第456話 目的が差し代わることなんてよくある事
ラックがリベンジを果たし、魔石と宝箱を影の中に仕舞って先へと進んでいく。ラックたちによってマッピングがスムーズに行われていくので、俺の感覚だけでなく、完全に最短距離でダンジョンを進んでいく。
「ウォンッ」
「おお、ここがそうか……」
シアの両親を助けた時と比べて非戦闘員が居ないため、ぐんぐん潜っていき、気づけば真さんとアンナさんが助けた階層まで戻って来た。
それをラックが教えてくれたのだった。
ラックの影魔もこのダンジョン内には放っていなかったので、ここまで転移で来ることはできなかったが、遂に戻って来たようだ。
あの時のことを思い出す。転移に巻き込まれたと思ったら、いきなり、真さんが死にかけていたんだよな。エリクサー沢山持っていたおかげで助けられて本当に良かった。
俺の運に感謝だな。
もしあの時助けられていなかったら、シアは一生その悲しみを背負うことになったはずだ。それを阻止できたのはまさに運命と言ってもいいと思う。
運命か……。
俺ってば今の今まで引き延ばしてきたけど、そろそろ答えを出した方がいいよな。
俺は逃げ続けていた問題を考える。
今回のパーティはちょうどいい機会なのかもしれない。
俺はきちんと向き合うことに決めた。
それはそれとして、非戦闘員が居ないとはいえ、一日で二十階層以上潜ってきたのだから俺もまだまだ成長しているのかもしれないな。
ここまできたら、このダンジョンを踏破するのもいいかもしれない。
「今日の所はこの辺にして、休むか……」
「ウォンッ」
「そうだな」
しかし、潜ってそれなりに時間が経っているはずなので、俺はキャンプを張って野営することにした。
いつものように影にいれておいた食材を使い、ダンジョン飯を作る。匂いに釣られたモンスターがやってくることはなく―階層内をマッピングしている影魔達に殲滅されている、リスポーンされても瞬殺しているので、夜はぐっすりと休むことが出来た。
こんなことが出来るのもラックを仲間にしたおかげだよな。
最初は大して強くもなかったラックだけど、今では中々強い上に超便利機能満載で、どこかの猫型ロボットも真っ青な力を持っているので、今では本当に仲間にしてよかったと思う。
もしラックが敵になったら、一瞬で俺達は壊滅するし、人質でも取られた日には何もできずに人生を終えることになるだろう。
従魔になっているから大丈夫だと思うけど、その時がきたら諦めるしかないな。
ラックが敵対した時の対処法が思い浮かばない俺は、もしそうなったらどうしようもないと諦め、フリフリとお尻を振りながら駆けているラックの後ろを追いかけながらさらに下層へと進んだ。
敵モンスターの強さは下層に行ってもそれほど変わらず、Cランクモンスターが中心だった。俺もラックも何も考える間もなく瞬殺しながら奥へと走る。勿論宝箱を取るのは忘れない。
「あれは……アンノウンか?」
「ウォン?」
「そうだな。なんだか色が微妙に違うな……。ま、まさか……またボーナスタイムなのか!?」
四十階層に到達すると、そこには十階層で見たアンノウンそっくりのモンスターがいた。色違いなのでボーナスタイムに違いない。
「ウォンッ!!」
「やったぜ!!ぶっ倒すぞ!!」
「ウォウォンッ!!」
今回は時短のためラックと一緒に戦った。結果として再生能力は少しだけ高かったかもしれないけど、やはり元のアンノウンとの違いがあまり分からなかった。
しかし、やはりボーナスモンスターだったようで、とんでもないデカさの魔石をゲットした。以前四人のかなり人型に近いモンスターを倒した覚えがあるけど、その時にゲットしたバスケットボール大の魔石より大きかったので、もはやSSSランク魔石以上の価値があるかもしれない。
そこまでの大きさになると一体どれだけの価値があるか分からないな。
「また魔石貯金が増えてしまったな……」
俺はどんどん増える魔石貯金に呆然とするのであった。組織の資金として魔石を提出しているけど、それでもなおラックの影魔が倒したり、俺達がダンジョンに潜って倒したりしたモンスターからドロップした魔石やアイテムによって資金は全く減らなかった。
世界中で活動しているのに一体どうして減らないんだろうか。
全く不思議なこともあるもんだ。
そして、ダンジョンに潜って二日程経ってようやく俺とラックは最下層へとたどり着いた。
そこはダンジョン六十階層。
ボスはアンノウンと変わらない程度のボスだったので瞬殺した。
「ふぅ~。お疲れ様。Cランクダンジョンの制覇出来たな!!」
「ウォンッ!!」
「そうだな。早く家に帰って色んなアイテムで喜ばせてやろう」
「ウォンッ!!」
俺とラックは最下層から最上層にいる影魔に転移してダンジョンの外に出た。
「うわっ!?」
数日スマホを確認してなかったのでスマホを開いたら、沢山のメッセージと着信履歴が残っていた。
「お兄ちゃん!!今どこにいるの!!」
すぐに着信が一番残っていた七海に恐る恐る連絡すると、妹は滅茶苦茶怒っている。
「ど、どうかしたのか?」
「何言ってるの!?今日何月何日だと思ってるの!!」
七海の怒りの言葉にスマホを操作して日付を見る。
「あ……」
そこで俺は思いだした。
そういえば、俺はクリスマスプレゼントが見つからなくてダンジョンに入って息抜きするはずが、勢い余って制覇が目的にすり替わっていた。
そしてダンジョン内で数日たっている。
つまり今日はクリスマスパーティ当日。
「すぐに帰りまーす!!」
俺は電話を切ってすぐに家に転移をした。
■■■
「今何か声が聞こえなかったか?」
「確かに聞こえた」
監視員たちはすぐにダンジョンの入り口が見える場所に移動する。
「誰もいないな……」
「そうだな……」
しかし、そこには誰もいなかった。確かに声が聞こえたはずなのに……。
「そういえば富士樹海は昔から心霊スポットとして有名だったな……」
監視員の一人がふと思い出したように呟く。
「おいおい冗談言うなよ!!」
「ま、まさかそんなことないよな……」
もう一人の監視員が焦ったように返事をして糾弾すると、別の監視員も自分で言って置いて物凄く不安になり、冷や汗をかいた。
―ガサガサッ
『ひぃいいいいいいいいっ!!』
その日、二人の監視員は恐怖で眠れなかったとかそうでもなかったとか。
そのことを知る者は誰もいない。
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