第491話 海底からの侵入
海溝の端っこを降下していく俺達。
「あっちの方に気配を感じるね」
海底に向かって落ちながら七海がマリアナ海溝の中心部の方を指さして言った。
「ああ。かなりの数が集まっているな」
「気配的には魚人ぽいわね」
「ん」
「ビンゴって訳か」
俺でも感知できているので他の皆もその気配を感じ取ってようだ。
何をしているかは不明だけど、どうやらここで魚人ぽい奴らが集まっているのは確かだ。流石にあまりに遠くは分からないが、近くにかなりの数の気配を感じるので、そこには何かあるはずだ。
「こんな所で何してるのかなぁ?」
「やっぱりダンジョンがあるんじゃない?」
七海が可愛らしく腕を組んで首を傾げたら、天音が疑問を持ちながら返事を返す。
「確かに。この数はスタンピードみたいだもものね」
「ん。でもスタンピードよりも多い」
零の言葉に頷く零と、さらに補足するシア。
「そうだな。皆が言う通りダンジョンがあるってのが一番の可能性だよな」
一番はやはりこの先にダンジョンあるってことなのは間違いない。昔から言われてきたことだからその可能性は大いにある。
ただ、それにしてはモンスターの数が多すぎるので通常のスタンピードでは考えられない何が起こっていると考えられる。
海岸近くへの侵攻とかを見ていると明らかにダンジョンのモンスターとは思えない知性を感じた。誰かの指示を受けて動いている、そんな動きだった。
魚人そのものに知性があるかどうかは不明だけど、あの数の魚人を操る存在がいるかもしれないということは覚えておいた方が良いだろう。
「なんにせよ、皆気を抜くなよ」
「分かってるって」
「当然でしょ」
「ええ。あり一匹見逃さないから安心してちょうだい」
「ん。ふーくんと私達が居れば問題ない」
俺は皆に注意を促し、皆もそれに頷いた。
それから数十分程降下し続けてようやく底が見えてくる。マリアナ海溝に入ってからモンスターの襲撃もなく、一番下まで降りることが出来た。
「こっちの方には何もないね」
「そうだな」
俺達が海底に降り立ち、周りを見回すけど、この辺りには何もない。
「やっぱり行ってみるしかないな」
「そうだね」
「でもどうやっていくか……」
どうしても気配が集まっている方に向かうしかないが、このままいけばこっちの存在がすぐにバレてしまうだろう。
「海底なら影に潜れるんじゃないかしら?」
「あ、そうかも」
零が忘れていたことを思い出させてくれたので、早速試してみる。
海底は地面があるので、水防魔法の淡い光によってその底に影が映し出されている。
「ラック」
「ウォンッ」
ラックに指示を出して実際に可能かどうか試してみたら、どうやら無事に入れたようだ。
流石我らの頼れるお姉さんだ。
「問題なさそうね」
「そうだな。水防魔法を限りなく小さくして影の中に入っていけば見つかる可能性はかなり減るはずだ。早速入ろう」
『了解』
俺に声を掛ける零に振り向いて頷いたら、皆に影に入るように指示をだした。皆は頷いてラックの影に入った。
影の中は普通に生活できる程の部屋があるので窮屈さは感じない。
「ラック。気配がいる方に向かって走ってくれ。そこそこスピード出しても大丈夫だ。問題ないな?七海」
「うん、これだけ小さいならスピード出しても維持できるよ」
「了解。よし、行こう」
七海に水防魔法の効果が問題ないか確認し、俺達は気配を辿って走り出した。十分程走るとチラホラと魚人が泳いでいる姿が目に入ってくる。
どうやら彼らの生活圏に入ったらしい。
俺達がかなり速いスピードで走っている事と、入り口の影の大きさを限りなく小さくして水防魔法の光も小さくしていることで見つからずに彼らの下を通り抜けていく。
「ふぅ。バレなかったね」
魚人が泳いでいた範囲から抜けた後で俺達は一度立ち止まり、七海が安堵したように声を出した。
見つからない可能性が高いとは言え、バレたら多くの魚人達に襲われるので緊張していたようだ。
「そうだな。でもこの先はもっと沢山の存在がいそうだ。大丈夫か?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんも皆もいるしね」
少し疲れている顔をして汗をかいている七海に問いかけると、ニッコリと笑って血分の体の前で両方の拳をギュッと握ってやる気を見せた。
どうやらまだ問題なさそうだ。
七海も探索者になってそれなりに立つし、レベルもかなり上がってるみたいだからな。体力もこの程度でなくなったりはしないだろう。
「ははははっ。そうだな」
「ん。ふーくんは私の夫。もっと構う」
「はいはい」
俺はそんな七海が可愛くて頭を撫でたら、シアも俺の前に頭を突き出してきた。緊張感のないことだなと呆れながらも、アホ毛を弾ませるシアが可愛いので撫でてやった。
「ほらほら、そこ!!イチャイチャしない!!」
「はいはい」
「何するのよ!!」
天音が少し頬を膨らませてズビシと俺達に抗議してくるので、頭を撫でてやったら顔を赤くしてさらに頬を膨らませた。
膨らませ過ぎてフグみたいだ。それはそれで可愛い。
「いや撫でてほしいのかと思って」
「そんなんじゃないわ!!さっさと先に行くわよ!!」
「はいよ」
天音をからかってやったら、プイっと進行方向に体を向けてドスドスとラックの方に歩いていった。
俺は返事を返し、ラックを歩き出させた彼女の背中を追った。
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