…だがこれならば何とかなるかもしれん。騎士よペインチェーンを解除するのじゃ!今こそ3人で力を合わす時じゃ!」


 アダマントアントに三人は再度対峙する。


レグルス

「俺は誰一人として死なせやしない!」
















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