第485話 年越しと不穏なニュース
「あと少しで今年も終わりだねぇ」
「そうだな」
七海が時計を見て呟き、俺はこたつでぬくぬくとしながらぼんやりと返事をした。
家でまったり年末の特番を見たり、皆でゲームをしながら過ごしていたら、気づけばあと十数分で年が明ける。
「そば出来たわよ~」
「あっ。待ってました!!」
「これを食べないと年越しって感じがしないよなぁ」
皆でだらっとしていると母さんがデカいザルをいくつか持ってきて、その中ににゆでたての蕎麦が山盛りになっていた。
年越しと言えば年越し蕎麦を食べないとだめだろう。
ちなみにうちでは冬だというのに、あったかい汁の中に入った蕎麦ではなく、付け汁に付けて食べる冷たい蕎麦を食べるのが昔からの習わしだ。
「OH!!これが本物のTO・SHI・KO・SHI・SO・BA!!」
ノエルが蕎麦が出てきた途端、目を輝かせている。
「私も海外が多かったからそんなに食べたことないのよね、年越しそば」
「嫌いだったら無理して食べなくていいからな」
天音はそばを見つめながら難し気な表情をしているので、念のため無理はしないように言っておく。
折角の皆での年越しだし、嫌な思い出になって欲しくない。
「べ、別に嫌いじゃないわよ」
「責めてるわけじゃないからな?蕎麦が嫌いな人もいるかもしれないし、アレルギーがあるかもしれない。だから無理する必要はないってこと」
俺が咎めていると思ったのか、焦ったように否定する天音。しかし、それは勘違いであることを伝える。
「そ、そう?勘違いしちゃったわ」
「別にいいよ。本当に嫌いじゃないのか?」
俺の言葉がちゃんと伝わったらしく申し訳なさげになる天音。俺は別に気にしてないし、それよりも天音が好きか嫌いかの方が大事なので、そことを確認する。
「ええ。むしろおばあちゃんちで食べたことを思い出して懐かしい気持ちになるわ」
「それならいいんだ。一杯食べていいぞ?」
「アレクシアじゃないんだからそんなに食べないわよ!!」
俺が笑顔でそばを勧めたら、天音は顔を憤慨して叫んだ。
「ずずずーっ。ん?」
引き合いに出されたシアはそばをもっさりと露の入った器の中に入れ、すでに食べ始めていた。遠慮も何もない。
まぁそういうところも可愛いんだが。
「なんでもないから食べていいぞ」
「ん」
天音の言葉に反応したシアにそのまま食べるように言う。
「シアちゃんは良い食べっぷりね」
「ん。美味しい」
ウチのかあさんもそんなシアを見て嬉しそうにしているので何も問題はないだろう。
「まぁ遠慮はするなってことだ」
「それは大丈夫よ。もうここで食べるのも慣れてるしね」
「それもそうか」
俺たちのパーティメンバーはウチでご飯を食べることも多くなっていた。
今更遠慮なんてするわけもないか。天音は海外育ちだしな。
それから残り一分前くらいまでに蕎麦を食べ終えた俺達。
「それじゃあ十秒前になったら、皆でカウントダウンしようね!!」
「いいわね」
「ん」
七海の提案でテレビのカウントに合わせて俺たちもカウントダウンをすることになった。
「それじゃあいくよ!!」
七海の合図で皆で数えだす。
『十』
『九』
『八』
『七』
『六』
『五』
『四』
『三』
『二』
『一』
『あけましておめでとぉおおおおおおお!!』
皆で声を合わせて年越しを祝う。
今年一年は激動の一念だった。今年はどんな一年になるのだろうか。
「あけましておめでとう。皆今年もよろしく」
「よろしくね、お兄ちゃん」
「ん。よろしく」
「普人君よろしく~」
「よろしくお願いね佐藤君」
「よろしくお願いしますデスよ!!」
「普人よろしく」
皆と年明けの挨拶を交わし、各々も挨拶をしあう。
『あけましておめでとうございます!!』
―ピロリロリン、ピロリロリン
そんな中、流しっぱなしだったテレビの番組中にニュース速報の音が流れた。
何とはなしに全員がテレビを見る。
『今日未明、オーストラリア北部沿岸部、アメリカ東沿岸部、インド南沿岸部にて謎のモンスターによる侵略がありました。探索者はほぼ壊滅し、一帯をモンスターによって支配された模様』
流れたテロップにはそのように書いてあった。
「バカな……」
俺は思わず呟いて立ち上がり、同じようにパーティメンバー達も立ち上がってテレビの方に食いつく。
なぜなら、その内容が信じられなかったからだ。
世界中にはラックの影魔が無数に放たれている。彼らが陸と空から世界中をパトロールしているので何かあればすぐに対処するはずだ。それにもかかわらず、このような事態が起こった。
「沿岸部、ということは海……かしら?」
「そうか、そういうことか……」
零の呟きに俺は共通点を理解する。
どれもこれも海の近くが襲われているということだ。恐らくモンスターは海の中からやってきたのだろう。
ラックは羽を生やすことで空を飛べるようになったけど、海に中に関しては何もしていなかった。
だからこと今回の侵略を発見できなかったわけだ。
「ラック、悪いんだけど、すぐに向かわせてくれるか?」
「ウォンッ!!」
俺はラックに指示を出して近くにいるであろう影魔達を差し向ける。
これでこれ以上陸上に被害は広がらないはずだ。
「はいはい、後はラックちゃんに任せてお正月なんだからゆっくりしなさいな」
対応を終えた俺達に母さんが手を叩いて皆を座らせ、団欒へと戻った。
正月早々なんだか嫌な予感がした。
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