第472話 封印指定遊戯
「……さい……さい普人」
ん?誰かの声が聞こえる。
しかし、周りは真っ暗で何も見えない。ここはどこだろうか。
「起き……い。起きなさい!!普人!!」
その声は非常に聞き覚えがあり、俺が小さなころから知っている声だ。
「んあっ!?」
俺は条件反射的に上体を起こして目を開く。
俺のすぐ横には心配そうな母さんの顔があった。追体験した時と違ってなじみ深い母さんの顔だ。
「はぁ……やっと目を覚ましたわね」
母さんは呆れた顔でようやく起きた俺の顔をみる。
「どうなってんの?」
状況がよく呑み込めない。
ここは俺達がゲームに入る前に居た部屋だ。周りでは俺と同じようにゲームに入っていたメンバーが起き出していた。
「あなた達が吸い込まれていったと思って暫くしたら、急に全員飛び出してきたのよ」
つまりあの一瞬だけ聞こえた機械音の言う通り、俺達は爆発と同時にゲームの外に排出されたってことか。
母さんの言葉が裏付けとなって俺は状況を理解した。
「そういうことか。他の皆も無事?」
「ええ。普人が最後だったのよ」
「了解」
他のメンバーはひとまず問題ないということが分かればそれ以上は今の所大丈夫だろう。
「一体何があったの?」
「それが詳しいことは分かってないんだよ」
落ち着いた俺に母さんが尋ねるが、俺は正直に答える。
「そうなの?」
「うん、これって所謂すごろくみたいなゲームをとんでもなくリアルにして、マスに止まった出来事をまるで現実のように体験するゲームなんだけど、そのゲームのイベントの途中でいきなり放り出されたんだ」
「ふーん、なるほどね」
母さんが不思議そうな顔をするので、俺はゲームの内容と今の状況になった経緯を大まかに説明した。
母さんは納得したようなしないような顔で返事をする。
「具体的にどんなイベントの途中だったの?」
「知らない相手との結婚式」
「あ、母さんなんとなく分かった気がしたわ」
母さんの質問に答えたら、母さんはピーンと来たといった表情になった。
「え?」
俺はまさか母さんが分かるとは思わず間抜けな顔を晒す。
「あんた達、誰か分からない人物と結婚するのが嫌で暴れたんじゃない?」
「……そういえば結婚式を破壊しような感じにはなったかな、皆で」
母さんがしたり顔で俺達の行動を言い当てた。
流石母さん俺達のことが良く分かっている。
「原因はそれよ。本来普通に結婚してゲームが進むはずなのに、あんた達が無茶したからゲームのシステム側がその現象を許容できなくなったんでしょ」
「言われてみればそうかも。母さんの言う通り、イベントを何回も無理やり終わらせたりしてたら、進行役のAIが何かを気にしていたみたいだし。でもあんだけリアルだからそのくらい対応できてもおかしくはないと思うんだけど」
母さんの言っていることが正しい気がするけど、あれだけ神の如き力を振るうことが出来るのに、そんなことあるんだろうか。
「リアルだからこそじゃない?想定されていない状況になると、どうにもならなかったんじゃないかしら」
「そういうことか」
確かに高度になればなるほど想定外のイレギュラーに対応できないという可能性はあるかもしれない。
森が焼かれたりするのは想定内だけど、イベントを拒否するという想定は端からされてなかったということか。
「こっちもあんた達の状況が良く分かったわ。それなら大丈夫そうね」
母さんも俺達が気を失った状態で外に出てきたことの理由が分かったことで、俺達の体には問題なさそうだと安堵する。
「そうだな」
「それじゃあ、皆少し休んで落ち着いたらまたパーティの続きをしましょ」
「了解」
俺達は少し休憩することになり、部屋の端に用意されたテーブルに移動した。
そこには皆も案内されていて、椅子に座って飲み物を飲んでいる勢とガックリ項垂れている勢がいた。
「あ、お兄ちゃんも大丈夫みたいだね」
「ああ。七海も体は問題ないか?」
「うん、全然平気」
話しかけてきた七海に返事をして、妹の無事を確認した後、
「他の皆も……問題なさそうだな」
他の飲み物を飲んでいるメンバーを見回す。
「ん。問題なし」
「平気よ」
「私も問題ないわ」
「私も元気デスよ!!」
彼女達は全く問題なかった。しかし、ガックリ項垂れている勢の落ち込みっぷりが凄い。
「おいおい、お前たちは大丈夫なのか?」
「……普人、これが大丈夫に見えんのか?」
アキが項垂れていた状態からゆっくりと顔を上げて俺に尋ねる。
その瞳にはハイライトがなく、体全体に生気が感じられない。
これはいよいよヤバそうだ。
「おいおい、どうしたんだよ一体」
「それがよぉ……」
俺が尋ねたら、再び俯いてぼそぼそと話し出すアキ。
「ああ」
「あと一歩だったんだよ……」
「何が?」
相槌を打つと、話を続けるアキだけど、守護がないので聞き返す。
「あと一歩だったんだ……」
「だから何がだよ」
しかし、重要な部分を言おうとしないのでもう一度問い返した。
「あと一歩で国民的アイドルの女の子とゴールインできそうだったんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そしたら、立ち上がって天井に向かって咆哮したかのように叫んだ。
「うるせぇ!!」
「お前に分かんのか!!結婚寸前で現実に引き戻された俺の気持ちが!!」
俺の罵声に俺の襟首をつかんで涙ながらに語るアキ。
「いや、それは……」
「分かんねぇよなぁ!!現実もリア充なんだからよ!!ちくしょぉおおおおおお!!」
俺が言い淀んだら、俺の襟首を突き放して、テーブルをドンと叩きながら悔しがった。
「私も超イケメン男子との結婚が!!」
「私も理想の彼氏との結婚が!!」
「私もスポーツ万能容姿端麗頭脳明晰男子の結婚が!!」
それに呼応するようにバンド三人組も慟哭しはじめた。
それを見た俺達は『ネクストライフ』はもう二度とやるのを止めることと、それと似たようなアイテムを手に入れたら即座に処分することを、目線だけで合図し合って決定した。
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