第482話 深海の大帝国(第三者視点)
大西洋の深い深い海の下。
そこには人間の街もかくやという街並が広がっているが、光らしきものが一切ない。それはここに住む生物が明かりを必要としないからだ。
二足歩行の人間のような体躯に魚の頭とヒレのある手足を持つ生き物、所謂魚人に酷似した存在が町中を歩いたり、泳いだりして移動している。
その街の中央に岩をそのまま城の形に削り切ったような建物があり、その内部は城そのもので、謁見の間には多数の武装した魚人達が集まっていた。
その中で、この街で一般的に流通している武装とは意匠の異なる防具を身に着けた一匹の魚人が、巨大な生物の骨で作成された玉座に座る王冠を付けた魚人に跪いている。
「ふむ。なるほど。ムー帝国による侵略は失敗したの言うのか。それは由々しき事態であるな」
魚人達が独自の言語を話し、水の中に水泡がこぽこぽと上に登っていく。
膝をついている魚人はムー帝国からの使者であり、玉座に座るのは大西洋の海底にあるアトランティス帝国の王であった。
使者は被害状況と戻ってきた瀕死の兵士の証言を必死に訴えかけていて、王はその言葉を深刻に受け止める。
「はっ。どうやら人間どもは予想以上の戦力を有している模様。一国での侵略は現実的とは言えません。ぜひアトランティス帝国のお力もお借りしたく」
「まさか人間どもがそれほどの手を力にしていたとは思わなんだ。よかろう。我が国も力を貸そう。それから四天魚王も派遣しよう」
「なんと!?良いのですか?」
力を借りられるとは思っていたが、兵士はその後に出てきた言葉に眼を見開かせて驚いた。
なぜなら四天魚王とはアトランティス帝国でも最強の戦力の四人の魚人のことだ。その魚人は国の守りの要として国の四方を司っている。その力を動かしてしまえば、国の防備がおろそかになってしまう。
だからこそ使者は驚いたのだ。
「うむ。質も大事だが、数は暴力だ。その暴力を跳ねのけるだけの力を有するのであれば、出し惜しみしている場合ではあるまい。それに今海底帝国同士での諍いがあるわけでもない。国の警備に必要な兵力以外は投入してもよかろう」
以前は小競り合いや他の帝国を侵略しようとしたこともあったが、今に至ってはそのような動きはもうほとんどなくなり、お互いに不可侵条約と同盟を結んでいた。
そして、新たな脅威が出てきた以上、お互いにすきを窺っている場合ではない。そのため、王も一つの決断をすることにした。
「それはありがたきこと。我が帝国も十二魚将が参戦する予定です。さらにレムリア帝国にも使者が向かっております。かの国の八魚衆が加われば鬼に金棒。一兵卒を何人蹴散らせるような戦力であろうとも勝利することができるでしょう」
「ふむ。あちらの国にも使者を送っておったか。確かにムー帝国の十二魚将とレムリア帝国の八魚衆は我が国の最高戦力に匹敵する武力。三つの力が合わさればどんな敵も打ち倒すことができような」
「はっ」
それぞれ自分の国の最高戦力の力は良く知っていた。そしてその戦力が単純に三倍になった時の凄さも理解できる。しかし、きちんと連携が取れれば、その力は三杯では収まらない。
ここにいる魚人達は全員が勝利を確信できる程の戦力だった。
「ふむ。それでは三国の足並みが揃い次第、会議を行いたいところだな」
「特急魚を使えば、離れた三国と言えども数日で連絡が付けられますので、決まり次第ご連絡いたします」
特急魚とは海の中を凄まじいスピードで泳ぐ全長二メートル程の魚で、その速度はマリアナ海溝にあるムー帝国から大西洋のアトランティス帝国まで、約二日ほどで移動できる魚だ。
ネット環境には遠く及ばないのは、海中ではそういう文化が使用できないため仕方がない。
「うむ。それでは下がるがよい」
「ははっ」
話がまとまったので謁見を終え、使者を退出させた。
「して、この度の戦いをどう見る?」
「はっ。あまり人間を舐めるのは得策ではないかと」
王の顔が隣に立って先ほどまで使者を見下ろしていた魚人に尋ねると、彼は頭を下げてから答える。
「ほう?」
その答えに王は興味を持った。
「ムー帝国の兵士の一兵卒といえば精強な者達ばかり。その者達の中で一定数の者が帰ってきたとなれば分からなくもありませんが、生き残りはたったの一人。どう考えても普通ではありません。だから私は人間だからと言って甘く見てはいけないと感じております」
「なるほどな。確かにお前の言う通りだ。四天王最強ギーグよ。してどうすれば勝てる?」
ギーグの説明に王は頷く。
「やはり十二魚将と八魚衆との連携はかなり重要になってくるかと」
「そうか分かった。話が決まり次第、しっかりと連携を取るための期間を設けよう。どうせ人間達は我らの存在に気が付いていない。侵略するまで徹底的に力と連携を高めてから万全の状態で臨むだ」
「ははっ」
それからしばらくして海底世界の大国同士が結びついた。
彼らはしっかりと時間をかけ、お互いの戦力の連携を図った。気づけば、国同士の垣根を越えて、しっかりと連携が取れるようにトレーニングを行い、圧倒的な武力を手にすることになってしあった。
彼らが各地に侵攻を始めるまでの時間はあまり残されてはいなかった。
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