第487話 一進一退
四日の日曜日までは正月ということでゆっくりと休養を取った俺達。
「ウォンッ」
「何、また逃げられただって!?」
五日に学校にいって始業式を終え、寮の自室に帰って来た後で俺はラックからの報告を受けていた。
報告とは海からの侵略者に対する陸地の警備の結果だ。
どうやら海からやって来るモンスターは俺達が以前スパエモに行った時に倒した魚人みたいな奴らと似ているらしい。
勿論追い払うことは出来るし、何匹かは倒すことが出来るらしいが、何匹かはとりのがしてしまうようだ。
これまで何度も同じ報告を聞いている。
「クーン……」
「いや、責めてるわけじゃない。まさかラックでも仕留めきれないと思わなかったんだ」
それにしてもラックほどの相手を前に逃げられるなんて、相手は水の中では相当強いらしい。
それが信じられなかった。
恐らくその理由は、ラックが水中に長い事こと潜れない上に、水中では動きが遅くなってしまうことと、影魔は世界中に数百万匹といるにはいるが、それらを駆使したところで全ての陸地はカバーしきれないというのが大きいと思う。
水中はどうしても奴らのテリトリーだからな。勿論これを続けていれば全滅させることは出来るかもしれないが、かなりの長期戦になって正直いつになるか分からない。
他の作戦を考える必要があるだろう。
「一番は魚人の発生源を叩くの一番だろうけど、そこに行く手段がないんだよなぁ……」
できれば海の中のダンジョンなのか、他に何があるのか分からないけど、根本をどうにかしなければまた魚人は数を増やして同じことを繰り返すだろう。
「そうだ、全身を気で覆ってみるのはどうだろうか。ちょっと試しに行ってみるか」
俺は皆に連絡して海に転移した。
「さてやってみようかな」
俺は目をつぶって視認できるほどの密度で全身に気を纏わせる。周囲にとどまる気はまるでぬるま湯に包まれているかのような感触があった。
心地いい。
「そんじゃあ海に入ってみるか」
俺は靴も脱がずそのまま海に入ってみる。
「お、いけそうだぞ」
海に入った瞬間にこの方法で行けそうなことが分かった。なぜなら周りに展開した気を水が通り抜けてこないからだ。
靴が全く濡れていない。
「とりあえず潜ってみるか……」
全く冷たさも感じない。気が完全に遮断してくれているのだろう。俺は思いきり飛び込んで海底目指して潜っていく。
数十メートル程潜り、辺りを探ってみるけど、この辺りには普通の魚以外見当たらない。
さらに深く潜っていき、水面がかなり高い位置に見えるところまでは来た時、大きな反応がこちらに向かってくることに気付いた。
「ごぼぼぼっごぼぼっ!!(あれはモンスターか)!!」
その相手が見えてくると俺は水の中にも関わらずついつい叫んでしまう。相手はウツボを巨大化したようなモンスターだ。
「ゴボボォオオオオオンッ」
水の中でも奴の咆哮が俺に届いた。
ちっ。水の中だと水に動きを阻害されて分が悪い。
それでもとりあえず俺を食べようとする巨大ウツボをすれすれで躱してパンチを放つ。
―パァンッ
水の中にも関わらず巨大ウツボは弾けとんだ。大きさだけの見掛け倒しのようだ。ミノタウロスみたいなもんだな。
「ごぼぼぼぼっ!?」
しかし、悲劇はその後で起こった。ものすごい水流が俺を襲い、流されてしまったのだ。
俺はグルグルと回転しながら海の中を突き進む。普通の人だったらすぐに酔ってしまいそうだけど、俺は探索者なのでこの程度なら問題ない。
おそらくこれは俺のパンチの結果だと思う。
手に気を集めているわけではないにしろ、気を纏っているには違いないので相当な威力が出る。そのパワーのせいで水流も動いて俺がそれに巻き込まれた感じだ。
『ゴボボォオオオオオンッ』
凄い勢いで通り過ぎる俺を餌だと勘違いしたのか、他のウツボモンスター達が俺に群がってきた。
―パァンッ
―パァンッ
―パァンッ
俺はめまぐるしく変わる視界の中、タイミングを合わせて全ての巨大ウツボを消し飛ばすが、そのせいでさらに勢いがついてさらにスピードを上げて水流に流されてしまう。
これじゃあ呼吸に関しては全く問題ないけど、一匹ならまだしも敵が来るたびに水流に巻き込まれることになってあまりいい方法とはいえなさそうだ。
俺は流されながら考えごとをして、流れが落ち着いたところですぐに浜辺まで戻って別の方法を考える。
「他に可能な方法は魔法か魔道具でのアプローチかな。とりあえず皆に相談してみるか」
海をぼんやりと眺めながら考えたけど、結局一人では決めきれずに何故かすでに家に集まっていた皆に相談することにした。
「もう心配したんだからね!!」
「全く海に一人で潜るとか無茶でしょ」
「心配させないでちょうだい」
俺としてはすぐに試してみたかったし、全く問題ないと思っていたんだけど、帰ったら皆に滅茶苦茶怒られてしまった。
次からは何かをする時は皆に相談してからにしようと思う。
「ん。ふーくんなら何も問題ない」
シアだけは無表情で動じることなくお茶を飲んでいた。流石彼女兼自称嫁である。
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