第8話 思い出に咲く

君は専門学校を卒業して社会へ出て、素敵な大人になったね。

夢を追い、遠い場所を目指す君の姿が眩しくて、ほんの少しやせ我慢をして応援してた。夢が破れた瞬間もあったし、別の夢が叶った瞬間もあった。どんな時でも前を向いて歩き続ける君は、いつでも僕らの誇りだ。


君が一人暮らしを始めてから、物理的にも精神的にも距離ができたようで少しだけ淋しく思う。

秋桜コスモスが咲く季節になると、いつも思い出す光景がある。昔訪れた公園で、一面に咲く秋桜コスモスに埋もれる君の可愛い笑顔。君はいつでも陽だまりみたいな日々を僕にくれた。花のように笑う君は僕の大切な宝物。


あの時君が作ってくれたのは、秋桜コスモスの花冠だったね。

家まで持って帰ったから、僕は自分のための花冠ものかと思っていたのだけれど。『ただいま』も言わずに君が走って行った先は、貴女ママが愛した木の下だった。

君の瞳には見えていたりするのだろうかと、聞いてみたくもあったけれど。結局、勇気は出ないまま。


貴女と同じに優しくて、可憐に咲いた僕らの娘。

あのがもうすぐ、恋人を連れてくる。

結婚の挨拶だって言っていたよ。


あのももうそんな年齢としになったんだね。

お互いに、大事にしあえる相手に出逢えたようだ。

幸せそうに微笑むあのに、ほっとした。

ほんの僅かな淋しさ抱え、あのの幸せをお祝いしよう。


ねぇ。今くらい、貴女の声を聴かせてほしい。

お願いだから、もう一度。


叶わぬ願いは夜に溶けて消えていく。

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