第473話 団欒(笑)

「えらい目にあったな」

「もうちょっとでお兄ちゃんと結婚できたのになぁ~」

「ん」


 俺達は精神的に何日もゲームの中にいたので非常に疲れている。しかし、強制排出されたら、そとでは一時間程度しか経っていないので、感覚のずれに少し苦労した。


 多分時差ボケみたいなものだ。


 七海とシアは呑気なものだ。ただ、七海は冗談だろうけど、シアは真剣かもしれない。とりあえず触れないでおいた。


「ごめんね、私が持ってきたゲームのせいで……」

「いえ、気にしなくていいのよ。皆面白そうって参加したんだから」


 一人だけ落ち込んでいるのは、混乱状態を引き起こした元凶である『ネクストライフ』を持ってきて、みんなとやることを提案した天音だ。


 確かに持ってきたのは天音だけど、零の言う通り、リアルで人生追体験ゲームをできるなんて皆凄く面白そうだから飛びついた。


 誰も悪くない。悪いとすれば、イベントの進行を妨げた俺達だろう。しかし、嫌な物は嫌なのでしょうがない。


 アキやバンド三人娘には悪いけどな。


「そうそう、天音ちゃんは謝る必要なし。逆玉乗れなかったけど!!」

「そうだよ、天音ちゃんは何も悪くないよ!!理想のイケメンと結婚できなかったけど!!」

「うんうん、むしろ持ってきてくれてありがとうだよ。完璧な旦那と結婚できなかったけど!!」


 しかし、当の三人娘は全然悪くないといいつつ、根に持っているのが分かる。


 まぁ女の子としては理想の相手との理想の結婚が出来なかったってのはとても未練の残る結果なんだろうなと推測できる。


「絶対に攻めてるよね、それ?」

「あ、あははっ。冗談だよ冗談」

「そうそう。ほんの場を和ませるフレーバー的なアレだよ!!」

「うんうん、ホントホントこうやって言ってた方が暗くならなくて済むでしょ?」


 七海が三人をジト目で見つめると、三者三葉の方向を向いて焦った様子で冗談だと言い張る。


 全然誤魔化せてない!!


「これ以上、この話題は止めましょう。折角の新しい料理が美味しくなくなってしまうわ」

「そうだね、このミートパイ美味しいよ!!」

「あら、美味しそうね。私も頂くわ」


 零がパンパンと手を叩いて自分に注目を集めて、無毛な言い争いを終わらせ、何日も飲まず食わずだったような気持でゲームの中から出てきた俺達は、また新たに用意されていた料理に舌鼓を打つ。


「それにしてもあーちゃんはどこであのゲームを手に入れたの?」

「そうね。私もあるのは知っていたけど、今まで見たことがなかったわ」


 意気消沈している天音にゲームを手に入れた経緯を尋ねる。


「あぁ~、あれね、クリスマスパーティに行くって言ったらくれたのよ、おじさんが」


 すると、ここで予想外の人物が上げられた。


 どうやらあれは新藤さんが天音にプレゼントしたアイテムらしい。あの人は天音を溺愛してるからな、俺に牽制してくるくらいには。


「あのおじさん、あーちゃんのこと大好きそうだもんね」

「そうねぇ、可愛がってくれてるのは間違いないわね、最近スキンシップが鬱陶しいけど。まさかあんなに危険なゲームだとは思わなかったわよ」


 七海が新藤さんの事を思い浮かべつつぼんやりと返事をすると、天音は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


「ん。あれは危険」

「もうやらないようにしましょうね、少なくとも私達は」

「そうだね、天音ちゃんもしっかり封印しといてね」

「ええ。任せておいて」


 先ほど目と目で語り合った内容を改めて俺達は話し合う。


「えぇ~、やりたいなぁ」

「そうだよ、やりたいよぉ」

「他の子達とやりたいのに~」


 それをバンド三人組が文句を言う。


「やったらいいと思うわよ。私のは貸すつもりはないけど、オークションとかに出るかもしれないわ」


 しかし、天音は譲ることなく断り、自分たちで手に入れたらご自由にどうぞときちんと責任を取らせる選択肢を提示する。


「えぇ~絶対手に入れられない奴じゃん、それ」

「そのくらいで諦めるなら止めた方がいいと思うよ」

「ぶーぶー」


 多々良さんが不満げに呟いたけど、七海が中学生にして全くただしいことを言ったら、何も言えず豚になった。


「あ、外見てよ、雪が降ってきたよ」

「ホワイトクリスマスってやつね、庭がライトアップされているせいか、ファンタジーっぽさを感じるわ」


 そんな時、七海が何かに気付いたように外を見ると、雪がフワフワと地上に落ちてきていた。さっきまではそんな兆候なかったと思うだけど、その数はどんどん増えていく。


 これは明日以降の交通機関が心配なところだ。俺達にはラックが居るからあまり関係ないけどな。


「ウォンッ」


 今日もひっそりと参加しているラックを撫でる。


「それじゃあ、クリスマスらしくなってきたし、そろそろ今日の主役を搭乗させましょうか」

「主役?」

「クリスマスケーキよ!!」

『さんせーい!!』


 頃合いを見計らってやってきたアンナさんが皆に提案すると、皆が我先にと手を空上げてデザートタイムに入ることになった。


 一体どんなケーキが出てくるか楽しみだ。

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