第470話 システムを超える力

 アキに触れないというお決まりをやった俺たちは、その後ちゃんと話を聞いてやって俺たちはようやくゲームを再開した。


「お花見大会をする」

「バーベキューをする」

「キャンプに行く」


 などのマスに止まると、全員で追体験することになった。


 それぞれの職業の仲間と一緒にそのイベントに参加するんだけど、その同僚たちはモブみたいになっていて、目元が見えない感じ。会話も中身のない物だった。


 そこに全員が同じ会場でイベントに参加していることに気付き、それぞれのグループから抜け出して一緒に楽しんだ。


 この時ばかりは自由に体を動かすことができた。


『うーん、おかしいですね?』

「何かあったのか?」

『いいえ、なんでもありません。軽微なバグでしょう』

「それならいいんだけどな」


 イベントに参加し終わった後にアトラが疑問が残るような声を残したが、システムである彼女が問題がないというのならないのだろう。


「恋人とのデート」


 誰か一人がこのマスに止まったら、俺もそのイベントを体験することになった。


 そこは待ち合わせ場所として有名なスポット。


「お待たせ。それじゃあ行きましょうか」


 やってきたのは全く知らない女性。勿論ゲームの中ということで容姿は可愛いし、好みドストライクの女の子が現れた。


 しかし、それでも全然身に覚えのない相手。あったのは言いしれない嫌悪感だ。


「ごめん。俺は君のこと知らないからデートできないよ」


 気付けば俺は動かないはずの口を動かして言葉を発していた。その際、脳にピリッとした痛みが走った気がしたが、一体何だったんだろうか。


「えっ?私たちずっと付き合ってるじゃない!?」


 彼女はデートをしにきたのにいきなりそんなことを言われて困惑している。


 彼女はこのイベントのために生み出された仮想現実。彼女の行動は何も間違ってはいない。ただ俺がデートしたいと思う相手は彼女じゃない。


「ごめん。君のせいじゃないんだ。それじゃ」


 彼女には悪いけど、俺はたとえゲーム上の仮の相手だとしても恋人などという相手を作りたくなかった。


「待ってよ!!」


 俺はなぜか動く体を操り、その場から立ち去った。


 ある程度進んだ所で意識が暗転した。


「……戻ってきたのか……」


 俺は辺りを見回し、ゲーム盤の上に帰ってきたことを理解する。


「全くマスに止まった人間だけでなく、他の人間も巻き込むのは止めてもらいたいな……」


 俺は頭を振ってため息を吐いた。


「皆は……」


 俺は体を起こし立ち上がって庇を作って他の皆を見回す。


「死になさい!!」

「あんたなんてお呼びじゃないのよ!!」

「私に触れるな!!」

「バイバイ」

「さよならデスよ!!」


 俺のパーティメンバーたちは物騒なことを言ってバンと車の運転席を叩いて立ち上がった。


 何やってんだ、あいつらは……。


 俺は彼女たちの物言いに呆然となる。


「あら?ここは?」

「えっとここって……」

「あ!!戻ってきた!!」

「ん」

「やったぁデスよ!!」


 それと同時に意識がこっちに戻ってきたらしく、あたりをきょろきょろと見回している。


「あっ。お兄ちゃん!!」


 七海が車から飛び出して俺の車に飛び乗り、抱き着いてきた。


「すーはーすーはー」


 俺の体に顔をこれでもかと押し付け大きく息を吸ったり吐いたりする七海。


「おいおい、一体なにやってんだ?」

「何って?お兄ちゃん成分を補充してるんだよ?」


 俺が言葉を掛けたら、ひょっこりと頭をあげて俺を見上げる七海。


 あぁ……すっごく可愛い……。俺の妹可愛すぎる。


「なんだそれは……」

「いいでしょ。嫌な気分になった私を落ち着かせるのに必要なんだよ?」


 俺はにやけそうな顔をこらえ苦笑いを浮かべたら、七海は至極当然と言わんばかりの顔で答えた。


「はぁ……分かった分かった。好きなだけ補充すればいい」

「やった!!」


 妹の願いを叶えるのは兄の役目。


 俺はため息を吐きつつ、内心では満更でもない気持ちで七海に許可をだす。彼女はぱぁっと太陽が輝くような笑みを浮かべた後で、再び俺の胸に頭を押し付ける妹。


 まるで犬が自分の匂いをこすりつけてマーキングでもしているかのようだ。


「ん」


 七海の頭をポンポンと撫でていると、俺の服の裾を引っ張る力を感じた。横を見ると、シアが俺の車に乗り込んできて俺の服を引っ張っていた。


「私も」


 どうやらシアも俺成分が必要ということらしい。


 しかし、彼女と俺は家族ではないのでくっつくのはおかしいと思う。


「未来の旦那にくっつくのは問題ない」


 俺の考えを読むように返事をするシア。


「はいはい、分かった。好きにしてくれ」

「ん」


 シアが俺の右側に抱き着く。


「あ、あたしも混ぜてよね!!」


 今度は許可を取らずに天音が俺の左腕をとって、その豊満な母性を押し付けてくる。


「わ、私も背中を借りてもいいかしら?」


 それだけにとどまらず零まで俺の車に乗り込んでいた。


 いったい何がどうなってるんだ?


「あぁ~!!ズルいデスよ!!私も私も!!」


 ただ一人ノエルだけは周りをパーティメンバーに固められている俺に近づけないでいた。


「もう好きにしてくれ……」


 俺は抵抗することも出来ず、皆に抱き着かれたり、頭を預けられたりすることになった。


 起きてきていない皆の幸せそうな寝顔が憎たらしかった。

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