第501話 バトルジャンキー(第三者視点)
時は遡り、同時多発侵略が始まった頃。
「きたか」
切り立った崖の端っこに立って眼前の海を眺めながら、スーツ姿のアグネスは呟いた。海には多数の白波が立っており、まるで津波のように見える。それは全て魚人達が泳ぐことで引き起こされたものだった。
普人達から話を聞かされていたものの改めて実際に攻めてきた軍勢を見れば、その規模は予想以上で、相当厳しい戦いになることが窺えた。
―ザッザッザッザッ
「報告します!!」
彼女の背後に駆け足で近づき、声をあげる人物が現れる。彼は彼女の部下で忠実な私兵のようなものだ。迷彩服のような軍服を着ている。彼の後ろにも同じような者たちが並んでいた。
「うむ」
「目視できるだけで数万規模の大部隊です。海底からも増援がやってくるとすれば恐らく十万は軽く超えるのではないかと。しかも鑑定で強さを図る限り、一兵卒の魚人の強さでさえBランク以上ある模様です」
「全くとんだ修羅場になってしまったものだな」
振り返ることなく、言葉だけ話を促し、目の前の光景を見ながら困惑したような言葉をつぶやく。しかし、その言葉の中身とは裏腹に彼女の口端はつりあがっていた。
何を隠そう彼女は戦闘狂だった。
「いかがいたしますか?」
部下もそんな彼女のことを分かったうえで尋ねる。
「こうなれば仕方あるまい。総力戦だ。私が先陣を切る」
「承知しました。私もお供します」
全く仕方がなさそうではない顔で武装に換装して答え、部下も嬉しそうに頭を下げた。
「うむ。ついて来い」
『はっ』
アグネスは崖から勢いよく飛び降り、部下もそれに続いて飛び降りる。彼女は武器を構えた。
彼女の武器はどう見ても銃だった。アグネスは世界でもそう多くない銃を使用する探索者。彼女の部下たちも同じような力を持ち、彼女の許に集った者たちだった。
彼女たちは空を飛ぶわけではないが、滑空というスキルを持っていて、まるでパラグライダーに乗っているように横に移動しながら徐々に空を降下していく。
「よし、全員一斉掃射!!」
『はっ』
彼女たちは自分たちの有利性を活かして空から敵を狙い撃ちして数を減らす。
彼らの武器である探索者ようの従からは魔力を固めた弾がまるで雨のように降り注ぎ、魚人達はなす術なく撃ち抜かれた。
「ははははっ。いい的だな!!」
アグネスは死んでいく魚人達を見て獰猛な笑みを浮かべる。
「よし、このまま殺せるだけ殺せ!!」
『はっ』
彼女の指示の元、部下たちも銃撃の雨を降らせて次々とモンスターを撃破していく。
「そろそろ楽しい時間も終わりだな。よし、海岸線に撤退する。そこからが本当の勝負だ」
『はっ』
滑空はあくまで落下速度をゆっくりにして体の向きによって空中を移動出来るスキルだ。高度が下がればもう一度上がることはできない。
そろそろ魚人との距離も近づいてきたので反撃の可能性も出てくる。空中の無防備な状態で攻撃を受けるのは得策じゃない。
アグネス一行は元々探索者を待たせていた浜辺に降り立った。
「お疲れさまです。ギルドマスター」
一人の女性がアグネスの前に進み出てきてお辞儀をする。
「ああ。よくまとめてくれたな」
「いえ、これが私の務めですから」
アグネスは女性の顔を確かめるなり労いの言葉を掛け、その女性はフルフルと首を横に振った。
「そうか。それじゃあ始めるか。ある程度上から数は減らしたが、それでも全体から見れば微々たるものだ。心して掛かれよお前達!!」
女性の反応に満足そうに微笑んだ後でキリっと表情を引き締めて鼓舞をした。
「進軍開始!!」
『うぉおおおおおおおおっ!!』
そして彼女の合図とともに彼女を先頭にして探索者達の怒号が海岸を揺らし、レトキアと同様に探索者と魚人が激突した。
最初はアグネスの活躍のおかげで怪我をした魚人達を簡単に屠ることが出来ていたが、万を超える魚人相手では彼女でも疲労は溜まっていく。
そこに武装魚人が投入されたことで、さらに戦闘は激化していった。ただ、こちらの戦いはレトキアとはまた違うことがあった。
「ギョギョォオオオオッ!!」
それは普通の魚人達よりも二回りくらいデカい存在。奴らは巨大なくせに動きが素早く、その上、力も武装魚人を上回るというヤバい奴だった。
奴によって探索者達が次々と蹴散らされていく。
「舐めるなよ!! コメットショット!!」
奴らを止めるため、アグネスの銃から岩のような大きさの弾丸が連続で打ち出された。
「ギョギョギョギョオオオッ!!」
巨大なだけあって威力は普通の銃程度の弾の数倍以上の力がある。しかし、その弾でさえ、その巨大魚人には効かず、巨人はその弾丸を追い払ってしまう。
「上等だ!!」
何故かアグネスは銃をしまい、巨大魚人肉弾戦を申し込んだ。
「オラァ!!」
「ギョギョッ」
「ぐはぁ!?」
アグネスの拳が魚人に突き刺さる。しかし、魚人の硬い鱗はびくともせずに、そのままカウンターを決められてしまった。
彼女は後ろへと吹っ飛んでいく。
「ちっ。やるじゃないか!!」
「ギョギョォオオオオッ!!」
吹き飛ぶ途中で体勢を立て直して着地した途端、再距離を縮めて全力の拳を叩き込んだ。今度は先ほどとちがってダメージを与えられていたらしく、魚人も叫びをあげて体をのけ反らせる。
「ふははははははっ」
「ギョギョギョギョッ」
お互いに顔を見合わせて出てきたのは笑い声だった。
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