第486話 初詣

 年越しが終わると、各々が眠くなったところでまた一人、また一人と部屋に消えていった。


「そんじゃあ、俺も寝るかな」

「ん。おやすみ。ふーくん」

「ああ、お休み。シア」


 最後まで残っていた俺とシアも寝ることにした。部屋に戻ると七海が盛大な寝相で寝ていたので、布団を直してやり、俺も眠りに着いた。


 次の日。


「むにゃむにゃ」

「全く仕方のない奴だ」


 俺が一番睡眠時間が短いにも関わらずいつもの時間に目を覚ます。別々に寝ていたはずの七海が俺のベッドに潜り込んでいた。


 俺は微笑みながらポンポンと妹の頭を撫でると、起こさないように細心の注意を払って抜け出し、リビングダイニングへと降りる。


 そこでは母さんがキッチンに立っていて、しょうゆとごぼうの慣れ親しんだ芳しい匂いが仄かに漂っていた。


「普人、おはよう。最近は本当に早くなったわね」

「まぁね」

「お雑煮あるけど、食べる?」

「おお!!食べる食べる」


 母さんと挨拶を交わし、早朝から準備をしていたらしい雑煮があるというので出してもらう。


「あぁ~、これこれ。これを食べると正月って感じがするなぁ~」

「何よそれ。普人あんたおじさんみたいよ」

「げっ。マジかよ……」


 俺が正月を堪能していたら母さんにおっさん臭いと言われてしまった。


「今日はどうするの?」

「皆と初詣に行ってくるよ」

「ああ、そういうことね」


 母さんが俺の予定を尋ねてきて返事をすると、何か腑に落ちた顔になる。


「何がだよ?」

「何でもないわ。あんたは皆が起きてきてご飯を食べたら先に出てなさい」

「へいへい。何か分からないけど分かったよ」


 気になった俺は問いかけたが、はぐらかされてしまった。


「それじゃあ家の外で待っててね」

「分かったよ」


 それから暫くして皆が起きてきて、お雑煮を食べて少しゆっくりした後、俺は家の外で待つことになった。


「寒さは感じるけど、寒くないっていうのも探索者になって良かったことの一つだな」


 普通ならこんな冬真っただ中に外で待たされるなんて拷問だ。しかし、今の俺は風の冷たさを感じることはあるが、寒くて凍えると思ったことはない。


「ウォン?」


 俺はラックを構いながら暇をつぶした。


「お兄ちゃん、お待たせ~」

「やっときた……か……」


 それから三十分以上たってから七海の声が聞こえた。やっと来たかと思い、声の方を向くと、艶やかなピンク色の振袖を着た七海が立っていた。


 俺はその可愛らしさに硬直した。


「どうどう?驚いた?」


 七海はニシシと笑って俺の顔を覗き込む。


「ああ。凄く似合ってるぞ七海」

「えへへ~」


 俺は思わず七海の頭を撫でていた。七海も嬉しそうに顔を歪ませる。


 あぁ、俺の妹は天使だったのか……。


「ま、待たせたわね」

「お待たせしました」

「お待たせデスよ」


 その後で、天音、零、ノエルの順で玄関から出てきた。天音は赤、零は黒、ノエルは青と言った振袖だ。各々に良く似合っている。


「三人ともよく似あっていて素敵だ」

「ま、まぁ当然よね」

「あ、ありがとう」

「わーい、褒められました。嬉しいデスよ!!」


 俺がニッコリと笑って三人を褒めると、三人とも満更でもない様子だ。


「ん。お待たせ」

「あ、ああ……」


 最後に玄関から出てきたのは白を基調としたシアだった。俺はその美しさにただただ呆然とするしかなかった。


「やっぱりお姉ちゃんにはかなわないか~」

「あの様子を見る限りそうみたいね」

「まぁそんなことを抜きにしてもアレクシアちゃんは可愛いものね」

「むむむっ。少し悔しい気もしますが、愛人でも構わないのデスよ!!」


 他の四人が何か言っているようだけど、耳に入ってこないくらいにはシアの振袖姿に目を打バレていた。


「どうしたの?」

「ん、ああ……シアがきれいすぎてな。ビックリしたんだ」

「そう。ありがと」


 俺を不思議そうに見つめるシアに、現実に戻ってきた俺は頭を掻いて恥ずかし気に答えたら、シアもほんのり頬を赤らめて俯いた。


 はわぁ~、なんだこの可愛い生き物は……。


 誰もいなければギュッと抱きしめたいところだ。


「皆揃ったし、初詣にいこ」

「そうだな」


 俺たちは神社の近くまではラックの転移で移動し、そこからは歩きだ。


「うわぁ……人が一杯……」


 人気のない場所から大通りに出たら、そこは人、人、人。近くにあった大きな神社に来てみたけど、初詣にきた利用客は当然俺達だけではなかった。


「こりゃあ大変そうだな。七海、手を」

「はーい」

「シアもな」

「ん」


 だから妹と彼女とはぐれないように二人に手を差し出し、彼女達も俺の手を握った。


「見せつけてくれるわねぇ……」

「仕方がないんじゃないかしら」

「私も手をつなぎたいデスよぉ」

「今は私で我慢しておきなさい」

「ふぁーい」


 天音たちが何か言っているが、気のせいだろう。


 それから俺達は物凄い人ごみに呑みこまれそうになりながらも初詣を済ませた。


「大吉だぁ!!」

「私も大吉」

「私大吉だったわ」

「大吉デスよ!!」

「大吉」

「俺だけ凶なんだけど!?」


 おみくじを引いたら俺だけが凶で他の皆は全員大吉。


 俺はめちゃくちゃツイてるはずなのに、一体どうしてこうなった!?


 おみくじの結果には納得がいかなかったが、俺達は無事に初詣を終えた。

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