第503話 惨状と原因
「なんじゃこりゃあ……」
それが俺が英国の海岸線に辿り着いた時に思いついた言葉だ。
味方はボロボロで魚人が入り乱れる乱戦。その中でまるでリングのように人も魚人も寄り付かない場所で一人の大人の女性と今まで見たことのない巨大な魚人がタイマンを張っている。
もうわけがわからない状況だった。
「七海はすぐに回復と付与を!! 俺達は一人で一匹ずつあの大きな魚人の相手をする。俺が一番東、その隣をシア、その隣を天音、その隣が零だ。後は倒した順に西の個体を倒していくことにするぞ!!」
「「「「了解!!」」」」
しかし呆けている場合じゃない。俺はすぐにパーティメンバーに指示を出して動き出す。
七海はレトキアの時と同じように影魔の転移で各地を回りながら見方を癒していく。七海の無尽蔵の魔力と、チートスキルによる効果の向上によってみるみる戦線が回復していった。
「ギョギョギョギョォオオオオッ」
『ぐわぁあああああっ』
こちらの探索者達を蹴散らしている魚人を目指して、入り乱れる戦場を影魔に潜って駆け抜ける。
「ギョギョ?」
探索者達が吹き飛ばされて周りにいないはずなのに急に現れた俺を不思議そうに見つめる魚人。
「じゃあな」
俺は一言だけその魚人に告げると軽く殴った。
―パァンッ
その魚人は跡形もなくはじけ飛んで姿が消失する。
「次」
俺は他の皆の状況を見回して次の魚人に移動する。
「ギョッ!?」
次の魚人もいきなり現れた俺に驚いたままはじけ飛んで消えた。他の皆も二匹目を倒すところで、俺は三匹目に移動して三匹目のぶっ飛ばした。
次をと思ったところであの巨大な魚人達はいなくなっていた。
「これで終わりか」
「ん」
俺が呟いた所に丁度シアが戻ってきて相槌を打つ。
「これでひとまずこの戦場も大丈夫じゃない?」
「そうね。それでアグネスの所に行ってもいいかしら? あの子悪い癖が出たみたいだから説教しないと」
「お、おう。分かった」
天音と零も俺の所に戻ってきて戦況が回復したと見るや、零が酷く清々しい笑顔で拳を握っていた。その目は全く笑って居なくて怖かった。
俺達はすぐに一匹の魚人と戦っていたアグネスの元に移動した。
「い、いやぁ……どうしたんだ? お前達、こんな所で……」
突然現れた俺達に対して、苦笑いを浮かべて両手を大袈裟に広げて俺達を出迎えるアグネスさん。
「どうしたんだ、じゃないわよ、全く……どうせ昔の癖がでたんでしょ?」
「い、いやぁ……ちょっと強そうな奴が出てきたからつい……」
不都合なことを誤魔化そうとしているアグネスに対し、零が笑みのまま反論したら、アグネスは苦笑したまま言い訳をする。
「ついじゃないわよ、ついじゃ。おかげで見方が壊滅しかかってたじゃない。 私達が救援きたからよかったものの。そうじゃなかったらどうするつもりだったのよ」
「それは私が一人でどうにか――」
ぐうの音も出ない正論にアグネスさんもいい返そうとするが、その勢いはまるで亀のように鈍い。
「できたの?」
「……」
零が食い気味に追及すると、アグネスは何も言えずに無言になる。
「出来たのかって聞いてるのよ?」
「……多分できませんでした……」
再び問い返すと、アグネスは項垂れるように肩を落として頭を下げた。
「はぁ……全く……ギルドマスターになって落ち着いたかと思えば、このありさまなんだから……」
「い、いやぁ、面目次第もない……」
ちゃんと反省したのを見届けた零は、先程までの笑っていない笑顔を止め、呆れて手のかかる妹でも見ているみたいな困り笑顔で話を続ける。
アグネスはすっかり意気消沈してしまった。
「まぁいいわ。説教はここまでにしてあげる。私達が強そうな魚人は倒したし、回復と付与魔法も書けたから、もう大丈夫でしょう。後はあなたがどうにかしなさい」
「分かった分かった。後は任せてくれ。それにしても……とんでもないな?」
零の指示に、両手を上げて降参だと言わんばかりのアグネス。俺達の活躍を目の当たりにしてどうやら回復能力と移動能力の凄さに気付いたようだ。
「まぁね。あんまり詮索しない事ね」
「それくらい承知している」
零は肩を竦めて答えると、アグネスはしっかりと頷いた。
「それじゃあ私達は落ち着くまで見てるから、後は任せたわ」
「分かった。何かあってもお前たちが動いていくれると思うと、心強いな」
「私達に頼ってばかりじゃダメよ」
「ああ。そうだな」
零とアグネスが話を終え、アグネスが先頭に立って戦況を完全に立て直し、魚人達を押し返し始める。
それからは完全なワンサイドゲーム。
完全回復した上にバフのかかった探索者達とアグネスの指揮が組み合わさって魚人はもうなにもすることが出来ずに次々と殺されていった。
「そろそろこの辺りも大丈夫そうね」
「そうだな。他に駄目そうな場所があれば応援に行くけどな」
「ウォンッ」
「何!? 王族が居る現場がヤラレそう?」
もう消化試合じみているので、これ以上ここに居る必要はなさそうだと零と話していたら、どうやら英国の王族が指揮している部隊の担当カ所がピンチらしい。
「そうね。でもそれはエルフたちに任せるのはどうかしら?」
「未だに繋がりがあるみたいだし」
「そうだな。そうしよう」
俺達は王族のことはエルフに任せることにして連絡を入れた後、戦場を眺めながらしばらく休憩をとった。
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