第465話 ゲームスタート

『まずはじゃんけんでスタートする順番を決めてください』

『じゃんけんぽん!!』


 俺たちはアトラの指示に従い、じゃんけんで順番を決める。


「最初は私からね」

「ああ」


 順番は、零、山城、七海、田中、多々良、俺、シア、天音、ノエル、アキの順に決まった。


『それでは黒崎零さん、サイコロを振ってください』 


 アトラが指示をすると、目の前にサイコロがボフンと煙とともに現れる。ただし、そのサイコロはとんでもなくでかかった。


「お、大きいわね……」


 そのサイコロを見て零が呆然となる。


「これって私たちもこんなに大きなサイコロを振ることになるのかな……」

「こんなに大きなサイコロなんて無理だよぉ……」

「動かすことさえできないよね……」


 バンド三人組は探索者適性のない一般人なので、サイコロを転がすことが出来るのか不安になった。


『各自の力にあった重さになりますのでご安心ください』


 彼女たちの言葉が聞こえていたらしく、アトラが補助説明を行う。


「よかったぁ……」

「あんなに大きいのは無理だもんね」

「そうだよね、あんなの私たちじゃ手に負えないよね」


 三人はホッと安堵してお互いに笑いあう。


 なんだか会話が微妙に卑猥に聞こえるのは、俺の心が真っ白じゃなくなったからだろうか。


「ふぅ……。それじゃあ、振らせてもらうわね」


 しばらくして自分の世界から現実に帰還を果たした零がサイコロの傍に行って持ち上げる。ただ、取っ手や溝などがないので、大きさ的にちゃんと持つことは難しい。


「やぁ!!」


 だから、零はそのまま持ち上げる勢いを利用してサイコロを転がした。サイコロは勢いよく転がってルート外にある森に向かって勢いよく進んでいき、森に当たった瞬間豪快な音が響かせて木々をなぎ倒した。


 何十本かの木をなぎ倒した後土煙を上げて止まった。


「いやいや、大惨事じゃねぇか!!」

「完全に森が破壊されるんですけど!?」


 俺と七海が代表して声を上げるが、他のメンバーも似たようなものでその光景に騒然となった。


『あ、問題ないので進んでください。出目は四です』

「おいちょっと待てよ。いいのかあれ?森が結構ボロボロになったぞ?」

『え?あ、はい。全く問題ありません。ほら、この通り、元通りです』


 しかし、アトラは我関せずというか、環境破壊には目もくれず、そのままゲームを進めようとするので、俺が確認してアトラが返事をした後、森が光を放ち、サイコロがぶち当たって一角がぼろぼろになったことなど全く感じさせないほどに元通りに戻っていた。


『えぇえええええええええええええええ!?』


 俺たちはその光景に驚愕して揃って絶叫した。


「一体どういうことなんだ?」

『お忘れですか?ここはゲーム空間です。世界の一部が壊れた程度なら元通りに復元可能です。なので、自然や街並みを壊してしまっても気にせずに、出目に応じて先に進んでください』

「はぁ……そういうことか……」


 俺たちはうっかり忘れていたが、ここはダンジョンのアイテムであるゲームの中だった。そりゃあこういう不可思議なことがおかしくはないはずだ。


 時間さえ操ることが可能なんだ。破壊された地形を直すくらい訳はないか。


「とんでもないゲームだな、ここは……」

「いやぁ。私もやったことなかったんだけど、ここまで凄かったとは思わなかった……」


 言い出しっぺである天音も乾いた笑いを浮かべながら呟いた。


『もうそろそろいいでしょうか?』

「零、いけそうか?」


 俺達が中々スタートしないに痺れを切らしたアトラが俺達に催促してくるので、俺は零に確認をとる。


「ええ、問題ないわ。そういうものだと思えば、その内慣れるでしょう。佐藤君のように」

「え?俺が何かしたのか?」


 ボーっとした様子で俺に返事する零。


 聞き逃すことができない言葉に、心当たりのない俺は思わず尋ねてしまった。


「え、いいえ!?佐藤君は全然動じてないみたいだから、あなたみたいに徐々に慣れていくでしょうって思ったのよ。ちょっとボーっとしてて言葉がおかしかったみたい」


 零は俺の質問にハッとして慌てて返事をする。


「ああ。そういうことか。俺が何かしてしまったのかと思った」


 零の返事で俺の疑問が氷解する。


 確かにさっきの光景は衝撃的だからな。ちょっとくらい言葉がおかしくなっても不思議はない。


 ただ、我らの頼れるお姉さんである零がここまで驚くとは意外だったな。


 俺はホッとため息を吐いて安心した。


「いいえ、そういうことじゃないから安心して」

「そうか。それじゃあ、早速スタートしてみてくれるか?」


 安心したところで、首を振る零にスタートしてもらうようにお願いする。


 またぞろアトラが催促してきたり、もしかしたら強制的にスタートさせたりするかもしれないからな。


「分かったわ。この車に乗ればいいのよね」


 零は一人一台用意された安っぽいオープンカーに乗り込み、シートベルトを締めた。


「わわ、勝手に動き出したわ」


 車に乗り込んだの確認するとどうやら自動的に動き出すようで、勝手にスタートの方に向かっていく。それほど早いスピードじゃない。


 そして、スタートラインの前で一度止まると、空中に出た目が表示された。


『改めましてゲームをスタートいたします。よーい、スタート!!』


 アトラの合図で人生を追体験するゲームが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る