第2話グルメでバズりたい!

 ――『ウィスパグラム』

 これは天使軍と悪魔軍が人間を兵卒に勧誘するSNSアプリであり、直接戦うことができない両陣営の生命線でもあった。

 戦況は圧倒的に天使軍の有利。

 アプリを上手く使いこなし、連日連夜の『バズり』ぐあい。

 そんな危機的状況を覆す為に、バルフェゴールは今日も囁く!






「――グルメが良いっぽいですよ? バルフェゴール」

「グルメだ~?」

「ほら、見て下さいよ。このガブリエラの囁きですが、美味しそうな料理やスウィーツと一緒に撮ってるやつ。軒並み十万『参戦する』超えてます」


 今日も怠惰を貪るバルフェゴールは、アスモデュースから突き出されたスマホを覗き込んだ。

 そこには、『#これしか勝たん』や『#スウィーツ好きの人間と繋がりたい』と囁かれた満面の笑みの天使が映り込んでいた。


 あるウィスパにはタピオカと、またあるウィスパにはパンケーキと。

 それはガブリエラの笑顔と相まってキラキラとし、人間が見たら思わず『参戦する』を押してしまうだろう。



「おいおい、騙んな? アスモデュース」

「騙される……ですか?」

「あぁ。そのウィスパの主役はガブリエラなんだよ。スウィーツはあくまで引き立て役。よく見てみろ。どれも中心に奴がいて、コメントもスウィーツについてじゃなくて奴ばかりだろ?」

「そんなことないはず……って、本当だ!」



『ガブリエラ様相変わらず可愛い!』『人間界のスウィーツ奢ってあげたい奴挙手!』『ノ』『ノ』『ガブリエラたんとカップルドリンクしたいンゴねぇ』



「悪魔より業が深いですね……これ。最後のなんて普通にブロックされるでしょ」

「だろ? でも、まぁ食べ物に目を付けたのは良いかもしれん。ってことで、私達もグルメで囁こうぜ。っとなれば、ベルたんだな。電話電話~っと。

 ……おいーっす、ベルたん? 私、私。そうそう、そっちに行くにはお金が……って、国際ロマンス詐欺じゃねーよ!! ベルたん、ディーテ市のグルメに詳しいでしょ? うん、そう……じゃあ、現地集合ってことで」

「今のは、ベルゼブルですか?」

「そうそう、グルメって言ったらあいつだからね。まぁ、暴食だけど……」






 ――ディーテ市南銀座商店街。

 ここは、ディーテ市の飲食店が数多く集まる労働者の天国。

 今日も戦う能力のない悪魔達が、仕事帰りに飢えを満たしていた。



「デュフフ、今日もお誘いありがとうでござるよ。して、拙者におすすめの店を紹介してほしいブヒか?」

「おう。ベルたんならどの店も食べ尽くしてると思うし、ウィスパ映えする所頼むわ」

「ブヒ!! それは難しい質問でござるな。そもそもここには三万軒以上あって種類も豊富。その中でも一軒おすすめなどとてもとても絞れんでござるよ。でもバルフェゴールたんの頼みとなってはデュッフ! 失敬。やっぱりラーメンいや焼肉もしかし映えるとなっては婦女子向けが必要でござるな。婦女子向けとなるとやっぱりピザかパスタは外せないとしてここに意外性をひとつまみデュフフ。いや、失敬! 拙者好きなことには止まらんでござるよ」

「めちゃくちゃ早口で言ってる……」



 鼻を鳴らしながらまくし立てる彼の後に続き、着いた店はラーメン屋であった。




「大将、やってるブヒか〜」

「らっしゃい!! なんだベルゼブルの旦那。今日は彼女連れか? それも二人も!」

「デュフフ、そんなんじゃないでござる。と…友達ブヒ……そ、そんなことよりこの店を『ウィスパグラム』で紹介するブヒ! いつもの頼むでござる。勿論もちろん、彼女達にも」

「後、ビール三つな」

「あいよ〜。水はセルフで、辛ニラキムチモヤシは食べ放題だよ」



 小気味良い野菜を炒める音や、ビールを傾けながら待つこと数分。

 彼女達の前に三つのラーメン鉢ばちがそびえ立った


 ドン! ドン!! ドン!!!


「お待ちどうさん! ダブル豚に麺かた大盛り野菜マシマシニンニクアブラ追加でカラメね!」

「うっひょー、やっぱりここに来たらこれでござるな! ささっ、お二人も遠慮なく食べてほしいブヒ。今日は拙者のおごりですぞ!」

「ぎゃーッハッハハ!! ウケる! コレは絶対ウケるし。見ろよ、私達の顔よりデカいじゃん。大将ウィスパ頼むわ」

「あ…あの……私……こう言うの…あんま得意じゃないんです……」



 ――パシャリ



 盛り上がった野菜とチャーシューをかっこむベルゼブルと、顔の大きさと比べるバルフェゴール。

 そして、絶望の表情をしたアスモデュース。

 そこには、『#これしか勝たん』『#ラーメン好きの人間と繋がりたい』と囁かれていた。



 …

 ……

 ………



<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!



「げっふ〜、流石の私もあの量はこたえたぜ。お? コメントきてるじゃん」

「デュフフ、拙者渾身の紹介ですからな。一万『参戦する』は確実ですぞ?」

「もう…まじ無理……吐きそう……」



 フラフラするアスモデュースを横目に、アプリをタップする二人。

 そこに付いたコメントとは……



『豚が豚のエサ食ってて草』『デブの俺でもこれは流石に無理だわ』『バルフェゴールは意外に小顔』『アスモデュース…ロット乱して怒られそう……』『今日の不憫枠アスモデュース』



「「「……」」」

「そうそう、私は意外に小顔。って、やかましいわ!」

「デュフフ、バルフェゴールたんは素材は良いでござるからな。でも、あまり『参戦する』が伸びてないブヒ。人間にはこの良さが伝わらなかったでござるか」

「あの……私そろそろ限界……先帰るね……?」

「デュッフ!! だったら、デザートを食べに行くブヒ! 今日だったらアモンたんも出勤してるはずブヒ。萌え萌えキュンで、『参戦する』を勝ち取りにいくでござるよ!」

「いいね〜。ほら、行くぞ! アスモデュース。グルメで囁きたいって言ったのお前なんだから、最後まで付き合えよ?」

「チーン……」



 頑張れアスモデュース。

『バズる』を手に入れるその日まで――

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