第471話 愛はエクスプロージョン!!

「ぐわぁああああああああああああ!!良いところでぇえええええ!!」


 アキが頭を掻きむしりながら暴れている。


「突然シア幸せが終わっちゃった……」

「そうだね、誰か知らないけど凄く大事にされてた……けど消えた……」

「それ。幸せのピークを迎える寸前で真っ暗になった……」


 一方でバンド三人組はまるでとても幸せな夢から覚めてしまったかのような、喪失感を感じさせる暗い表情になっていた。


 俺達が目を覚ました後、幸せそうに眠っていた彼らは程なくして目を覚ました。しかし、追体験が俺達同様に途中で終わってしまったようだ。


 俺達と違い、彼らはとてもいい夢を見ていたらしく、目を覚ましたら最初意味が分からないという表情をしたが、ここがゲーム版の上だと理解すると今のような状態になってしまった。


 よっぽどデートがよかったということか。


 俺には全く知らない相手とデートがしたいという願望はないので、理解できないな。


 それにしても俺達が追体験を終わらせた後に彼らも目覚めたというの無関係じゃないだろう。多分俺達が目を覚ましたことで彼らも目を覚ますことになったんだ。それはちょっと悪いことをしたなと思う。


 まぁ恨まれたくないので黙っておくことにしよう。


『うーむ、一体どういうことでしょうか……』


 アトラが不思議そうな声色で誰にともなく呟く。


 さっきも何か言ってたけど大丈夫だろうか。


「おいアトラさっきから何か言っているけど、大丈夫なんだろうな?」

『え、あ、はい。軽微なバグが起こったみたいなので、パッチ当てておきました』

「そうか?それならいいんだけどな?へんなことが起こらないように頼むぞ?」

『はい、このシステムAIのアトラにお任せください』


 念のためアトラに確認したけど、思考の海に飲まれていたのか、一瞬返事が遅れた。


 どや顔で胸をポンと叩く女の子が幻視されるけど、なんか不安だ。


『さぁさぁそれでは先に進みましょう』


 俺の心配をよそにアトラはゲームを勧める。


 給料マスで給料を受け取り、家を買ったり、アキのコンサートを見る羽目になったり、ノエルのコスプレイベントに参加することになったり、天音のライブを見に行ったりした。


 そこまでは何事もなくゲームは進行していく。ただ、その後には超重大なイベントが待ち構えていた。


『け、けけけけけけけ、結婚!?』


 そう、それは結婚だった。これは全員が強制的に止まらなければいけないマスで、必ず通る道。全員が何者かと結婚することになる。


『追体験スタート!!』


 アトラの合図によって、意識が暗転して場面が変わる。


 そこは教会の入り口部分で、これから神父の前に行ってお互いの意志を誓い合う場面。


「くっ」


 恋人とのデートの時は体が動いたのに、ここではなぜか動かない。


 俺の意志とは関係なく、ベールで顔を隠した女性とともに神父の許に一歩、また一歩と近づいていく。


「ふふふふっ。もう逃げられないわよ?」


 隣の女性から俺の腕に自身の手を絡める女性から不穏の声が聞こえた。その女性は俺がデートで置き去りにした相手だった。


 ベールの中には狂気にみちた笑みが浮かんでいるのが分かった。


 一体どうしてこうなった!?


 うぐぐぐぐぐぐっ。


 俺はちょっと本気を出して体を動かそうとする。


―ギギーガガガガガ、ザザザッ


 すると、まるでノイズが走ったみたいな音が脳内に広がり、体を激しい痛みを通り抜ける。


「むだよ。むだ。そんなことをしても私からは逃れられないわ」


 なぜかヤンデレ化した女性が俺の耳元で囁く。


 その間にも少しずつ神父との距離が縮まっていく。


 くっそ。このままじゃ、この猟奇的な相手と結婚させられてしまう。


「うぎぎぎぎぎぎっ」


 俺は体に気を込める。


―ピーガーガガガガガッ


 すると、空間全体にノイズが走り、狂気に満ちた女性もその姿を歪ませる。


「ふふふっ。ここまできたらもうおしまいよ」


 体がノイズでおかしくなりながらも口が裂けるように笑みを浮かべた。俺は抵抗虚しく、神父の前まで連れてこられてしまう。


「それでは誓いの言葉を」

「新郎佐藤普人。あなたは新婦●×△を妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、●×△を愛し、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」


 進行役の言葉に従い、神父が俺に問い掛かる。


 俺の口が勝手に動いて、その言葉を発しようとする。


「誓いま……」


 くそっ。絶対に言わねぇ!!


 俺は気を全力で纏って抵抗した。


―ピピーガガガガ、ピー、ザーザザザザッ

―パリーンッ


 そして抵抗しつづけた結果、何かが割れる音ともに俺の体が自由になった。


「せん!!」


 俺はハッキリと誓いを否定してやった。


「~~!?」


 ベールの中で女の顔が歪む。


―パリーンッ

―パリーンッ

―パリーンッ

―パリーンッ

―パリーンッ


 そしてさらに割れる音が五度続いたと思えば、


「お兄ちゃーん!!」


 上から七海の声が聞こえた。


 上を見上げると、そこには純白のウェディングドレスをきた五人の少女が落ちてくるのが見えた。


 それはシア、七海、天音、零、ノエルの五人だ。


 まるでスカイダイビングでもしているような格好で落下してくる。俺は気を纏った拳でほんの少しだけ呷って彼女達を無事着地させた。


「どうしてここに?」

「お兄ちゃんよりダメダメな男だったから嫌で抵抗してたらこれた!!」

「私も。私の旦那はふー君だけ」

「私は別にあんたには興味ないんだけど、わけわかんない奴と結婚させられるのはいやだったから思い切り力を籠めたら空間が割れたのよ」

「私も全然知らない人と結婚はちょっと……。顔や性格はいいのかもしれないけど……」

「私も結婚するなら普人様に決まってるデスよ!!」


 俺の質問に各々の理由を述べる。七海は俺が好きすぎるので分からなくはないし、シアとノエルは相変わらず俺への好意をストレートに表現し、天音と零はどうやら相手気に入らなかったらしい。


「俺もだいぶ苦労したのに、よくここまでこれたな?」

「あともう少しって所で急に抵抗がなくなって世界を破壊できたよ!!」

「ちょうど同じ時に抵抗していたのかもしれないな」


 一人じゃなくて、皆の力が合わさった結果、最良の結果を引き寄せることができたということか。


「それで、どうするの?せっかくだから私達で結婚しちゃう?」

「ん、それがいい」

「賛成デスよ!!」

「ふ、普人君がどうしてもっていうならやってあげないこともないわ」

「わ、私は知らない人よりは佐藤君が相手なら助かると思うわ」


 七海が茶目っ気たっぷりにニヤリと笑って悪ノリで提案すると、全員がその案に乗ろうとした。


―ビー、ビー、ビー


『致命的なエラーが確認されました。プレイヤーを強制排出します』


 しかし、警告音のようなものが鳴り響いた後、アトラとは違う機械的な声が鳴り響き世界が爆発した。

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