第7話 バックグラウンド
午後五時五十四分。
麻子は腕時計で時間を確認した後、第一面接室のドアを二回ノックした。
「はい」という、軽やかな返事が聞こえた直後、「失礼します」と、朗らかに告げて、押し開けた。
と同時に、麻子は気圧されるように仰け反った。
面接室の中央に置かれたテーブル。向かっていたのは彼だった。
ブラックの薄手のニットにストレートジーンズという、清潔感ある定番ファッション。前髪長めの艶のある黒髪。
エレベーターを先に下りて、クリニックの受付に向かう途中の廊下で、関係者専用ドアに入ったところは見ていたはずだ。
だから、羽藤はクリニックの職員だろうと予測していたのだろうが、白衣を
「カウンセラーの長澤麻子です。さっき、エレベーターでお会いしましたよね?」
互いに感じたはずの疑念をうやむやにはせず、麻子は自分から明示する。
大袈裟にならない程度に微笑みを浮かべ、テーブルに近づきながら羽藤に着席を促した。
「これから羽藤さんが診察を受けようと思われたきっかけというか、動機のようなものだとか。羽藤さんのプロフィールですね。家族関係、これまで大きなケガや病気をされたことがあれば、そういったことも簡単にお伺いさせて頂きますね。でも、お話しできる範囲で大丈夫です。聞かれたからといって、全部話さなきゃいけない規則じゃないので、もし、何となく答えたくないなという感じがしたら、そう言って下さいね」
麻子は羽藤の斜め右の、対角の位置の椅子を引き、腰かけてから説明した。
続いて、A4サイズの質問用紙を挟んだバインダーを、羽藤には見えないように立てて構え、ボールペンの芯を出す。
「じゃあ、まず生年月日と年齢をお伺いしてもいいですか?」
「一九九八年十一月二十三日生まれ、十七歳です」
「高校生?」
「はい」
「同居しているご家族は?」
麻子は軽く立たせたバインダーに挟んだ用紙に記入しながら訊ねたが、そんな、ごくありきたりなバックグラウンドに関する質問が、早々に羽藤の顔色を曇らせる。
問いかけの後、二、三秒のタイムラグがあり、走らせていたボールペンの動きを止めて羽藤を見た。
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