第481話 内緒話(第三者視点)

 クリスマスパーティの後、普人のパーティメンバー以外の女性陣であるバンド三人組が一室に残され、丸いテーブルに座っていた。


「よく来てくれたわね」


 アレクシアによく似た銀髪のロングヘアーをたなびかせ、アンナがその部屋に入ってきて一つだけ空いてきた席に腰を下ろす。


「アレクシアちゃんのお母さん、これはどういう集まりなんですか?」

「うーん、そうね。これはあなたたちにきちんと理解しておくために設けた場所ね」


 残された三人のうち、リーダー役の多々良がアンナに不思議そうに尋ねると、アンナはあざとく顎に人差し指を当て中空を見つめながら返事をする。


「理解?」

「そう。あなたたちは自覚しておいた方がいいわ。普人君から受け取ったアイテムの価値を」


 まだ意味が分からず首を傾げて頭の上にはてなマーク浮かべる三人に、アンナは今回の核心を告げた。


「あれってCランクダンジョンで拾った大したことないアイテムって聞きましたけど……」

「まずその認識が間違っているわ。あなたたちはゲームの中で探索者になったはず。それでCランクダンジョンのアイテムの価値も分かったんじゃないのかしら?」


 多々良としては大したことないと聞いていたのでそれほどの価値はないと思っていたが、アンナはその間違いを正すために質問する。


「そ、それは確かにCランクダンジョンのアイテムの相場は分かりましたけど、それは宝箱から出るようなアイテムでは?佐藤君からもらったものは大したことがないってことですし、モンスタードロップで出た少しレアなアイテムじゃないんですか?」

「普人君からもらったアイテムがそうだという根拠は?」

『……』


 質問に答えつつ反論する多々良だが、アンナに聞き返され、多々良以外も誰もその根拠を示すことが出来なかった。


「まず、Cランクダンジョンのアイテムは安くても数十万。高ければ数百万は普通にするわ」

『~!?』


 アンナの言葉によれば、もらったアイテムが数十万から数百万に相当すると気づき、今度は驚愕で言葉を失う。


 そんな価値のあるプレゼントをもらうような間柄ではないし、バンドを組んだだけの自分たちにそんなに高価なアイテムをくれたことが理解できなかった。


「でもそれは普人君が持ってきたアイテムがCランクのアイテムだったら、という話よ」

「実際そうなんじゃないんですか?」


 アンナの言っていることに対して不思議そうに尋ねる多々良。他の二人も同じ気持ちだ。


「それがどういうわけか彼は自分の実力を勘違いしていてね。実際はとんでもなく強いのに自分がそんなに強くないと思っているのよね。外部から言っても全く受け入れようとはしないわ。彼の中で確固たる何かがあるんでしょうね。信じられないでしょうけど、彼は多分……いえ間違いなく世界最強の探索者よ。彼が今日Cランクだと言っていたダンジョンもSSSランクの誰も攻略していない未踏破ダンジョンね。私たちが閉じ込められていたダンジョンだから勿論知っているわ。彼にとってはあそこに出てくるモンスターはCランク級くらいだと思っているのよ」

「それってつまり今日くれたプレゼントは……」


 アンナの説明に多々良たちバンド三人組は顔を青くする。


「そういうことよ。どのアイテムも数十億はくだらないわね。どれもがここ以外のどこかで鑑定に出せばあなた達の命を狙っても欲しがるような効果のあるものばかりだったわ。幸いあなたたちが貰ったプレゼントは全て使用者固定アイテムだからあなた達以外は使用できなくなったけどね」

「そ、それは本当ですか……?」


 続くアンナの言葉に汗を滝のように流しながら多々良はなんとか返事を口にする。


「本当よ」

「それが本当ならそんな高価な物貰うわけには……」


 多々良としてはそんなヤバい代物を受け取りたくはなかった。


「それは駄目よ。もうプレゼントとして受け取ったんだし、あなた達が所有者になっているから。それに彼にとってはCランク以下のアイテムであり、大して価値のないものだしね。ただ、そのアイテムの事を誰かに気づかれたら命を狙われるかもしれないから気を付けてねってこと」

「そ、それはますます受け取りたくないような?」


 他の二人も多々良に同意するように首を縦に激しく振った。


 これから一生誰かに狙われる生活。考えただけでもゾッとする。


「それは彼のアイテムを身に着けていれば大丈夫よ。なぜならどの装飾品も結界機能を持っているから。しかもあなたが味方だと思っている人にも有効よ。よっぽどの相手じゃなければ死なないわ」

「よっぽどの相手ってどの程度の……」

「そうね。SSランクの私でも厳しいと思うわ」

「そ、そうなんですね。少し安心しました」


 恐る恐る尋ねる多々良だったが、余程の相手というのがSSランクという天井の存在でも厳しいと聞いて安堵した。


「そうよ。だからそれは必ず身に着けておくことね。そうでないと色々大変なことになるかもしれないわ。ちなみに汚れない機能もあるから衛生的にも問題ないわ」

『わ、分かりました!!』


 最後に茶目っ気たっぷりにウィンクしながら答えるアンナに、全員が最敬礼をして返事をするのであった。

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