第5話 重なる面影【天使の気持ち】

わたしのだいすきなパパ。

わたしのために、おしごとをかえて。

わたしのために、にがてなおかしもつくってくれて。

わたしのために、つかれていてもあそんでくれる。


あるときパパが、わたしにきいた。


—— ママに会いたい?


『ママがいないなんてかわいそう』

『パパなんていっしょにあそんでくれないでしょ』

『おままごとだってできないし、おいしいケーキもやけないんでしょ』


ほいくえんで、なかよしのこにいわれたとき。

むねがちくちくして、ないてしまった。


『かわいそうなんかじゃない! パパがいるもん』

『パパはいつも、いっしょにあそんでくれるもん』

『おままごとも、ごはんも、おかしも、ぜんぶぜんぶ、パパがしてくれる!』

『わたしのパパはせかいでいちばんやさしくて、かっこよくて、すごいのよ!』


ちゃんといいかえしはしたけれど。

わたしのせいでパパをバカにされたみたいで、かなしかった。


—— ううん。パパがいるからだいじょうぶ。


ほんとうは、ちょっぴりママにあいたかったけれど、がまんする。


—— さびしくない?

—— ううん。パパがいてくれるから。


これは、ほんとに、ほんとだよ。


「愛しているよ、心から」

「わたし、パパもママもだーいすき!」


パパがわたしをだきしめる。

それはとってもうれしいけれど。

わたしばかりがおにもつで。

はやくおとなになりたくて、しかたがなかった。




それから何度か春がきて、私はようやく小学校の3年生になる。

学校で習ったおりょうりを、ひとりでやってみることにした。

パパはおいしいって言ってくれるかな。

わくわくしながら用意する。

だけどちっともうまくいかない。

学校ではうまくできたのに。

フライパンもこがしたし、卵もゆかにこぼしてしまう。

大きな音を立てたから、パパがあわててやってきた。


「ごめんなさい」


おこられると思ってぎゅっと目をつむったけれど。

パパはすぐに私を抱き上げて、流しへと連れてった。

フライパンを落としたときに、ちょっぴりやけどをしちゃったみたい。


「痛くない?」


私の手を水につけながら、しんぱいそうにパパが私の顔をのぞきこむ。

やさしくかけられるパパの声に、なみだがでてきた。


どうして、うまくいかないの。

どうして、おしごとのじゃまをしてしまうの。

どうして、パパはこんなにやさしいの。


パパ、ごめんなさい。大好きなの。


パパは私が泣きつかれてねむるまで、やさしくせなかをなでてくれていた。

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