第498話 応援
―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
七海が海と陸とを遮断してからしばらくしてすさまじい勢いの音が近づいてきた。恐らく津波の音だ。
「ちょっと空から見てみるか」
氷の壁が邪魔で実際どんな感じで迫ってきているのか確認するため、ラックで空を飛ぶことにした。
「面白そう!!」
「全然笑い事じゃないんだけど」
「万が一ダメだったら水の方を凍らせばいいよ!! 出来そうな気がするし」
「どんなバカげた魔力量なのよ……」
七海が俺の言葉を聞いてはしゃぐ。
天音が唖然として妹を見るが、七海はない胸をポンと叩いてどや顔で答えた。その答えに天音はあきれ果てる他なかった。
「おお!!」
俺たちはラック、ヒーコ、グリの背に乗り、氷の壁の上に向けて空を飛ぶ。氷の壁を超えると、その先にはこちらに向かってものすごい勢いで迫ってくる波が見えた。
その高さは百メートルは固い。
あんなものが普通に日本を襲っていたらと思うとぞっとする。しかもその元凶が俺だというのがなんとも言えないところだ。
「すっごーい!! あんな津波見たことないよぉ!!」
「そりゃあ、見たことがないでしょうね。 大抵の人間は見たことないわよ……」
「じゃあ物凄いレアな場面に遭遇してるってことだね!!」
七海がキャッキャッと無邪気に喜び、天音が先ほどと同様にツッコミを入れる。天音が七海のツッコミマシーンと化していた。
俺達氷の壁の少し後方に浮かんで迫りくる津波を見ている。
「おいおい、あの勢いぶつかっても大丈夫か?」
「大丈夫だって!! この辺りの人たちは大体内陸に避難しているし、もし壁が壊れそうになったら私が魔力で補強するから!!」
「それならいいんだけどな」
中々の勢いで迫ってくる津波に根源的な恐怖を感じるが、七海はどこから湧いてくるのか分からないけど自信満々だ。妹がそういうのならこれ以上心配したところでどうしようもないだろう。
俺たちは津波が万里の長城よりも圧倒的な存在感の氷の壁に津波がぶつかる様を固唾を飲んで見つめた。
―ドォオオオオオオオオオオオンッ!!
波の先頭が壁にぶつかる。
しかし、壁にはなんの異常もない。後ろから見ている限り、
あれほどの津波に耐えうるなんてとんでもない耐久力のある氷の壁だな。どこかの国と戦争になっても、七海が居れば一日でとんでもない砦とか建てられそうだし、絶対負けないかもな……いや、実際にはSランクの探索者とかいるし、そう上手くは行かないか。
「ビクともしないわね」
「とんでもない強度ね」
天音と零が津波を受けている防壁を見ながら呟く。
「問題なさそうだね!!」
「ん。流石ななみん。私の
波が治まるまで確認した後で七海が自慢げに呟くと、一緒に不死鳥のヒーコに乗っているシアがヨシヨシと七海を撫で始める。
「えへへ~」
七海は満更でもなさそうに顔を緩めた。ある程度の時間波がぶつかるさまを見ていたが問題は起きなさそうだ。さてこれでこの辺り一帯は問題ない。
「終わっちゃったみたいだけど、これからどうする?」
それぞれの従魔に乗りながら俺達はお互いに近づきあって今後のことを話す。
「ここに居てもしょうがないし、他の所に応援にいきましょうか」
「そうだな。そのためにも今の状況を把握しないとな」
「そうね」
零の言う通り、自分の持ち場が終わったからと言って楽をせず、ヤバくなっている所に助けに行って出来るだけ被害を減らした方がいいだろう。
「ラック、戦況はどうなっている?」
「ウォンッ」
だから、どこの戦場にも一匹は配置されている影魔を通じてラックに戦況を確認する。
「ウォンウォンッ」
「なるほどな」
日本と英国は俺からの情報により、新藤さんやアグネスが動いてくれたので被害をほとんど出すことなく、今のところは推移しているらしい。
それに比べて米国や露国などは、情報に対してそれほど真面目に取り合っておらず、あまり徹底していなかったため、多少なりとも被害を出しているようだ。
しかし、仮にそこに住んでいる人が悪い人間でなかったとしても、そんな国には応援に行く気にならないので、きちんと対策をしていた国から声を掛けようと思う。
「ウォンッ」
ラック曰く、今一番ピンチに陥っている場所は俺達が良く知る人物の故郷だった。
「なるほどな。その国がピンチか。しょうがないから助けに行こう。その前にアイツも一緒に連れて行こう」
『了解』
だから俺達は当人も一緒に連れていくことにした。
「ノエル? ノエル今大丈夫か?」
俺の言葉の通り迎えに来たのはノエルだ。ノエルも自主的に戦闘員として参加しているらしく、太平洋側のある地域にいる。
ただ、彼女が居れば本国も戦況が変わるだろう。
影転移でノエルの近くに移動し、影に入ったまま移動しながら近づいて話しかけた。
「あ、普人様!!」
パッと花開いたような笑みを浮かべてこっそり影から顔を出す俺に走り寄ってくるノエル。
「声が大きい」
「ごめんなさいデスよ。どうかしたんですか?」
彼女に注意すると、彼女は口元を一度手で覆ってから放して用件を尋ねた。
「ああ。君の本国が不味いことになっているようだ。俺達は応援に行くけど、ノエルはどうする?」
「何ですって!? 勿論行かせてもらうデスよ!!」
俺の言葉に驚愕するノエルだけど、すぐに帰郷することを決める。
「分かった。すぐに行こう」
「了解デスよ!!」
ノエルを影に誘い込み、俺達は彼女の母国であるレトキアへと跳んだ。
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