第4話 なんらかの方法で
地下鉄の駅前にある交番に飛び込んだ後の、麻子の記憶は定かではない。
交番に着くまでの間、圭吾に電話をした気もするし、到着した後、パニックになった自分の代わりに警官がしてくれたような気もしていた。
入浴のために十数分間リビングを離れた後、戻ってみると、身に覚えのない缶ビールがテーブルの上にあったこと。
麻子は交番にいた警官二人に、息も絶え絶えに訴えた。
「留守中に入った空き巣が、あなたの帰宅で出るに出られなくなって、家の中に隠れていたか。痴漢が何らかの方法で侵入して、家の中で隠れたまま、あなたの帰宅を待ち構えていたのかも」
警官は、出動準備を整えながら麻子に淡々と言い放つ。
また、シャワーを浴びて部屋着を着て、そのまま逃げてきた麻子には、警官からフリースのブランケットとバスタオルが渡された。椅子に腰かけた麻子は礼を言い、ブランケットに包まった。
「それじゃ、ご自宅まで同行して頂けますか? 恐いでしょうけど、こちらも二人で行きますので」
真摯な口調で告げられて、麻子は力なく頷いた。
本当は、マンションに帰ると思っただけで血の気が引くほどおぞましい。だが、実際に侵入されていたのなら、この突拍子もない現象を、虚言ではなく明白なものにしておきたい。そのためにも現場検証に立ち会わなければ。
「……わかりました。お願いします」
麻子は交番の正面につけられた、警察車両の後部座席に乗り込んだ。貸してもらった警官の、私服のブルゾンとバスタオルを肩にかけたが、身体は小刻みに震えていた。
運転してくれる警官に道順を伝えつつ、自分で自分を抱きしめるように小さくなって項垂れる。バッグの中では携帯の着信音が数分置きに鳴っていた。だが今は、誰とも話をしたくない。
一番無防備でいていいはずの、聖域ともいうべき家の中を侵害されたショックと恥辱で発狂しそうになっていた。
それでも程なく、警察車両はマンションの前に到着した。
「大丈夫ですか? 案内して頂けますか?」
運転席と助手席を下りた警官に、後部座席のドアを開かれ、麻子はよろめきながら車を下りる。
もう侵入者は逃走しているのだろうか。
あの部屋のどこかで息を潜めていたかと思うと、ぞっと肌が粟立った。麻子が気力をふり絞り、後部座席からバッグを引きずり出していた。すると、
「麻子……っ!」
という、怒号に近い男の声と靴音が、深夜の住宅街に鳴り渡る。
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