第490話 どこにでも適応できる光線銃が欲しかった

 ラックの影魔に乗せられて空を飛び、インドネシアの北海岸から離れた場所から降下し、数千メートルほど潜ってようやく海底にたどり着いた俺達。


「やっとついた……」

「ちょっと休憩しましょう」


 そこまでくるだけでかなりのモンスターを倒すことになり、皆少し疲弊していた。


 そこで俺たちはいったん休憩を取ることに。


「七海、もっと水防魔法を広げられるか?」

「ちょっと待ってて。サンクチュアリ」


 俺が七海に確認をとったら、七海が目を閉じて魔力を杖に込める。


 そしたら水防魔法が消えると同時にドーム型の半透明の魔法が展開された。


 これは結界魔法サンクチュアリだ。外敵や攻撃を防ぐ魔法だけど、水の侵入も防ぐことが出来るらしい。


「こんなこともできるのか」

「イメージさえできればある程度自由がきくんだよ、魔法って。それにサンクチュアリは攻撃も防げるからね。休むにはもってこいなんだよね」

「確かにな」


 水防魔法では水以外防げない。


 冬ということもあって水は冷たいはずだけど、結界魔法のせいか水の冷たさが遮断され、魔法内は寒くないのでテーブルを取り出して深海のティータイムとしゃれこんだ。


「いやぁ、流石にここまでくると真っ暗だね」

「私たち探索者にかかればこのくらいでも見ようと思えば見れるけどね」

「あまり綺麗じゃないわねぇ」

「モンスターの巣窟」


 五人でテーブルについて影空間から出された水筒に入ったほうじ茶を飲みながら改めて付近を眺めつつしみじみと呟く。


 そこはすでに光も届かない海の底。太陽光によって作り出される美しい空間はない。


「よし、行こうか」

『了解』


 少し休んだ俺たちは目的地に向かって歩き出す。


 その場所とは、マリアナ海溝。


 今まで大陸に侵攻してきた場所から、マリアナ海溝、インド洋中央、ジブラルタル海峡付近、この近辺に敵の拠点があるんじゃないかと推察された。


 まずは一番近い所から、ということでマリアナ海溝付近にやってきたわけだ。


 海底についてからは驚くほどに敵との遭遇がなくなり、快適なウォーキングライフだ。


 ただこんな時、青い猫型ロボットが出す、どこにでも適応しそうな光線銃があれば、水防魔法なんてなくても水の中で自由に動くことが出来て、海底をバギーに乗って爆走できるんだけどなぁと歳不相応なことを思う。


 それからしばらく歩いていると、巨大すぎる亀裂を見つけた。


 おそらくこれがマリアナ海溝だろう。


「うわぁ……なんか怖いね」

「そうね。そこが見えなくてなんか出そう」

「そんなこと言わないで。怖くなってくるじゃない」

「楽しみ」


 女性陣は海溝の縁から下を覗き込み、まるで断崖絶壁から体を乗り出しているような感覚も相まって、底知れぬ暗闇に恐怖を感じさせているようだ。たった一人シアを覗いては。


 アホ毛が弾んでいて本当に面白そうだと思っているらしい。


 俺たちはこっそりと様子を窺うため、その端からこっそり侵入していく。


「それじゃあ行くぞ」

「わ、分かってるよ」

「今まで変わらないぞ?」

「なんか崖から飛び降りてるみたいで怖いの!!」


 ただ、七海が海溝に飛び込むのをためらう。海を降下してきた時と何も変わらないんだけど、視覚的にやはり崖から飛び降りるのは怖いらしくビクビクしている。


「ほら、お兄ちゃんがギュッとしててやるから行くぞ」

「やったぁ。はぁ~クンカクンカ。お兄ちゃんの匂い癒されるぅ~」


 俺が抱きしめてやると今までの暗い雰囲気が吹き飛び、恍惚の表情を浮かべだしたのでもう大丈夫なようだ。


 何やらおかしなことを口走っているような気がするけど、聞こえなかったことにする。


「ズルい。私も」


 七海に嫉妬したのか、シアもくっついてきて二人まとめて抱きしめる。


「私も怖いなぁ~、なんて」

「私も少し怖いわ」


 何故か他の二人も怖がるふりをして俺にくっついてきた。


 全くさっきまでそんな感情全然見せなかったのに、一体どういうつもりなんだ?


 ただ、そんな思いは吹っ飛ぶ。なぜなら俺の背中に左右両サイドから二人の凶悪な対男性用重量級兵器による圧力が加わり、非常に素晴らしい感触が俺を襲ったからだ。


 なんだこれは……幸せすぎる。


「それじゃあ、飛び降りるぞ」

『了解』


 俺たちはくっついたまま崖から飛び降りた。ただ、結局は水の中、ゆっくりと降下していくだけなので何も起こりはしない。


「あぁ~怖かった。こうなることは分かってても怖い物は怖いね」


 飛び降りる瞬間七海は俺にギュッとしがみついてきたけど、ゆっくり落ちていくのが分かると、力を抜いて体を少し話して俺を見上げて話す。


「それは仕方ないな。高所から落ちれば普通の人間がどうなるか皆分かっているし、地上でそんなに高い場所から飛び降りた経験もないんだから」

「まぁね。これで地上のスカイハイツリーからも飛び降りられるよ!!」


 ただなぜか高所から降りても問題ないと分かった七海は訳の分からないことを言い始めた。


「絶対やるなよ、そんなこと」

「はーい」


 俺が忠告するが、七海はニコニコと笑いながら返事をする。


 こいつ絶対飛び降りる気だろ……。


「絶対だぞ?絶対だからな?」

「分かってるって!!」


 確信した俺が念押しするように何度も言うが、七海はニヤリとした笑みを崩さなかった。


 しばらくの間、俺と七海の問答が続いた。

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