第502話 暴走機関車アグネス(第三者視点)
「お前とは雌雄を決しなければならないようだな!!」
「ギョギョギョギョギョッ」
アグネスと巨大魚人は言葉は通じないのにも関わらず、言外の表情や動きによってお互いに分かり合っていた。
「隊長!! そいつは一匹じゃないんですよ!!」
ただ、二人は分かり合っているが、周りはそうはいかない。
Sランク探索者であるアグネスをもってしても一筋縄ではいかない相手。そんなモンスターが何匹も居る。
一人だけに構って居られると他の戦局に影響が出てしまう。だから部下としては一匹だけでなく、他の相手も牽制くらいはしてほしかった。
「すまん、こいつは今の私では一匹が精一杯の相手だ。他の相手はお前たちでどうにかしてしろ」
しかし、目の前の巨大魚人から目を離すことなく、爛々と獰猛な笑みを浮かべながらアグネスは部下に仕事を押し付ける。
「うわぁ!! これ絶対隊長が止まらねぇ奴だ。ちっくしょー!! お前ら死ぬ気で奴らを抑えろ!!」
『了解!!』
いつもの悪い癖が出た分かった部下たちは全員一糸乱れぬ動きで他の凶悪な巨大魚人達をグループを作って凄まじい連携で魚人達を抑え始めた。
その顔は必死そのものだ。
「ふふふっ。私は良い部下をもったな」
部下たちの様子を尻目に確認したアグネスは、小さく笑みをこぼす。
「ギョギョギョギョッ」
魚人は「もう終わったか?」と彼女に問いかけた。
「いや、待たせて悪かったな。存分に死合おうじゃないか!!」
アグネスは胸の前で両拳をぶつけあって口端を吊り上げて魚人を挑発する。
「ギョギョギョォオオオッ!!」
魚人もそれに呼応をするように拳をぶつけあった。
それが合図になり、二人はぶつかり合う。
「ギョギョッ」
魚人の巨大な拳がアグネスを襲う。しかし、アグネスはその拳を紙一重で躱して魚人の懐に潜り込み、拳をアッパーをするように突き上げた。
「グギョッ」
アグネスの拳は的確に魚人の顎を貫き、相手はよろめく。その隙をついてアグネスは飛び上がって思いきり回し蹴りで蹴り飛ばす。
周りに気を配る必要がなくなったアグネスのスピードは先ほどまでよりも格段に上がっていた。
―ザザザザザザザーッ
魚人は蹴りの勢いで足を地面に付いたまま引き摺って後ろに吹き飛んでいく。
「ギョギョォオオ……」
諸にアグネスの攻撃を喰らった魚人は少し堪えたような声を漏らした。
「おいおい、そんなものじゃないだろう? もっと力を見せてみろ!!」
アグネスはそんな魚人にクイックイッと手招きをしてさらに挑発をする。
「ギョギョォオオオッ!!」
「そうだ。それでいい!! うぉおおおおおおっ!!」
先ほどとは比べ物にならないくらい早い動きでアグネスに迫る魚人。アグネスも迫りくる魚人に向かって走りだす。
「ギョォオッ」
「はっ」
鋭い蹴りがアグネスを襲う。
アグネスは今度は躱せずにその攻撃を腕で防御して受ける。
―ミシリッ
アグネスの上の骨がきしむ音がした。
「ギョギョギョギョギョギョギョッ」
そこから続くように連打の拳がアグネスを襲う。しかし、アグネスも負けじとその連打に呼応するように拳を繰り出した。
―ドドドドドドドドドドドッ
お互いの拳がぶつかり合う。
「ギョギョギョォオオオオオオッ!!」
「ハァアアアアアアアアアアアッ!!」
いつ終わるとも分からない二人の猛攻。
―バキッ
「グギョッ!?」
―ベキッ
「がっ!?」
徐々にお互いがお互いの攻撃を防ぎきれなくなって、徐々にダメージを受けていく。しかし、その攻防も唐突に終わりを告げる。
「ギョギョギョギョォ……」
弱々しい声を上げて魚人の攻撃が止まった。
その腕を見れば、攻撃が止んだ理由も分かる。肘から先がアグネスの度重なる攻撃によっておかしな方向に曲がってしまい、青い血をダラダラと流していたのだ。
とうとうその痛みに耐えきれなくなってしまったわけだ。
「なかなか持った方じゃないか?」
アグネスは巨大魚人を褒めるようにニヤリと笑う。
「抵抗しないか。それじゃあ潔く終わりにしてやろう」
既にアグネスの力を十分に理解した魚人は自分の敗北を悟った。
次の瞬間、アグネスはその場に飛び上がった後、周り蹴りを魚人の首に叩き込んだ。
―ボトリッ
―ズシンッ
数十秒ほど経ったところで地面に何かが落ちた音と倒れる音が重なる。前者が魚人の首で後者が体がその場に倒れ伏した音であった。
「よーし、体あったまってきたな。次の獲物はどこだ?」
アグネスは次の魚人と戦うために、やっと周りの状況を確認する。
『ぐわぁあああああああああああああっ』
しかし、そこには自分の部下達が宙を舞い、今にも壊滅しそうな姿があった。獅子奮迅活躍虚しく、彼らの体力の方が持たずに徐々に押されてしまった結果だった。
彼らだけでなく、魚人達を必死に撃退していた探索者達も疲労困憊。徐々に魚人達に押され始めている。
「一体誰がこんな状況にしたんだぁああああああ!?」
アグネスがその惨状を見て叫んだ。
誰もがお前だよ、そう思っていたが、指摘するものはいなかった。
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