第497話 兄が兄なら妹も妹
この一カ月で俺たちの言葉に前向きな所はあらかた準備を終えていた。それでも一億を超えるモンスターに対処できるかどうかは不明だ。
「大丈夫かな、お兄ちゃん」
「まぁ大丈夫だろ、少なくとも俺たちは死なないさ。俺、母さん、そして七海の関係者にも影魔はつけているしな」
俺たちは影転移で海辺の近くにやってきた。
そこは日本の前線ではない人気のない海岸。前線である太平洋側に探索者組合の兵力の多くを集めているので、俺たちはラックの影魔達と他の所を警戒していた。
この辺りの海岸に近い場所に住む人たちの多くは避難していた。勿論避難に反対してその場に残るという選択肢をした人たちもいる。
今回は影魔達も世界中の海岸に散らばらせているので、もし俺たちがモンスターを逃して上陸を許し、残っている人たちが襲われたとしても、そういう人たちの救助を行うのは難しい。
俺もそこまでは面倒見きれないし、国も同じだろう。
それと俺たちの関係者にはラックの影魔を護衛に付けている。魚人はそれほど強くなかったので、襲われたとしても水中ならまだしも陸上と空中で魚人達に後れを取ることにはならないはずだ。
「そうだよね、お兄ちゃんがいればどうにかなるよね」
「俺よりもラックだと思うけどな」
撫でる俺を見上げて幾分案した様子の七海。どう考えても俺がカバーできる範囲は少ない。それよりも数百万匹の影魔を指揮するラックの方が。
「ラックの飼い主はお兄ちゃんなんだから、お兄ちゃんが要なんだよ?」
「そういう意味ではそうかもしれないな」
「どうやら来たみたいだな」
「そうみたいね」
七海と話していると、俺たちの前方にゆらりと姿を現す影があった。それはスパエモで殲滅した魚人と酷似していて、この間海底で見た魚人そのものだった。
「そんじゃあ、開戦の一発目を派手にやるか!!」
「ん 普通で良い。」
「そうだよ、ジャブくらいにしておいてね、お兄ちゃん」
「そうそう、小手調べでいいから」
「そうね、軽く当てて様子を見ましょう」
「ん? そうか? まぁ皆がそういうならそうしよう」
俺がちょっと本気で気功パンチをお見舞いしようと思ったが、皆が軽めでいいというので、軽いパンチを放つことにした。
気を右こぶしに全集中して腰だめに構える。
「な、なんか、あれ前よりヤバくなってない?」
「軽くじゃなくて、最弱でって言えばよかった」
「絶対ヤバいわよ!! ちょっと普人君、もっと威力抑えて!!」
「聞こえてなさそうだわ!! 皆揺れに備えて!!」
後ろで女性陣が何か言っているが、集中していたため耳に杯ってこなかった。
「はぁああああああああっ!! せぃっ!!」
俺は軽く前に拳を突き出した。
―ドォオオオオオオオオオオオンッ
「あれ? なんか前より強くなってる……?」
俺は拳から放出された気の塊を見てそうひとりごちる。その大きさは以前よりも数倍は大きくなっていて、目の前の海を削って突き進んでいく。
その幅は最初は数十メートルだったのに、どんどん広がっていった。
「うわあ……これはないわ」
「敵が少し可哀想になってきたわ」
「ん。ふーくんは宇宙最強」
「お兄ちゃんはやっぱりどこかの星の戦闘民族の人なんだぁ……」
振り返ると、皆がその光景を呆然として見つめていた。そして数分後、目の前には海だった場所が残っていた。
視認できる範囲に海水はなく、海底が露出してしまっている。しかも、後続の敵もくる気配はない。
やっべぇ……ただの開戦の狼煙のつもりだったのに、軽くパンチしただけで全部ふっとんでしまった……。
「はぁ……七海ちゃん、準備しておいてね」
「ん? 何を?」
「そりゃあ、今目の前に水がないってことはある場所から勢いよく流れ込んでくるってことよ」
「ああ、前と一緒だね!! 任せて!! 私も強くなったって所を見せるんだから!!」
零が七海に何かを頼んでいる。どうやら前回魚人が他の場所から侵入できないように陸地に沿って氷の壁を作り出したのと同じように、津波が陸地に襲い掛かってきても大丈夫なように七海が魔法で抑えるつもりのようだ。
「いっくよぉーーーーーーー!!」
七海が杖を掲げて思いきり杖に魔力を込める。なんだか杖を中心に空間が歪んで魔力が集まて行くのが見える。
これはもの凄い濃度の魔力だな。
「ちょっと!! 七海も人のこと言えないんだけど?」
「この兄にしてこの妹ありね……」
「ななみん張り切って可愛い」
他の三人が七海の素晴らしさを語っていた。
うんうん、七海は凄いからな。
「アイシクルランパート!!」
魔力を集めきった七海が杖を振り下ろす。
杖の先から青白い光が飛び出して見える限りの陸地の端っこ付近に降りたち、淡く光りだした。そして下の方から白い物質が形成されていく。
その物資は徐々に意味あるものに変わり、最終的にどう見ても城壁のような建造物になった。ただ、その規模が海水が消え失せているであろう全般に及び、その高さは数百メートル、厚みもここから見る限りかなりありそうだった。
あれなら津波もせき止められるだろう
「これだけやっておけば大丈夫だよね!!」
俺たちの方を振り返った七海はとっても自慢げだった。
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能無し陰陽師は魔術で無双する〜霊力ゼロの落ちこぼれ、実は元異世界最強の大賢者〜
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