第4話 B-side

 海百合が事務所に戻ると、やけに騒がしい。

「海百合さん。おはようございます」

 香具村が彼女に気づき、言った。事務所の中には引越し業者のような男たちが大勢、出入りした。

「海百合さんにご指示いただきましたので、早速、業者を手配いたしました。いかがでしょうか」

「いかがでしょうかって……、ちょっと、ここ探偵事務所なんだから、いきなり部外者の人を入れるのは、困るなぁ……」

「こ、困る!?」

「そうだよ……。やばり個人情報とか、いっぱいあるんだからさぁ……」

「それは、紙媒体では、ほとんどありませんので。まずかったでしょうか。いずれも私の信頼のおける方々です」

「信頼って……、知り合い?」

「引越しの業者様です!」

「だからどうした……。もういい」


 面倒臭いなぁ……。


「ちょっと、お客様からの依頼について打ち合わせしたいんだけど……、って、こんな出入り激しい状況で話なんかできないし、この人たち……どこの人なのかも知らないんだよ私……。まさか私たちだけで外に出るわけにもいかないし、さぁ……」


 結局、無理矢理香具村に、業者に対し「残りは後日」と言わせて、彼らを撤収させた。



「で、打ち合わせなんだけど」

「この間話があった、自殺だか、他殺だか、事故だか、事件だかの件ですか?」

「まあ、そのどれかだよね」

「お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「うちの探偵には聞く義務があるからね。給料払ってるんだから」

「昭和の中小企業の脅し文句のようですね」

「うるさい」


 海百合副所長は所員の香具村に、島田から聞いた話を説明した。


「依頼内容は依頼者の部下の男性の、自殺の動機の調査。遺書はなかった。警察は自殺と断定していると」

「そうだね」


 さて、ここからである。


「死因は何でしょうか?」

「薬物中毒。」

「それは依存性のあるドラッグの過剰接種という意味でしょうか?」

「そういうものじゃない。虫刺されなんかに使う薬を飲んだって」

「はあ……?虫刺され……? ムヒとかですか」

「詳しくは知らないけど、虫刺されの薬だって」

「その方はそれほ虫に刺されやすい体質だったのでしょうか?」

「だとしても、飲む理由にはならないじゃん」

「例えば、あまりにも虫が多過ぎて、刺されては塗り、刺されては塗りという対処に絶望して、いっそのこと、飲めば汗腺から虫除け成分が分泌されると信じて、服用して、お亡くなりになられてしまったいうことはありませんか?」

「馬鹿じゃないの?」


 ……。

「とにかく、それが死因なのは間違いないって。塗り薬で自殺なんて不思議あけど。それで、依頼主はその亡くなった方の上司で、自分が彼を追い詰めたのではないかって、ずっと悩んでいて、それに蹴りを付けたいというのが依頼の趣旨というわけ」

「その上司の方は、亡くなられた方に恨みを買うような覚えがあるというお話だったのでしょうか?」

「まあ、その辺も含めての依頼なんだけど、聞いた限りでは、あるといえばあるような、ないといえばないような感じかな」

「副長、又聞きでは誤解が生じてしまいます。詳しく話してください」

「あぁ……わかってる。そう、急くでない……」

 飲み物に口をつけてから、島田から聞いた話を説明する。


「その亡くなった人が仕事をしていたのは、障害者施設だったんだよ」

「というと、その方は障害を持っていた?それは身体的なものだったのですか?」

「メンタル的なものだった。なんらかの事情で、それはこれから調べていくなかで明らかになっていく、というか、していかなければならないんだけど、そういった事情を抱えながら仕事をしていたということ」

「それが、どうして上司が恨みを買うようなことに繋がるのですか?何か虐待めいたことをしていたのでしょうか」

「それこそ、私達が調べることだよ」






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