第455話 リベンジ!!

 中に入った途端、何か重苦しい雰囲気が体に纏わりついてくる。Cランクダンジョンとは言え、こないだ材料を取りに行ったダンジョンとはくらべものならない空気が漂っている。


 じっくり見る機会がなかったけど、洞窟型のダンジョンで十メートル以上の幅と高さがあり、まるで巨人が通る事を想定しているような大型ダンジョンだ。


「うぉおおおおっ。久しぶりだけど、なんだかピリピリするな」

「ウォンッ」

「何?楽しそうだ、だって?ラックも言うようになったな」

「ウォンッ」

「はははっ。そうだな。前は最低限のモンスターとしか戦ってなかったからちゃんと戦っていこう」


 しかし、俺とラックはその何とも言えない緊張感にワクワクしてきた。ここには俺が一発で倒せないモンスターいるかもしれない。そう考えるだけで気持ちが高ぶってくる。


 俺達は日ごろのストレスを発散するため、すぐに奥に進むことにした。


『ウォオオオオオオオンッ』


 暫くして出てきたのは大きな狼。ただ、ラックとは違い、色は藍色っぽい色をしていて、その上、顔が二つあった。端的に言えば、オルトロスって空想上の生物にそっくりな見た目をしている。


 相手はこちらを餌としか見ていないようで、二つの頭の口元から涎をダラダラと流していた。


「どうやらお前を舐めているらしいぞ?どうするんだ?」

「ウォンッ」

「そうか分かった。ここは任せよう」


 俺の言葉にラックは体を大きくしながら答える。気づけば、相手のオルトロスとそう変わらない程の大きさになり、その真っかな瞳がきらりと光ると、鋭い殺気が放たれる。


『ウォンッ!?』


 その殺気に思わず体をビクリと震わせてたじろぐオルトロス。ここはCランクダンジョンだと思うから、入り口付近のモンスターは恐らくDランク程度だろう。それを威嚇だけで怯えさせるなんて本当に強くなったな。


 そしてその一瞬を見逃すようなラックではなかった。


―ズバーンッ


 一瞬でオルトロスの後方まで走り抜けると、凄まじい音と共に血が噴き出し、その場に崩れ落ち、体は粒子となって消え去って魔石だけが残る。


 やはりこの程度のモンスターでは全く歯ごたえがないな。せめてBランクモンスターであるアンノウンくらいの強さがないと。


「とりあえず、十階層に行ってまたアンノウンが現れていないか確認してみよう」

「ウォンッ」


 倒してすぐに大きさを戻したらラックが俺の許に帰ってきたら、俺達は宝箱を探しながら下層を目指した。


 一階層から宝箱が沢山あり、全く手つかずのようだった。それから二階層、三階層と進んでいっても状況は変わらず、宝箱が沢山ある。勿論俺は最短距離で移動しながらラックに階層全体のマッピングと宝箱の回収を頼んでいる。そのため、俺達は宝箱を回収にしながらでも圧倒間に十階層に到達してしまった。


 その上、隠し部屋っぽいところにあった宝箱もあって、これは良いお土産になるのではないかと思う。


「ウォンッ」


 十階層に到達してから暫く探索していると、ラックが俺に向かって吠える。


「どうしたんだ?」

「ウォンッワフワフッ」

「何?アンノウンが復活しているだって?」

「ウォンッ」

「それでリベンジしたいと?」

「ウォンッ」

「分かった。それじゃあアンノウンの所に行こう」


 吠えた理由はどうやらアンノウンで、初めてここに飛ばされた時に影魔とは言え、やられてしまったことが悔しいので、今回は自分でリベンジを果たしたいということらしい。


 俺は一度ぶっ飛ばしているのでラックにリベンジを果たさせるために復活したというアンノウンがいる場所に転移した。


「ピーガガガガガガガッ」


 転移すると、物陰の先から機械音が聞こえる。この音は効いたことがある。どうやらその先にアンノウンがいるらしい。


 顔を少しだけ出してその姿を確認する。


 そこには確かに以前見たアンノウンの姿があった。


「あっぶね!!」


 しかし、俺はすぐに顔をひっこめる。


―ズドォオオオオオンッ


 何が危なかったと言えば、顔を出した瞬間に光が放出されたのが分かったからだ。その光は光線となってダンジョンの壁面に激突し、大爆発を起こした。爆風によって俺の服がバサバサとはためく。


 中々の威力だ。


「ワウッ!!」

「分かった。リベンジしてこい!!」

「ウォンッ!!」


 その爆風の直後にラックが突撃していくのを見送った。俺は影に潜って二体の戦いを観戦する。影の中には影響がないからな。


 ラックが飛び出した途端、破壊光線を連発するアンノウン。しかし、そのどれもがラックにかすり傷一つ負わせることができない。なぜならそのスピードを生かして全て回避しているからだ。


 アンノウンの光線の連射速度も結構早いが、ラックのスピードには叶わなかった。


「ウォンッ!!」


 ラックはアンノウンの下に潜り込むと、体のサイズを大きくしてアンノウンを天井へとぶち上げた。


 アンノウンにとって真下は盲点であり、攻撃することが出来ない場所。ラックはそこに影魔を集結させ、全員が口を開けて必殺技であった咆哮を溜めている。


 アンノウンは悪足掻きとばかりに手当たり次第に光線を放つが、ラックの影魔に当たることはあっても本体にはかすりもしなかった。


『ウォオオオオオオオオオオンッ』


 本体と消されなかった個体全てからドラゴンのブレスのような咆哮が放たれる。


―ズガガガガガガガガガガガッ


 そのブレスはアンノウンを飲み込んで何も見えなくなり、そのダンジョンの天井にぶち当たって轟音を響かせた後もまるで掘削でもするような音が鳴り続けていた。


 数十秒後、ブレスが止む。


 全員がまだ構えをとかぬ中、二つの物体が落下してくるのが見えた。それは魔石と宝箱。


 それはラックのリベンジが達成された証拠だった。

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