第492話 海底の巨大な街
俺たちはマリアナ海溝の南の端の方から三十分程走っていた。
「なんだか魚人が多くなってきたね」
「確かに泳いでいる魚人が多いな。ラック、見つからないように気を付けてくれ」
「ウォンッ」
会話の通り、水中を泳ぐ魚人の数が増えてきた。
しかもそれだけじゃない。何やら大きな魚に跨っている魚人や内部に乗り込むことが出来るバスのような魚、武装した魚人など今まで見かけなかったような種類の魚人や魚などが目撃されている。
やはりこのマリアナ海溝の中心部の方に何かあるに違いない。
数が多くなれば見つかる可能性も高くなるのでラックに指示を出して見つからないように移動していく。
そこからさらに十五分程走り続けると、今ではほんの少しの光でかなり遠くまで見通せるように慣れてきたので、それがようやく見えてきた。
「あれは……」
思わず言葉が漏れる。
なぜならそこにあったのは建物が乱雑に立ち並んだ空間、どう見ても巨大な町としか思えないようなものが存在していたからだ。
「街……みたいね……」
「え?海の底なのに町があるの?どこどこ!?」
俺の言葉を拾ったのか零が見えてきたものを補足し、七海は信じられないものが海の底にあると聞いてテンションを上げる。
全く敵地真っただ中だというのに緊張感がなさすぎる。
「おいおい、ここがモンスターだらけだってことを忘れるなよ」
「はーい」
反省する気なしじゃないか。
やれやれ……。
「あ、ちゃんと見えてきた」
「めちゃくちゃ大っきな街ね」
「ん」
それから暫く進むと街の全貌が見えてくる、というか見えない。幅が広すぎて視界が届かないからだ。それが把握できるほどまで近づいていた。
建物は地上のようなものではなく、海底に飛び出している岩の数々を削って整形し、その中をくりぬいて建物の体を成しているという感じだ。
海底にある岩が一つ一つ大きさが違うため、街全体の建物の大きさが全く統一されていないのが特徴的だ。
そしてそこまで近づくと、泳いでいる魚人や巨大な魚型モンスターの密度が増え、まるで水族館の水槽の下を通るアーチから見ているように賑やかな様子を見ることが出来る。
「普通に人間っぽく暮らしてんのかしら?」
「どうなんだろうな」
天音がポツリと呟き、俺も同意するように首を傾げる。
今の所観察している限り、食材のような物を運んでいる様子も、子供のような存在も確認できていない。ただ、魚人同士で連れ立って泳いでいたり、水中で止まって何やら話していたりするのである程度の知性や社会性があるように見受けられる。
「中に入ってみよう」
「そうね」
もっと奴らの観察をしたいので街の中に入る。
門番的な物がいるのかと思ったが、思えばここは水中で、下以外は出入り自由だとすると、全体を見張るなんてできないし、そもそも海の中だと人以外のモンスターが魚人を襲うかどうかも不明だから必要ないのかもしれない。
魚人達に見つかることもなく、街らしき場所の中に入っていく。
「うーん、なんていうか街の姿をした巣?っていいのかしらね?」
「お店ない……」
天音とシアが影の中から外を見ての感想を述べる。
街中ではやはり魚人同士が話をしていたりするものの、食事をしている風景もなければ、何かの経済活動をしている訳でもない。
天音の言う通り、単純に同じ種族である魚人達が集まって巣を作り上げたように見える。シアは店がないことにアホ毛を萎れさせて肩を落としていた。
シアよ、魚人の街に店があったとしてどうやってその料理を食べようと言うんだ。見つかった時点で戦闘になるぞ。それと、水の中で調理なんて期待できないから多分ただの魚の肉がそのまま出てきたりするぞ、多分。
まぁ可愛いから許す。
「なんだかチンアナゴに似てるかもしれないわね」
「チンアナゴ?」
零がパッと閃いたように言葉を発し、俺はチンアナゴのことがよくわからず首を傾げた。
「ええ。チンアナゴは集まって海底に巣をつくり、コロニーを形成して生活しているの。今までで最大で一万匹ほどのチンアナゴのコロニーがあったこともあるらしいわよ」
「へぇ~、確かに言われてみれば、岩に穴を開けくりぬいて生活している所とか似てるかもな」
なるほどな。魚人だけに魚と生態が似ていてもおかしなことはないか。
流石お姉さんはなんでも知ってるな。
それからも街中を回ってみたが、最初に見た印象通り、
成体らしき個体しか存在せず、子供がいない。
集団生活をしているが、食事や排せつをしている様子がない。
経済活動を行っている様子もない。
ということが分かった。
ただ、彼らには武装している魚人もいる。
そういう武具に関してはどこから仕入れているのか気になるところだ。
「あっ。あれって神殿だよね?」
「お、ホントだ」
俺たちの進行方向にどう見ても神殿にしか見えないものが見えてきた。その神殿はかなり大きな岩という崖のようなものを削って作られたものだった。
「一応身分みたいなのはあるのか?」
「そうかもしれないわね」
「あそこも見に行ってみるか」
俺たちはその神殿らしき場所に向かって移動した。
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