第466話 就職
『四』
『三』
『二』
『一』
アトラの合図と共に空中の数字の数に合わせて一マス一マス移動するたびに一時停止して、次のマスに止まるという動きをする。
この動きは空中に映し出された映像によって確認できる。なんだかすごろくをオートでやっているような気分だ。
『職業マスに止まりました』
四マス目あったのはオレンジマス。見た目はただオレンジ一色の床だったが、零がそこで止まると、徐々に床に文字が現れてきた。
「外科医になる。給料が五万ドル。だって」
まだ距離的には聞こえるところにいるので、零の声が俺たちにも聞こえる。
『あなたは外科医のマスに止まられました。あなたはこれからゴールをするまで外科医としてゲームを続けることになります。その職業でよければ、目の前に浮かぶウィンドウではいといいえを選択してください』
零の呟きの後にアトラがマスの説明を行う。
どうやら職業マスというのは何らかの職業になることができるらしい。一般職には探索者にはない職業が何種類かあるということのようだ。
「どうしようかしら……」
零は現在のマスの職業である外科医にするかどうか悩んでいる。多分一般職としてはかなり好待遇の職業だと思う。
ここで逃す手はないと思うんだけど……。俺なら即決していたな。
「分かったわ。外科医でいいわ」
そう言って零はどうやらウィンドウに現れた「はい」のボタンをクリックしたみたいだ。
『選択を確認しました。黒崎零の職業を外科医に設定いたします』
零の選択が終わると、零の体が光りだして、先ほどまで至福を着ていた彼女だが、いかにも女医といった雰囲気の服装に白衣を纏い、眼鏡をかけていた。
なんだかそこはかとなく、エロ漫画にでも出てきそうなエロい女医のお姉さんがッ出来上がった。
「え?え?なんなのこれ?」
零はいきなり自分の衣装が変わって困惑している。
『職業設定完了しました。合流地点である六マス先に向かって下さい』
零の焦っている様子はガン無視してアトラがゲームを進めていく。車も勝手に動き出して合流地点に到達した。
『給料日マスに到達しました。五万ドルを支給いたします。一万ドルを支払うことで万が一亡くなった場合に、一度だけ復活できる蘇生保険に加入することができます。いかがいたしますか?』
どうやら合流地点にあるマスは給料がもらえるマスのようだ。そして、一万ドル払うと蘇生保険に入れると……。
「って蘇生保険ってなんだ!?」
ついつい聞き流しそうになったが、ちょっと不穏な気配のする保険名に俺は思わず叫んだ。
『蘇生保険とは、もしゲーム内で死んだ場合、そこでリタイアとなってゲームの外に排出されるのですが、保険に入っていれば、一度だけ完全な状態で復活することができます』
「ゲーム内で死んだ場合、本当に死ぬとかないよな?」
『勿論です。もし致死のダメージを受けた場合、そのダメージは直接体に刻まれず、死んだとみなされてゲームの外に排出されるだけで、命には一切影響はございませんのであらかじめご了承ください』
「そうか。それならまぁ……安心かな」
あまりに不穏な単語が出てきたが、アトラの説明を受けて俺はホッと安堵した。
「いやいや、それって命の危険があるような状況が起こり得るゲームってこと?」
「マジ!?」
「ちょっと怖いかも!?」
しかし、一般人の三人は悲鳴を上げて驚く。
『確かに、現実で命に危険に晒されるような状況を疑似体験するので、それに近いかもしれません。どうしても続行が難しいという場合は、リタイア宣言することで途中でリタイアすることもできますのでご安心ください』
「そ、それならなんとかなるかも」
「そうだね、もし何かあってもリタイアすればいいもんね」
「そうね」
アトラが三人に安全措置があることを説明したら、三人もお互いに自分たちを落ち着かせることで決着がついた。
それから俺たちは順番にサイコロを振っていく。
その結果、零が外科医、山城さんがDランク探索者、七海がSランク探索者、田中さんがCランク探索者、多々良さんがAランク探索者、俺がFランク探索者、シアがBランク探索者、天音が歌手、ノエルがコスプレイヤー、アキは別にどうでもいいか、に決まった。
「いやいや、この俺の職業もちゃんと把握しろよ!!」
しかし、どうにもアキが自分の職業を言いたいらしく、無視することは出来なかった。
「ふふふっ。聞いて驚け。俺の職業は国民的アイドル。これでモテモテ間違いなしだろ!!」
ドヤ顔で自慢するアキだけど、全員がスルー。皆スルースキルが高いな。
とりあえず、アキも天音と似たような感じではあるが、芸能人系の職業になったようだ。
これにより全員が給料日にたどり着いた。
『蘇生保険に加入してください!!』
そして全員が蘇生保険に加入した。
この先、一体どのようなことが待ち受けているのか分からないだけに入らないという選択肢はなかった。
『佐藤普人様は所持金が足りないので加入できません』
ただ、俺だけは蘇生保険に入ることができなかった。
「なんでだよ!!Fランク探索者でも数百万とか数千万とか稼げるだろ!!」
『ナイナイ』
俺があまりの理不尽に叫んだら、何故か全員に首と手を振られて否定されてしまった。
そんなのおかしい。だって俺は稼いでいたんだから……。解せぬ。
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