第443話 これは演出です(第三者視点)

 暗くなった空間に突然灯りがともる。


 光によって現れた場所は舞台となっており、そこにはキーボードとドラムと三つのマイクが設置されていた。舞台袖から人が現れ、それぞれの担当の場所に移動し、準備をする。


『うぉおおおおおおおおおお!!』


 人が現れたことで暗闇に蠢く多数の人間の雄たけびが、空間を震わせた。


 ここは神ノ宮学園の体育館であり、ただいま文化祭の真っただ中で、たった今普人達が参加することになったバンドが舞台の上に上がったところである。


 彼らは派手目なハロウィンを題材とする衣装を身にまとっており、その衣装は今まで演奏してきた奏者たちの中でも群を抜いた完成度を誇っている。プロが作ったと言われても遜色ないほどの出来であった。


 突如として現れたクオリティが高そうなパフォーマーたちに否が応でも興奮が高まってしまうのは無理もないことだ。


「おにいちゃあああああああああん!!好きぃいいいいいいい!!」


 その中には勿論普人の妹である七海もいて、牧師風なギタリスト姿に完全にやられてしまい、目をハートにして叫んでいた。


 どこから取り出したのか、普人の顔写真が張られたうちわを持って振っている。

 

 当の本人は何百人もいる中から七海の声を聞き取り、その様子を見て苦笑いを浮かべた。


「皆とても決まっているわね。ノエルちゃんが作ってくれたんでしょうね。なかなかやるじゃない」


 隣では七海の興奮に若干呆れながらも普人達の衣装を見て、そのクオリティの高さにノエルの評価を少し上方に修正する零がウンウンと頷いていた。


「それでは聞いてください。一曲目は『KIZUNA DRIVE』」


 挨拶を自己紹介が終わり、演奏が始まる。


「キャー!!お兄ちゃん、滅茶苦茶上手くなってる!!」

「そうね、始めて一カ月も経っていないとはとても思えないわ。それに天音ちゃんとアレクシアちゃんもとても上手いわね。そして他の二人は少し劣るけど、他の子たちに触発されたのかものすごく頑張っているわ。文化祭でこれだけの演奏は中々見れないわよ」


 演奏が始まった瞬間、二人は普人達のクオリティの高さに驚く。


 天音はサラブレッドということもあって小さい頃から音楽に慣れ親しんでいたため、当然一定の上手さがある。それは小さい頃からピアノを習っていたアレクシアも同じだった。


 そして普人は熟練度によっておかしなことことになっている身体能力と感覚により、一般人ではありえないスピードで成長し、数週間でもはや素人とは言えないレベルまで弾けるようになっていたのだ。


 他の二人も元々レベルの高い二人と、異常な成長スピードを誇る普人に触発されて自分たちの限界を超えて成長し、今この瞬間も成長を続けていた。


 このまま順調に演奏が進んでいく。誰もそう思っていた。


 しかし、それは突然起こった。


―バチバチッ


 舞台の少し前のくらいの空中に光球が火花を散らして徐々の大きくなり、一メートルほどの大きさになると、徐々に光を失い、中からモンスターが姿を現したのだ。


『キャー!!』


 観客たちが悲鳴を上げる。


―スパァンッ


 ただ、次の瞬間にはモンスターは消え去った。


 なぜならキーボードを弾いていたアレクシアが自分が一瞬休むところを狙って手刀で斬撃を放ったからだ。


 しかし、モンスターの出現は一回では済まなかった。


 光球が次々と現れ、モンスターが姿を現す。


 でも、そのモンスターたちは地面に降り立つことなく、三人の人物プラス一人によって殲滅されていく。


 それは普人とアレクシアと天音、そして準備室の近くにいたノエルである。


「■■■■■■■■■■」


 中には言葉を話すような二足歩行のモンスターもいたが、その悉くが運よく普人のパンチに当たり、眩い光を放って一撃で消し去られていった。


 色とりどりの光を発してモンスターが次々と消えていく様子は観客たちに幻想的に映る。


「お兄ちゃぁあああああああん!!かっこいぃいいいいいいい!!」


 それにより、この光球も演出だと捉えられるようになり、観客たちの盛り上がりが最高潮に達した。


 演出だと思えるようになった一つにこの七海の熱狂的な普人熱があったのは知られざる事実である。


『赤ずきん!!赤ずきん!!』

『魔女っ子!!魔女っ子!!』

『ヴァンパイア!!ヴァンパイア!!』

『サキュバス!!サキュバス!!』

「なんでよ!!」


 観客席ではそれぞれのコスチュームにあった掛け声があがる。


 しかし、天音だけは狼ではなく、サキュバス認定され、演奏中にも関わらずに突っ込みを入れていた。


 それがまた笑いを産んで盛り上がる。


「ありがとうございました!!」

『ありがとうございました!!』


 元々やる予定だった曲をやり終えると挨拶をして普人達は舞台袖へと消えた。


 その頃には光球は出なくなっていて、モンスターも出なくなっていた。


「一体いつの間にあんな演出用意してたの?」

「いや、あれはマジでモンスターが突然出てきたのよ?」


 反対側の準備室に引っ込んだ後で、山城が普人達に尋ねると、天音が代表して答えた。


『えぇえええええええええ!?』


 まさかあれが本当に突発的なアクシデントだと思わず、二人は驚愕して思いきり叫び声をあげた。


 その声は観客席に聞こえるほどだったという。

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