第504話 エルフの現在(第三者視点)

「うむ、うむ、分かった。では」


 一人の人物が電話での連絡を受けて受け答えをしている。


―ティロンッ


 その人物が通話を終え、電話を切って後ろを振り返る。


「たった今、フヒト王からの命令が下った。どうやら英国の王族が助けを求めておるらしい。まだ交流が完全に復活したわけではないが、フヒト王の指示とあらば助けにいかねばなるまい」


 その人物は金髪碧眼と尖った耳を持つ容姿端麗な種族であるエルフ、いやそれを超越したハイエルフとなった長老であった。


 彼は勿論この場にいる誰もがハイエルフとなっている。


「そうだな。フヒト王には返しきれない恩がある。英国王族と言えど人は人。フヒト王とその奥方様方以外とはあまり接触もしたくはないが、仕方ないだろう」


 その言葉に応えた偉丈夫はサリオン。エルフの森の警備責任者だ。


「うむ。然り。嫌な仕事はすぐに終わらせてしまおうぞ!!」

『了解!!』


 長老の下知とともにエルフたちは動き出した。影魔の転移ですぐに助けを求める王族の許に移動する。


 彼らは一刻も早く仕事を終わらせてしまいたかったからだ。


「何奴だ!!」


 突然現れた彼らに、もうギリギリの状況にも関わらず、騎士のような甲冑を身に着けた女性が警戒をする。


 ここは探索者適性を持つ騎士が守る陣の最奥。つまり、この場を取り仕切る司令官が居る場所だった。


 ただ、彼らが警戒されるのも無理はない。なぜなら目元以外は黒い装束に覆われて見えないからだ。


「ジャパニーズニンジャ?」


 豪華な衣装を身に纏っている少女が首を傾げた。


「我らは森と共に生きる者じゃ。そういえば分かるはずだがの」

「なんですって!?」

「あらあら、まぁまぁ。まさか本当に来てくれるだなんて思わなかったわ」


 長老の言葉を聞いた老婆と年若い娘が反応する。


 "森と共に生きる者"というのは英国とエルフの間で伝わる合言葉のようなものだ。


 その言葉を聞いた二人は、信じられないそういう顔になった。彼女達こそ英国の女王とその孫。女王も孫と同じように豪奢な衣装を身に纏っている。


「我らが王からのお達しだから助けに来たに過ぎない。勘違いされては困る」


 彼女達が自分たちの気持ちが伝わったと勘違いしているので、サリオンが自分たちが来たのはあくまで王の指示だと伝える。


「え、あ、そうなんですか……」

「いえいえ、それでも私たちを助けに来てくれたことに違いはありません。ありがとうございます」

「あっ!! ありがとうございます!!」


 年若い娘はエルフとの交流がまた復活すると考えていたため残念そうな返事をしてしまうが、女王は感謝して頭を下げた。


 そこは経験の差が出てしまう。


 女王としては今回はたとえ王の指示であったとしても、ここで繋がりが出来れば今後につながると考えていたからだ。


 実際はそれほど甘くはないエルフたちなのだが。


「うむ。まぁよい。それではサッサとこの状況をどうにかしようかの」


 挨拶を済ませたエルフはすぐに取り掛かることにする。


「できるのですか?」


 女王は念のため確認する。


 たったの数十人程度でこの状況を打破するというのは中々に信じがたいことだったからだ。


「当然じゃ。我らは王に偉大なる力を与えたられたもの。すぐに終わらせて見せよう。ゆくぞ、お前達」

『はっ』


 長老は胸を張って答え、後ろに控える者たちに指示を出して影へと潜った。


 そこからエルフの魚人の蹂躙ショーが幕を上げた。


 エルフたちは精霊の力を使用して、敵にのみ魔法を届けて、一撃で殺していった。


 ハイエルフであり、普人のパワーレベリングというなの地獄の特訓を受けた彼らは、そんじょそこらの人間が到達できるレベルを超えた位置に上り詰めているので、この程度は造作もないことだった。


 見る見るうちに魚人達は数を減らしていく。


 それから三十分も経った頃には魚人達はもうほとんど残っていなかった。


「状況終了。皆の者帰還せよ」

『了解』


 長老が精霊をトランシーバー代わりに使用し、他の面々も同じように返事を返した。


「終わったぞ。これで危機は去ったじゃろう」


 陣に戻ってきた彼らは女王に報告を行う。


「ええ。はい。あなた方は本当にお強いですね」

「それほどのこともない。我らなど王に比べれば些細なものだ。それでは我らは帰還する」


 女王が森人族達を褒めたたえるが、長老は興味などなく終了の挨拶を済ませて帰ろうとする。


「あ、あの、この後、城で慰労会を行うつもりなのですが、ご参加されませんか?」

「いや、結構じゃ。我らは表舞台に立つつもりはないでの。それでは」


 女王の孫が恐る恐る提案してみるが、森人族にあっさりと却下されてしまった。


 エルフはそのまま放心している彼女を残して今の住処に帰還を果たした。彼らは拠点につくなり、すぐに行動を開始する。


「私、早くドラマの続き見なきゃ!!」

「俺はスポーツ番組だ」

「ワシは将棋で勝負するのじゃ」

「私はアニメが見たいわ!!」


 彼らが見たり、やったりするのは今の世界の遊び。森の中で生きているはずのエルフはすっかり現代日本に毒されてしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る