第10話 B-side
そんな感じなんですよ、と香具村たちは副所長に報告を挙げた。とりあえず、海百合たちはミーティングによく使うカラオケボックスに移動した。カラオケボックスは毎回部屋が同じわけじゃないし、話をするのも、小腹が空いた時にも、ストレスにも都合が良く合理的なものである。
「よくわからない話だね。」と海百合。「なんかさ、あのさ、このさ、歌詞のさあ、たまにあるじゃない。カッコの歌詞のところ。あそこ歌っていいのか、カッコって何なのってくらい、よくわからないね。」
「ちょっと、整理しましょう。」と香具村。マキスはコンビニに酒を買いに行ってしまった。
「会計事務所の島田の依頼は、部下の当麻が自殺じゃないかっていう調査。会ってきたのは、彩華という女。障害者支援の関係者。障害の内容は?メンタル?フィジカル?」
「メンタルらしいです」
「まあいいや。で、当麻は公認会計士だった。全然聞いてない話ばかり出てくるねえ。なんだろう。隠してたのかなあ。面倒くさいなあ。」
「副所長。それも仕事ですよ」
「そうだね。で、ここでおかしいのが、どうして会計士が年がら年中、年賀状を作ったり、名刺の整理をしているわけ?干されてたってことなのかな?」
「実際は、そうみたいですよね。会計事務所の公認会計士が、ラベル貼りと名刺の振り分け担当ってのが、不自然。」
「不自然だね。納得いかないよね。」
「そう思います?」
「思うけど。ほら、採点モードの時のさ、たとえば、なんとかなんだよ〜〜っていう、声伸ばす部分と、次の歌詞の頭の部分が重なってるところ、あるじゃない?あそこ、どうやって歌えってのさ、ってくらい、納得いかない」
「はあ。」
ドアを覗く人がいる。マキスだ。がんがん、と叩いて入ってくる。「いたいた。ほら。酒。酒。」と。「どこまで報告した?」
「一通りかな」
金色のビールの缶をあけて、一口飲んで言う。
「自殺ですよ、自殺。自殺自殺。だってさ、ほら、そもそもさ、心当たりあるから、依頼してくるんだよ。良心の呵責っていうか、今思うとパワハラだったのかって、気になってるってパターンだ。だいたい、ヤブヘビなんだけどな」
「ああ。まあ、確かに。」と海百合。
「でもですね、気になるんですけど」
「どうして自殺する人が、虫刺されの薬なんかで死ぬんですか?」
「まあ、体に塗るようなもんで、死ねないよね。」
「死なないことはないでしょうけど、そんな死に方、聞いたこともない。完全自殺マニュアルのすみずみまで読んでも、ないだろうね。水の飲み過ぎで死ぬ、っていうのはあったかもしれないけど。」
海百合が言う。
「で、次の行動は?」
「そもそも業界的、っていうか、社会的に、こういうケースが多いのかの調査」
「それって、私たちの仕事?」
「少なくとも、知らないわけですから」
「まあね。あとは?」
「うーん。死因の調査ですかね。そっち関係副署長に任せてもいいですか?(しょなおす)」
「わかった。そのさ、彩華って人が詳しい死因まで知ってるとは思わないけど、一応、聞いといて」
「りょーす」
「あのさ、私の見解を述べていいかな。」
「はい。」マキスが歌っていたが、中止ボタンを押した。「あ!てめえ!」
「ふつう、人は自殺に虫刺されの薬は使わない。だから自殺じゃない。そういう考え」
「それは、そうです」
「そうだな。いくら何でも、わざわざそんなもん飲んで死のうと思うやつはいない」
「うん。成分はもう少し詳しく調べるとして。自殺のセンを排除する。じゃあ他殺か、事故か。いい?」
二人ともうなづく。マキスはビールを飲みながら。
「しかし他殺の可能性もほぼ排除していいと思う。あれば、警察がもう少し騒いでいいと思うからね。」
「ということは、事故のセンってことか? どういう事故だ? この中毒死ってのは、薬を何かと間違えたってことか。何とだ?」
「うーん、今のところはそれくらいしかないけど……」
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