バルフェゴール様はバズりたい!~こちら悪魔軍広報部、今日も兵卒集めに囁きます~
中村屋一九
第1話濃いメンツでバズりたい!
――天使と悪魔。
それは天地創造の太古より争いを決定付けられた存在であり、機械文明が大地を支配しようとも終わることはなかった。
しかし、幾億年と続いた争いもあっけない最期を迎えようとしていた。
圧倒的人材不足――四天使と悪魔八柱のみを残し、インフラを整備する有象無象を除いて両陣営滅亡の危機に陥っていた。
そこで考え出されたのが、人間界における代理戦争。
六十六億の人間は天使軍、悪魔軍に分かれてしのぎを削る日々を送っている。
人間がどちらの陣営に組するのか?
それこそ、各々のスマートフォンにダウンロードされた『ウィスパグラム』なるSNSアプリが肝であった。
「――バルフェゴール……? バルフェゴール・ペオール、聞いておるのか!!」
「ぅん……もう食べれないよ、お嬢さん。でも、デザートは君が良いかな……ゲヘヘ」
「起きろ!! バルフェゴール!!! ヨダレを垂らす暇があったら、勧誘の囁きをたれ流せ!」
「はひぃいい!! 寝てません! 私は寝てませんよ?」
悪魔軍円卓会議において、ヨダレを垂らしながら寝言を発する悪魔少女。
司会進行役の老齢な悪魔は、彼女の怠惰を吐き捨てた。
「完全に寝ていただろうが! 貴様、悪魔軍広報部として今後どうするつもりだ? 現在人間どもの勢力分布は天使八割に対して、悪魔は二割。このままでは、本当に我らは天使軍に駆逐されてしまうぞ!」
「いや、私も必死に囁いてますよ? 何でしょうね? 人間が怠惰過ぎるのが問題しょう。天使の甘言に惑わされ、楽な方を選ぼうとする。実に愚かですねぇ?」
「この、馬鹿者が!! 貴様の囁きは『#疲れた』だの『#怒られた、ピエン』や『#楽して儲けたい』など意味不明なものばかり。これでは、いつまでたっても悪魔軍は劣勢のまま。そこで、貴様には副官を付ける。アスモデュース頼んだぞ!」
「あい! 私にお任せください、ルキフゲ様! 二人で力を合わせて悪魔軍を増やしてみせます」
「あ~、私助手とかパス。一人でやってる方が楽なんで。大丈夫ですよ? 明日から本気出します、マジで」
「やかましいわ! 御大おんたいも何か言ってやってください。盛り返すのは今しかありません」
そう言った進行役のルキフゲは、無言を貫く悪魔軍総大将に視線を向ける。
「バルフェゴール、こんなこと君にしか頼めないんだ。頼んだよ」
「きゅーん!! イケメン&イケボで言われたら断れないっしょ! 今からすぐやります! ほら、行くよアスモデュース」
「わ、わ、わ……待ってくださーい」
見事な手のひら返しである。
明星を表す暗黒の六対の翼も、神の生き写しと言われた顔も、蕩る声色も、完成された美には誰も逆らえない。
ルチフェロ――悪魔軍の最高権力者は彼女達を笑顔で見送った。
「――で、バルフェゴール? 何か良い案はあるんですか?」
「いや、全然。てか、使い方もそこまで分かってないからね。アレでしょ? 『バズれ』ば良いんでしょ? アスモデュースやってよ」
「いやいやいやいや! 狙ってバズるなんて出来ませんから! それに映える物が何もないじゃないですか?」
「生える? まぁ、両性だから生やすことも出来るけど」
「そっちの生えるじゃないから! むぅ〜、とりあえず参考に天使軍のウィスパ見てみましょう」
「え〜、あんなの見たら目が腐っちゃうよ」
「ダラダラし過ぎで腐ってるようなもんですから、今更どうって事ありませんよ」
「辛辣ぅ〜」
アスモデュースの嫌味もどこ吹く風で、二人はスマホを覗き込んだ。
そこには、天使軍の囁きが所狭しと並ぶ。
美しい風景や神々しい神殿の写真と共に、『#求めよ、さすれば与えん』『#主の導きがあらんことを』など吐き気を催す言葉が並んでいる。
しかし、その一枚一枚に付いた『参戦する』『様子見する』『拡散する』アイコンには目を見張る数字が刻まれており、いつも一桁の悪魔軍とは雲泥の差だ。
「うわ〜、流石天使軍と言うか気合い入りまくりだね。これとか凄いですよ? 『参戦する』と『拡散する』が十万超えてます。バズってますね〜」
「は? 『#濃いメンツで飲んだ』? かぁ~、相変わらずガブリエラは加工しまくりの若作りじゃねーか」
そこに写っていたのは、テーブルを囲んだ四天使。
キリリとした表情のミカエラに、柔和な笑みを浮かべるラファエラ。
それに、困り顔のウリエラに抱きつくガブリエラがウインクをする自撮りであった。
「コメントもいっぱい付いてますよ。『ガブリエラたんまじ天使』『守りたいこの笑顔』『ウリ×ガブ尊すぎ!』ですって」
「何だよ? プライベート晒さらす方がバズるのか?」
「う〜ん。可能性はありますね。特にミカエラやウリエラはこう言った場にほとんど出てこないですから」
「ふ〜ん。じゃあ、私達もコレをパクっ……参考にして同じ様なやつ囁こうぜ。ピポパポ〜っと」
そう言ったバルフェゴールは、そのまま電話をかけ始めた。
「あ〜? ベルたん? 俺、俺。いやいや、詐欺じゃねーし! うん、そうそう。じゃ、ディーテ市で待ってるし」
「で、次は……レヴィレヴィ暇? 今からアスモデュースとベルたん私でディーテ市行くけど来る? え!? マジで〜。ハハッ、じゃ現地集合で〜。じゃね」
「バルフェゴール、今の電話は……?」
「ん〜。濃いメンツ集める為に、ベルゼブルとレヴィアタン呼んだんだよ」
「え……? 二人の連絡先知ってるなんて、流石の人脈? 魔脈? その能力を仕事に使ってほしい……」
「何ぶつぶつ言ってんの? 先行くよ〜」
――ディーテ市。
ここは、悪魔軍にとって歓楽地。
ギラギラネオンが光る遊技場から、飢えを満たす飲食店までそろう楽園だ。
そんな街の一角、比較的刺激の少ない店に彼女達は集まった。
「皆んなお久さ〜」
「デュフフ、バルフェゴールたん、さ、さ、誘ってくれて感謝の極みブヒ。拙者電話もらった時は、詐欺と勘違いしたでござるよ、ブヒヒ」
「あれ? ブルっちも来てたの? 超久しぶりじゃん! 相変わらずデブいね〜。またラーメンドカ食いして、カードゲームばっかしてんでしょ? ダメだよ〜、暇ならあーしに連絡しろって言ったじゃん」
「デュフフ、拙者みたいな陰キャに声かけてくれるのは、レヴィたんとバルフェゴールたんだけでござるよ、ブヒヒ」
「ヲ…ヲタクに優しいギャルは存在した……」
干物ジャージ女に陰キャデブ、陽キャギャルにメガネ委員長風。
何の集まりか分からない悪魔達は、濃いメンツと言うより『クセが強い』がお似合いだった。
「ってなわけ〜、早速撮るよ。構図こうずは天使と一緒にしてやろうぜ。はーい、笑顔でお願いします。三…二…一……お前も蝋人形にしてやろうか!?」
――パシャリ
「ぎゃーッハッハハ!!! ヤバい、マジヤバい。ベルたんキリリって言うかニチャアだし、レヴィたんは舌出し過ぎで怖い。アスモデュースはおっぱい強調し過ぎで、私半目でキモい。それに、テーブルの上は暗黒物質ばっかだし」
「強調してません! こんなの撮り直しましょうよ。流石にヤバ過ぎでしょ」
「いーや。こんなんで良いんだよ。『#濃いメンツで飲んだ』っと。はい、仕事終わり終わり〜。せっかく集まったんだし、飲もうぜ!」
…
……
………
<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!
「通知音のクセが強い!」
「は? これは、人間界を歌で征服した悪魔閣下の肉声だぞ? 今度、カセットテープ貸してやるよ」
「バルフェゴールたん、今はMDですぞ?」
「時代はサブスクだっつーの。で、何の通知音なん?」
「あ〜、コメントが付いた時用に設定してたやつだわ。コメなさ過ぎて忘れてた」
初めて付いたコメントをワクワクしながら覗き込む四人。
そこに表示されていた物とは……
『守りたくないこの笑顔』『SAN値がピンチ』『人類には早過ぎた画像』『なぜ上げたし!』『唯一の癒し枠アスモデュース』
「「「「……」」」」
「……ぶひゃっひゃっっひゃー!! ウケる。初めて付いたコメントがコレとか。マジ悪魔っぽいじゃん!」
「でも、真面目にやらないと兵卒集まらないよ?」
「大丈夫だよ。コメントばっか見てたけど、『参戦する』も百近くあるじゃん。このままやれば増えてくって!」
「だ…大丈夫……かな? 色物ばっか集まりそう……」
アスモデュースの心配をよそに、バルフェゴールは上機嫌にアプリを閉じた。
ここから始まる彼女達の快進撃――こちら悪魔軍広報部、今日も兵卒集めに囁きます!!
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