第4話 蟻の化け物VSコスプレ外国人
第1区画を越え、車両用通路を突き動かされるように前進する。第3区画前には人間の残骸が散らばっていた。覚悟はしていたが
扉の前にはRPGを模した格好の4人組がいた。その姿は妙に生々しい。勇者に騎士、魔法使いと僧侶といったところか。向こうもこちらに気づいたようだが扉の前から動こうとはしていない。
近づくにつれて4人組が日本人ではないのに気がついた。コスプレした西洋人なのだろうか? 髪の色が金髪や銀髪は分かるがピンクゴールドやブルーゴールドは地毛とは思えない。
金髪の若い男は勇者だろう、額に宝石の付いたハチガネを付けている。戦士ならこんな格好はしない。何故かこいつだけ巨大な剣をこちらに構えている。
隣には図体のデカイ騎士、ヘルムを被っていてその素顔は見えない。だがその身長故に男であるのは間違いないだろう。
右端にいるのは恐ろしく顔の可愛い僧侶、その容姿はピンクゴールドのロングヘアーにも見劣りしていない。
左端にはブルーゴールド色の髪をした小柄な魔法使いか、帽子を深く被っていてその顔はあまりよく見えない。
やっと目の前にたどり着き、息を整えてから
深澤
「can.you.speak.Japanese?」
白銀勇者
「キァンユースピークジャパニーズ? 何か言ってるぞ、済まん誰かグールの言葉分かるか?」
白銀騎士
「………」
白銀魔法使い
「………」
白銀僧侶
「………」
白銀勇者は流暢な日本語で話すがあまり賢くはなさそうだ、仲間達も冷たい目で見ている。
深澤
「日本語が分かるんですか! 信じられないでしょうが化け物が出たんです!」
懸命に訴えったが4人のリアクションは思った以上に低い。やはり信じられないのか。
白銀勇者
「化け物…」
白銀の勇者は何か言いたげな顔で俺の顔をちらりと見た。
白銀勇者
「大丈夫だ! 問題は無い! 俺たちに任せてくれ!」
何が大丈夫なのかは分からないが、コスプレ軍団にこれ以上構っている暇は無かった。こうしている間にも蟻の化け物が追いかけて来るかもしれないからだ。
深澤
「わ、分かりました、お願いします」
そう言って俺は扉に向かうが白銀の騎士が俺の行く手を塞ぐ。
白銀騎士
「済まないが貴殿を此処から出す事は
深澤
「ど、どうして!」
白銀僧侶
「あの…ご免なさいね、貴方は異世界の人だからこの扉の外には出ちゃいけないの。でも安心して、私たちがゲートボスを倒せば元の世界に帰れるから」
白銀勇者
「そう言うことだ!」
異世界…ゲートボス…少し信じられない。でもこの異常な出来事の全ての辻褄が合う…
深澤
「で、でも!」
白銀僧侶
「あの…私たちの平均レベルは100を超えてるの、貴方には分からないかも知れないけど私たちの世界ではとても凄い事なの。それに見て、私たちの装備全部白銀だよね。これって王国で最高級の装備なの。だから安心して、ねっ!」
白銀魔法使い
「上級魔法もLEVEL-3を多数契約しておるしな。と言っても御主には知る由もないか」
化け物が出るというの自信たっぷりな言葉にその落ち着き様、俺はコスプレ軍団を見る目がみるみる内に変わっていった。
深澤
「も、もしかして貴殿方は、伝説の勇者か何かなんですか?」
白銀勇者は大きく頷く。
白銀勇者
「俺たちは今迄に二つものゲートボスを倒してきた!今回も必ず倒してみせる!俺たちを信じるんだ!グールのおじさんは此処で待っていてくれ!」
白銀騎士
「………」
白銀魔法使い
「僧侶よ治してやれ」
白銀僧侶
「
身体中の痛みが消えていく。
白銀僧侶
「色々とごめんね、痛かったでしょ?」
何かを察知した白銀魔法使いは視線を俺の奥に移した。
白銀魔法使い
「!!!」
「勇者よ! 戦闘準備じゃ!」
先ほど仕留め損ねたであろう蟻の化け物が車両用通路に現れると白銀勇者は仲間達に指示を飛ばす。
白銀勇者
「目標捕捉! ジャイアントアント1体確認!前衛で足止めする! 後衛は氷結魔法及び防壁魔法を頼む! 掃討後も油断するな! 多数の戦闘に備え中級魔法までにしろ! 最終目標クイーン討伐と予想される! 行くぞ!」
白銀騎士はメイスを握りしめ、前に
白銀僧侶
「
白銀騎士と白銀勇者が透明なバリアに包まれる。
白銀騎士
「
白銀騎士から赤黒いオーラが立ち込める。蟻の化け物は白銀騎士を視界に捕えると真っ直ぐに向かい出した。
白銀魔法使い
「
白銀魔法使いの手から放出された凄まじい冷気が蟻の化け物に襲い掛かる。
深澤
「おおぉ!」
俺は震える程歓喜した。手に汗握るとはこの事だ。
深澤
(こなれている! 何という段取りの良さ! 実に頼もしい! みるみる内に蟻の化け物が魔法で凍りついてい………か無い!?)
白銀勇者
「馬鹿な!!」
白銀騎士
「本当にジャイアントアントか!」
白銀魔法使い
「なんじゃと!」
白銀僧侶
「
白銀勇者
「ぅおおおおお!」
蟻の化け物目掛けて空高く飛び上がり大きく両手大剣を振りかぶる。
白銀勇者
「奥義ファイナルブレイク!!」
白銀勇者の両手大剣が蟻の化け物の頭部に当たった瞬間、甲高い音と共に白銀勇者は両手剣ごと後ろに弾かれた。
白銀勇者
「ば、馬鹿な!!! 俺の最強の斬撃技だぞ!!!」
蟻の化け物は白銀勇者の攻撃をものともせずにその突進でシールドを破り白銀騎士をふっ飛ばす。
白銀勇者
「一撃!!? 中級防壁魔法レベル3のシールドが!!?」
白銀騎士は、よろよろと立ち上がると、メイスと楯を腰に戻し、背負っていた巨体な楯を地面に突き刺して、両手で構え防御に徹した。
白銀僧侶
「!!!」
「た、ただのジャイアントアントじゃありません!アダマント!ジャイアントアダマントアントです!」
白銀勇者
「ジャイアントアダマントアント? 物理攻撃無効なのか!!?」
白銀僧侶
「ぶ、物理攻撃は効きます! 魔法攻撃よりも物理攻撃の方が有効です!」
白銀勇者
「くっ…!」
「魔法使い!
白銀騎士
「無理だ!! 楯がもうもたん!!」
蟻の化け物は楯を紙切れのように食い千切っている。
白銀魔法使い
「ならば! ミスリルゴーレムさえ貫く霜の巨人ユミルの刃を受けて見よ!!」
「
白銀魔法使いの上空に現れた1000本の氷の剣が円を描くと次々と
白銀僧侶
「みんな! 一旦扉の外に!!」
白銀僧侶は扉へと走り出した。慌てて俺も付いていく。
白銀僧侶
「駄目!! ご免なさい、貴方は本当に駄目なの、可哀想だけど貴方の為でもあるの、外に出てしまうと…」
大山
「あきまへんで!!」
そう叫んだのは大山だった。大山が鬼の形相で事務所から飛び出しできたのだ。
大山
「あんたらさっきから好き勝手言って!! 逃げるなら課長も一緒に連れてかなアカンで!!」
深澤
「大山! 生きてたのか!」
大山
「課長! ここはワシに任せて早く逃げて下さい!この会社はワシが死んでも守りますから!!」
深澤
「い、いや大山1人ここに残す訳にはいかないだろ!お前も一緒に行こう!」
大山
「分かりました!! 課長がそう仰ってくれるなら死ぬまで付いて行きます!! もうワシと課長は一心同体や!!」
白銀僧侶
「駄目! 戻って、お願い!」
白銀僧侶は扉から外に出ようとする俺たちを引き戻す。大山が凄い剣幕で声を上げた。
大山
「あんたな!! 自分だけ扉の外に出てワシらに死ねちゅうんけ!! 仲間も死にそうやんけ!助けにいったほうがええんちゃう!! そんなに自分が可愛いのけ!!」
白銀僧侶は白銀騎士に目を移すと慌てて詠唱を始める。
白銀僧侶
「
大山
「今や! 課長も急いで下さい!」
大山と俺は扉の外へ出る事に成功した。かなり広い洞窟、最初に俺はそう認識した。今いる場所が地上ではない事だけは分かっている。
扉のすぐ側には荷車が停まっていて、毛むくじゃらの猿がそこにちょこんと座っていた。猿というよりも人と猿の中間に位置する外見で、未来のチンパンジーを想像した。
大山
「ワシに任せて下さい! 多分これや!」
大山は台座に嵌め込まれたオーブを取り外した。
大山
(何か今ビリッとしたで! してへんか?)
白銀僧侶
「あぁ、駄目扉が閉まっちゃう!」
大山
「ワシよくゲームやってるから大体わかるんですわ!」
白銀勇者
「僧侶! 扉は任す!」
白銀僧侶
「
人猿の目の奥が妖しく光り大山を睨み付ける。
「えいぶる、とりもどす。えいぶる、ころさない」
大山は危険を察知したのか、逸速くオーブを床に叩きつける。白銀僧侶は扉が閉まりきる前に、間一髪くぐり抜けてきた。人猿は砕け散ったオーブを手で集めている。扉はもう完全に閉まっていた。
白銀僧侶
「何て事を……」
大山
「ワシのせいやないで! この猿が襲いかかろうとしてきたからや! それにアンタらがいけんとちゃうんけ! 最初からワシらの事出したったらえかったやん!」
大山は俺の方をちらりと見る。
深澤
「なあ、何で俺達は扉から出ては駄目だったんだ?」
白銀僧侶
「ご免なさい、王国の決まりなの」
大山
「そんなん知らんて!!」
白銀僧侶
「重罪なの! 貴方達を出してしまったから私たちはもう重罪人…それに…」
深澤
「別に責めるつもりは無いんだ。君達にも事情があるだろうし。ここは両方悪く無いという事で、取り敢えずお互い良しとしないか?」
白銀僧侶
「分かりました…ご免なさい」
白銀僧侶は小さな声で言った。
大山
(ワシは謝らんで!)
大山は、ふんと鼻から息を吐いた。
深澤
「取り敢えず、これからどうすればいい? 俺達この世界の事何にも分からないんだ」
大山
「そうや! それくらい教え貰わんとあかんで!」
白銀僧侶
「えっとじゃあ、新しいオーブを取りに戻りたいから一度町に戻ります。この世界の事は道中説明しますので。お名前を聞いてもいいですか? 私はマリアベル。マリベルって呼ばれてます」
深澤
「俺は深澤」
大山
「ワシは大山や! ちょっと一つだけいいでっか? 変な意味やないで! 仲間もつんけ? 無駄ちゃうん」
マリベルは掛けていた首飾りを取り出す。
マリベル
「えっとまだ大丈夫です。この首飾りは3つの石から連なっていて仲間の魂と呼応して光るんです。まだ皆生きてます。それに勇者はともかく魔法使いはとても強いからきっと何とかしてくれる筈です」
大山
「勇者って弱いんけ?」
マリベル
「ご、誤解しないで下さい、魔法使いが強すぎるだけです。それから私からも一つお願いがあります。今の私は重罪人です。二人も王国に知れたらどうなるか分かりませんので呉々も行動には注意して下さい」
一瞬大山の目が怪しく光る、その下には冷たい笑顔が浮かんでいた。
マリベル
「じゃ、じゃあ出発しましょう。
大山
「ちょっと待った! 歩いて行くのけ!? 転移魔法とかで行くんじゃないのけ!?」
マリベル
「空間移動魔法の契約は王国で禁止されてるの。だからダンジョンでは人猿に荷物を運んで貰うのが一般的かな。この子は
この世界には昔から幾つかののダンジョンが有り、その深さに比例してその殆どがまだ未攻略らしい。モンスターの強さ云々ではなく、その深さ故に食料が持たないとの事だ。あるダンジョンでは1ヶ月かけて攻略に望んだが、食料が尽き泣く泣く断念したという。
ダンジョン内には、
町に着く頃には辺りが暗くなっていた。有難い事にマリベルは宿の手配をしてくれた。久しぶりの食事という事で胃袋が重くなる程詰め込んでしまう。少し食べ過ぎてしまって苦しいぐらいだ。
大山はこの世界の事をもう少し聞いてくると部屋を出て行き、俺は酷く疲れていて、泥のように眠りについた。
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