第442話 本番

「それじゃあ、見てるデスよ。頑張ってくださいデスよ!!」

「ああ、またな」

「またね」

「ん」


 着替えた俺たちは、ノエルと別れて体育館の舞台横にある準備室に足を踏み入れる。


「あ、やまちゃんだ」

「ホントだ。まひろんもいる」

「やっほー、二人とも」


 準備室に入ると、数組のグループに分かれた生徒たちが、各々集まって話をしながら自分たちの順番を待っていた。


 彼等達の内の一つのグループである三人組の女の子達が、俺たちが入ってくるなり、田中さんと山城さんの知り合いらしく、目敏く俺たちの中に二人がいるのを見つけて声を上げる。


「うん、三人とも順番まだだったんだね」

「はろはろ」


 山城さんと田中さんも三人に向かって軽く手を挙げながら返事を返した。


 彼女たちはなんだかどこかで月に変わってお仕置きしてそうな女戦士たちみたいな恰好で統一されていた。この学校はブレザーなのでセーラー服は新鮮だ。


 つまりその恰好がライブのコスチュームということなんだろう。


 非常に良いと思います。


「衣装めっちゃ可愛いね」

「ホントだね。ハロウィンの衣装なのかな。そっちの子の赤ずきんとか似合いすぎてエモいね」

「霜月さん?だっけ?その子は狼男?めっちゃエロい!!」


 彼女たちはすぐに近寄ってきて俺たちを囲み、衣装について触れる。


「そっちだって。そういうお揃いの衣装も良いと思うよ」

「そうそう。それに私たちは普段セーラー服とか着ないから、ちょっと着たくなった」

「それはめっちゃ分かるわ」

「可愛い」


 呼応するようにこちらの女性陣も相手の服装を褒めながら、衣装談議に花を咲かせてキャピキャピと盛り上がっていく。


 俺は完全に蚊帳の外で唯々皆を話を聞くだけの置物と化していた。


 それは別に構わない。こんな女子達の中で俺に話を振られてもどうしようもないからな。


 俺は影を消して空気になり切る。


 しかし、俺がそんな風に女子の中で肩身の狭い思いをしているのを他の男子たちが理解する訳もなく、女子七人の中に男が一人でいるという構図のせいか、強い殺気が飛んできているような気がするのは、気のせいではないんだろうな。


 可愛い女の子に囲まれるのは悪い気はしないけど、二、三人ならともかく、七人ともなると、知らない人もいる関係上、とても居づらいです。


 俺はそういう意味も込めて男子たちをにらみ返すことで冷静さを保つ。男子たちは俺が睨んだら、何故かガクガクと震えだして青い顔になったように見えるけど、多分見間違いか何かに違いないな、うん。


 俺はそっと見ないふりをした。


「ねぇねぇ、そっちの男子って例の突然現れた麗しの君じゃない?」

「そうそう、めっちゃ気になってんだけど」

「ねぇ~。こんなかっこいい人一学期の最初の頃は見かけなかったと思うんだけどなぁ」

「あぁ~、私たちも知らないんだけど、そこんところどうなのかな?」


 しかし、空気になって触れられないようにしていた俺の努力もむなしく、何故か女子達の視線が俺に一斉に集まった。


「普人君のことだとすれば、多分スパエモの本気施術を受けたせいだと思うわ」

「えぇ~、あの伝説と言われている施術を受けたっていうの!?」

「信じらんない。本気施術は数年待ちが当たり前なんだよ!?」


 どうやら俺が突然現れた謎のイケメンということで話題になっているらしい。


 スパエモが人気なのは知っていたけど、まさかそこまでとは思わなかった。女の子たちが俺を羨ましそうに見つめる。


 ホント女子達は美容の話が好きだよな。


 君たちはまだ十代でしょうに。


 そんなことを言ったら非難轟々だろうからお口にチャックだ。


「そうなの?私たちもやってもらったわよね?」

「ん」

「えぇ~。滅茶苦茶羨ましいんですけど~」

「だから、そんなに肌がプルンプルンなんだぁ~。ズルいなぁ~」

「そう言われても私たちは何もできないわよ?」


 天音とシアが余計なことを言うと、他の女子達が羨ましそうな顔をして、それに答えようのない天音が俺の方に困ったような視線を送ってくる。


 そんな目をされてもなぁ。


 俺も答えに詰まる。


「次はブリリアントさんの出番ですよ!!準備お願いします」

「あ、はーい!!」

「それじゃあ、私たちは行くね」

「またねぇ~」


 俺が言うだけ言ってみる。


 そう答える前に丁度進行をしている生徒から指示があったおかげで、三人はステージの方に去っていった。


 催促されなかった俺はほっと一息をついた。


 それから次々とスケジュールが進行し、あっという間に俺たちの番になる。


「最高に楽しい演奏にするぞぉ~!!」

『おおー!!』


 前夜祭の時と同じように円陣を組んだ俺たちは、掛け声を上げて舞台上へと上がった。観客席には沢山の人たちが集まっていて、二階の手すりしかない部分まで埋まっている。


 こんな中で自分の拙い演奏をすると思うと、滅茶苦茶ドキドキする。


「それでは聞いてください。一曲目は『KIZUNA DRIVE』」


 しかし、誰も待ってはくれない。


 山城さんがメンバーを紹介して、俺たちが各々軽く挨拶をした後、田中さんのドラムから俺たちの文化祭での演奏が始まった。

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