第457話 最愛の怒り

「もうお兄ちゃん遅っそい!!本当に今の今までどこに行ってたの!!」

「それはちょっと気晴らしにダンジョンまで……」


 家に帰るなり物凄い剣幕で怒る七海。


 それはそうだろう。シアや天音、ノエル、バンド三人組も楽しみにしていたみたいだが、七海も物凄くクリスマスパーティを心待ちにしていた。


 それなのに当日になっても姿を見せずに連絡も一向によこさない。せっかく一緒にクリスマスパーティで過ごせる機会のに、それは怒って当然の話だった。


「はぁ!?こんな時にダンジョンに何日も籠ってたの!?いくらなんでも信じらんない!!そこに正座!!」

「はい!!本当にすいませんでした!!」


 その上、その場所がダンジョンで、そこに何日も籠っていたとしたら、怒りもさらに膨れ上がるのも無理はない。


 俺はなんの言い訳もせず、家の外にも関わらずにその場で土下座をして誠心誠意頭を下げる。


「プレゼントは買ってあるんでしょうね!!」

「……」


 しかし、その後の妹の追及に俺は何も言えなくなってしまった。


「皆と約束したのに!!もうお兄ちゃんなんて本当にもう知らないんだから!!」


 その様子を見た七海は腕を組んでプイっとそっぽを向いた。


 はぁ……そうだよなぁ。プレゼント探しに行っておいて、何も買えずにダンジョンに行ってストレス発散という名の現実逃避を行い、その挙句プレゼントを買うという目的も忘れ、ダンジョン探索に夢中になって当日まで忘れていたなんて呆れられても仕方がない程の大失態だ。


「本当に言い訳のしようもない。誠に申し訳ありませんでした」

「はぁ……私にだけ謝っても仕方ないじゃない……」


 ただ謝る事しかできない俺に、七海は呆れながらも少し怒りを納めてくれた。


 申し訳ないと思いつつも、妹は優しくて可愛いな、などと全く反省のしていないような思考をしてしまうのは駄目な兄貴だろうな。


「まぁそうだよな」

「それはまた後で謝るとしてプレゼントはどうするの?」


 七海は怒りを一旦仕舞い込むと、これからどうするかという話に切り替える。


「プレゼントは買っていないけど、Cランクダンジョン制覇してきたからその宝箱の中に良い物があるかもしれない」

「はぁ……全く……ダンジョン制覇しているなんてね。一体どこのダンジョンに行ってきたの?」


 まさかダンジョンを制覇しているとまでは思っていなかったようで、呆れつつもダンジョンの場所を尋ねる七海。


「富士樹海のダンジョン」

「あぁ。シアお姉ちゃんのパパとママが遭難していたダンジョンね」


 俺が答えた途端、七海はピンと閃いたように答えた。


「そうそう」

「確かにあそこならいいアイテムがあるかもしれないね。それじゃあ、時間がないから早速開けてみましょうよ」

「分かった」


 俺が相槌を打つと、希望が見えてきたと表情を明るくする七海。俺も否やはないので、すぐに七海に従って宝箱を一つずつ影から取り出して開け始めた。


 それから数時間後、ようやく宝箱を開け終え、使えそうな物とそうじゃない物を選別することが出来たのだった。


「一体どれだけの宝箱とってきてんの!!」

「多分ダンジョンにあった宝箱全部……」


 それが終わってすぐに七海が俺に詰めよってくる。まさかこんなに沢山の宝箱をとっているとは思わなかったようだ。


 俺は正直に答えた。


「そんなことしてるから遅くなるんだよ!!」

「いや、でも全部ラックに――」

「言い訳しない!!」

「はい、真に申し訳ございませんでした!!」


 しかし、そのせいで七海にまた凄い剣幕で怒られる羽目になった。言い訳しようとしても封殺され、俺は頭を下げる事しかできなかった。


「それはともかく思ったよりも使えそうなアイテムが少なかったね」

「そうだな」


 また怒りが再燃した七海が落ち着くまで待った後、俺達の前には十二個のアイテムが残った。


 それはどれも装備品で、ネクタイと腕時計は男達にプレゼントするとして、残りは指輪、腕輪、髪飾り、ネックレス、イヤリング、スカーフ、シュシュ、首輪、ロケット、ティアラの十種類。


「アイテムの効果は?」

「いや、全然分からない。残念ながら鑑定系の力はないからな」


 七海が俺に尋ねてくるが、何も分からない。前はシアが居たから、彼女が知っているアイテムがあれば聞くことが出来たけど、今日は俺と七海しかしかいないからな。


「そっか。それじゃあ、後はお兄ちゃんが誰に何を渡すか決めるしかないね」

「え!?七海は一緒に考えてくれないのか!?」


 俺の答えを聞いた七海は、突き放すように言うので、思わず狼狽えてしまう。


「当たり前でしょ!!むしろここまで一緒に手伝ってあげたんだから最後位自分で頑張ってよ!!それに私はパーティに行く準備をしなきゃいけないの!!」

「わ、分かった」


 七海は、困惑してしている俺に構わずに残りの作業を任せ、家の中に入って行ってしまった。


 女の子は準備に時間がかかる。


 それは当たり前の話だった。


「はぁ……なんとか選ぶしかないか……」


 俺は途方に暮れながらも誰にどのアイテムを上げるのか考え始めた。

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