第480話 外堀が固まり過ぎてもう遅い
「あぁ~!!お兄ちゃんがお姉ちゃんを泣かせてる!!」
「七海!?」
返事を聞き終わってホッとしている所に天使な妹の声が聞こえてくる。
ラックには決してここには誰も連れてこないようにと厳命していたはずなのに、なんでここに七海が居るんだ!?
「二人はここで何をしてたのかなぁ?」
七海だけでなく、天音が俺の前にやってきて前のめりになってニヤリと顔を歪ませる。
「私も気になるわね」
その後ろから零まで現れた。
「あれれ~?ここは何処デスよ~?あ、普人様、ワンワンッ」
さらに後ろには犬耳と尻尾を付けたノエルがキョロキョロと状況を確認して、俺の顔を見つけるなり、近づいてくる。
「いやこれは違うって、別に泣かせるようなことをしたわけじゃ!?」
「事実泣いてるじゃん!!お兄ちゃん何をしたの!!白状しなさい!!」
「いやだから俺は別に……」
集まってきた彼女達に詰め寄られて、俺はタジタジになりながら、シアに視線を向けたら、ようやく止まったらしい涙を拭って口を開く。
「ん。ふーくんは悪い事してない」
「ホントに!?なんか変な事されてない?」
七海はすぐにシアに駆け寄って体をペタペタと触りながら心配する。
最愛の妹に信用されてないだと!?
兄としてのダメージが大きすぎる!!
「変な事はされてない。告白されただけ」
「こ・く・は・くぅううううううううう!?」
端的に返事をしたシアに七海は変な声を出して叫び声をあげた。
え!?ここで言っちゃうんだ!?
俺はあまりに堂々とした宣言に目が点になる。
「ん。これで名実ともに嫁になった」
シアは目を少し腫らした顔を無表情のまま℣サインを突き出してしてドヤ感を溢れさせている。
めっちゃ自慢してるじゃん。
「お兄ちゃん!!どういうこと!?どういうこと!?」
全く心配ないと分かった七海が今度は俺の胸に体重をかけて問い詰めてきた。
「どういうことってそういうことだよ」
「えぇ~、お兄ちゃんって鈍感でヘタレでチキンじゃなかったの!?」
俺が顔を逸らして答えたら、七海から衝撃的な答えが返ってきた。
「おいおい、それは流石にひどくないか?」
「だって初恋のみっちゃんにだって何もいえなかったじゃない!!」
「いやいや、それは大分前に話じゃないか……はははっ」
グサッ!!
七海の言葉が俺の胸に突き刺さる。
グハッ。
俺は深く突き刺さる言葉の刃に抉られたが、その痛みに耐えてなんとか笑って見せる。
「次のむーちゃんにだって何もできなかったでしょ!!」
「いや……それは、まぁそうだけど」
グサグサッ!!
再び俺の心に鋭い攻撃を放つ妹。凄まじい切れ味で俺の心が切り裂かれた。
グハッ。
思わずよろめいて倒れそうになったけど、なんとか踏ん張って答えた。
「そして、めいちゃんにも告白どころか話しかけることも出来なかったじゃない!!」
「え、あぁ、はい、すみませんでした!!」
グサグサグサッ!!
最後の七海の一撃は俺の心を打ち砕いた。
グハァッ。
俺はその場に崩れ落ち、四つん這いになって頭を下げるしかなかった。
「ななみん、ふーくんをいじめたらダメ」
「えぇ~、でもでもお兄ちゃんがこんな大胆なことをするなんて信じられなかったから……」
七海を後ろからギュッと抱きしめて俺への追及を止めさせてくれるシア。
すでに俺にライフはゼロだけど助かった。
「やる時はやる」
「はぁ……そうだね、今回はちゃんと言えたんだもんね……」
シアの言葉に未だに納得できないような表情を浮かべつつも、ため息を吐いてそれ以上俺を罵るのを止めた。
「ふふふっ。これで私も晴れてお義母さんに慣れたわけね?」
「はははっ。私もこれで大手を振って息子と呼べるわけだ」
そこにアンナさんと真さんがやってきてハンカチで目許を拭いながら、笑みを浮かべてこちらにやって来る。
「いやいや、だからそれは……」
この二人は俺がダンジョンから救出したせいか最初から歓迎ムードだったけど、気が早すぎる。
「あら、うちのシアでは不服という事かしら?」
「まさか、やることだけやって可愛い可愛い私達のシアを捨てようだなんて思っていないな?」
俺はまだ結婚する予定はないので、二人にそう言おうとしたが、何もを言えなくなるような笑みを向けてきて言葉を続けられなかった。
「あ、はい、勿論シアのことは幸せにしてみます!!」
俺が言えたのはもはやプロポーズのような返事だけだった。
「そうね、そうよね、流石私達の息子。よく言ったわ」
「いやぁ。やはり見込んだだけあるな」
その返事に気を良くした二人。
「お二人さん、その子は私の子なんですからね?」
さらにやってきたは母さんだった。ジト目で二人を見ている。
「それは勿論分かっているわよ。でも、これから家族になるんだからいいじゃない」
「いやぁ。ウチには息子はいないからついはしゃいでしまった。すまない」
この三人は本当にいつ間にかまるで旧友のように仲良くなっていた。それだけ何か波長が合うものがあったんだろう。
「普人」
「ん?」
母さんが一度ため息を吐いた後で、俺の方を向く。
「ちゃんと幸せにしなさいよ?」
「分かってる」
「ならいいわ。まぁ今のところはね」
母さんの真剣な表情にしっかりと頷いたら、母さんは満足したらしい。
「ん?」
「いえ、なんでもないわよ」
ただ、最後に何か言っていたような気がして首を傾げたけど、気のせいだったみたいだ。
「とりあえず、冷えてきたから戻って仕切り直しましょ」
「そうね。皆帰るわよ!!」
『はーい』
俺達はシアの家に帰ってパーティの続きをした。その日は皆シアの家に泊まり、一夜を過ごすのだった。
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