第508話 帰還

「ウォンッ」

「おっ。帰って来たか。こっちは完全に終わったみたいだぞ。そっちはどうだった?」


 暫く待っているとラックが帰ってきた。


 その頃にはすでにこちらの戦いは終わっていて、魚人達はすでに散り散りになって海の中へと逃げていった。


 海の中に逃げられると俺達ではどうしようもない。七海の魔法や俺の攻撃では周りへの被害が甚大すぎるため、魚人をやっつけても自然災害が起こりましたじゃ意味がないしな。


 戦いが終息した後、アグネスさんは探索者達をまとめて怪我人の救護や今後の方針を話し合っているようだ。


 今日追い返すことはできたが、もう来ないとは限らないし、次がいつになるかも分からない。一度会ったことは二度起こる可能性がある以上警戒を怠る事はできない。


 暫くの間はいくつかのグループを作り、見回りを継続していくことになるらしい。


「ワフワフ。ウォン。バフッ」

「ふむふむ。なるほど。お前が満足いくような結果になったのならいいさ」


 ラックからの話を聞くと、とても機嫌よさそうに結果を話すので、よほど満足する結果になったんだろうな。


 詳細に関しては俺は知る必要がないことだと言って何も教えてくれないが、ラックがおかしなことをやる訳がないので、気にしないことにした。


「他に手伝いが必要そうな戦場はあるか?」

「ウォンッ」

「ない? 他の所は大丈夫なのか? この辺りくらいの規模の大群が襲ってきていたら、他も危ないことになりそうだけどな」


 ラックが戻って来たので、次の戦場を確認するが、ラックは首を振った。


 つまりもう他に助けが必要そうな場所はないということだ。どこでもこの規模で魚人が襲い掛かってきているならいくらでもサポートが必要そうだけど違うのだろうか。


「ウォウォンッ。ワフッ。ウォンッ」

「何々? 俺達の手伝いが必要だった場所以外はそれほどの多くの魚人が襲ってこなかったって? つまり世界中で侵攻は起こったには起こったけど、問題なく対処できるレベルだったってことか? だからそこにいた影の数で足りたと?」

「ウォンッ。ワフッ」


 どうやらそういうことらしい。


「なるほどな。確かに一億以上の戦力といっても全世界に散らばったらそうでもないもんな。積極的に攻めたい場所に人員が集中してしまうのも無理はないか。それでも侵略が成功すると思っていたんだろうけど、相手が悪かったな。陸上でラックの群れに少数の魚人が叶うはずがないしな」


 ラックが居れば数百匹程度なら一匹で対処できる。分散してしまった魚人なんてラックにとって恐るるに足らずと言ったところだろうな。


「それじゃあ、世界中の戦況を教えてくれ」

「ウォンッ」


 それから俺達はラックから世界中の魚人による世界侵略での被害などを聞いた。


 結果から言えば、アメリカでは探索者たちが多数大けがや疲労で動けなくなっているというのと、各地で少数の死傷者が出たほかは特に大きな被害はなかったらしい。


 一億以上の魚人に襲われた結果としては最上に近い結果といえるのではないだろうか。


 今でも戦いが続いている場所は世界中でもまだまだ沢山あるけど、すでに掃討戦に入っている場所ばかりなので心配いらないとのこと。


 後二、三時間もすればほとんどすべての戦いが終息するだろうという話だった。


「それじゃあ、もう帰るの?」


 戦場で俺達が出来ることがないと分かると、七海が俺に質問した。


「そうだな。ただ、その前にノエルを回収して帰らないといけないだろう」

「えぇ~、絶対面倒事になりそうだから私は行きたくないんだけどなぁ」


 帰る前に聖女と呼ばれるノエルを回収してから戻る必要があるだろう。


 ただ、七海の言うことも分かる。


 祖国とはいえ、ノエルはあの時あの場所にいなかったはずの存在。確実にどうやってきたのかを聞かれるはずだ。いやむしろ今すでに聞かれているかもしれない。


 俺たちが表立って姿を現わせば、隔日に根掘り葉掘り質問攻めに遭うに違いない。


「そうだな。コッソリ回収しよう」

「それがいいよ」


 俺はノエルにトークアプリで連絡を入れた。人気のない場所に移動させるためだ。


『了解しました。五分後にトイレに立ちます』


 ノエルから返事が返ってきたので、迎はラックの影魔に行ってもらう。


「ただいまデスよ~」


 暫くすると、ノエルが影から帰ってきた。ただし、何やら滅茶苦茶豪華そうなドレスを着こんでいる。


「なんかすごい恰好をしているな」

「パーティに参加されられていたんデスよ。皆が押し寄せてきて大変でした。それよりもこのドレスは似合いますか?」


 俺は服のことをして来たら、ドレスの裾を持ってフリフリと振った後で、俺に上目遣いで尋ねるノエル。


「ああ。似合っていると思うぞ?」

「やったデスよ。このドレスのまま来た甲斐あったデスよ」


 まぁ美少女がドレスを着ていれば似合わないことはありえないので褒めておく。ノエルは満更でも無さそうな顔をして笑った。


「あっ。ノエルちゃんずっるい。私も新しい服を着て褒めてもらうんだから!!」

「ん!!」


 それに張り合い出す七海とシア。


 ノエルと合流した俺達は日本へと帰還するのであった。

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