第439話 妹がやってきた

 テンプレもどきを体験した後、それからは特に何事もなく時間が進んでいった。


「あ、お兄ちゃん!!」

「佐藤君」


 そんな俺たちの教室に聞きなれた声が聞こえた。外から中を覗いていたのは七海と零だった。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ふぉおおおおおおっ!!お兄ちゃんの執事姿かっこいい!!」

「ふふふっ。なかなか似合っているわ」


 俺が腰を折って挨拶をすると、七海は変なテンションになって叫び、零がクスクスと笑みを浮かべながら俺を褒めてくれる。


 七海はともかく零はお世辞だろうけど、それはそれで嬉しいな。


「よく来てくれたな。七海も今日の服もよく似合って可愛いし、零もまるでモデルみたいに綺麗でびっくりしたよ。案内するか?」


 普段の服よりもバッチリと決まっているので、レディに関してたしなみとしてきちんと褒めておかなければならないと思う。 


「ふぉおおおおおおっ!!」

「そ、そう?ありがとう。そうね、七海ちゃんがこの様子だからお願いするわ」

「かしこまりました、お嬢様」


 挨拶の後は知り合いということもあって、ざっくばらんな話し方にしたけど、七海が興奮して未だに戻ってきていないので、零が代わりに答え、俺は慇懃な態度で礼をした。


 七海は零に手を引かれて「えへへ」と恍惚の表情を浮かべたまま席へと案内されていく。


「おい、なんだあの二人」

「あのちっちゃな子の言葉を聞く限り、あいつの妹らしいな」

「もう一人も知り合いなんだろうけど、一体どんな関係なんだ?」

「それはともかく」

『可愛い!!そして憎い!!』


 他のクラスメイド達が俺たちの方を見ながら何やら囁いているんだけど、俺のほうまでは聞こえない。しかし、なぜか全員が俺の方に刺すような視線を送ってくる。


 いったい何だってんだよ……。


「あの~、注文いいですか~?」

「しょ、少々お待ちくださいませ、お嬢様!!」

「こっちも」

「は、はい少々お待ちを!!」


 そんなことをしているせいで他のクラスメイトはお客さんの注文に慌てて反応していた。


「どうぞ」

「ありがとう」

「ふわぁああああ……」


 俺が二人の席を引いてやると、零は優雅に腰を下ろすと七海は惚けた顔のまま椅子に座る。


「メニューをどうぞ」


 俺はメニューを渡すと、七海はようやく我に返って注文を決める。


「私はこれとこれ」

「私はこれとこの飲み物にしようかしら」

「かしこまりました」


 二人はしばらくメニューとにらめっこした後で注文のしたので注文書を書いて調理班に注文を伝え、他のテーブルの片づけや他のお客さんの案内を行った。 


 二人は美味しそうにウチのカフェのスイーツを食べ、飲み物を飲んでいる。どうやらダンジョン産の食材を使ったスイーツは上手くいったようだ。


 俺はホッと安堵する。


「あいつら俺の知り合いなんだけど、少しだけ抜けていいか?」

「いいけど、条件がある」

「なんだ?」

「あの子たちのとの関係を教えろ」

「はっ?」


 二人が食べ終わりそうだったので、俺はクラスメイトに言ってちょっとだけ抜けようと思ってしばらく対応を頼もうと思ったら、訳の分からない返事をされた。


 なんでそんなことを聞きたがるんだ?


「いや、俺の妹と、探索者のパーティメンバーの一人だ」


 まぁ別に隠すようなものでもないので、俺は普通に答えてやる。


「むぐぐぐっ……アレクシアちゃんと霜月さんも同じパーティだというのにさらに美少女がメンバーだと!?」

「ハーレムやろうじゃねぇか!!」

「くそっ!!なんてうらやまけしからん!!」


 俺の返事を聞いた他のクラスメイト達も含めなぜか苦虫をかみつぶしたような顔でブツブツと呟いている。


「お、おい。答えたんだから少しの間頼んだぞ」

「ちっ。分かったよ」


 約束を守ってもらおうと思ったら、なぜか舌打ちされた上に睨みつけられた。マジでわけわからん。


「ありがとな」


 ということでなんとか時間を貰った俺。


「いかがでしたか、お嬢様方」

「お兄ちゃん、ハァハァ……」

「ええ、文化祭の一高校生が作ったとは思えない出来栄えだわ」


 俺が再び執事然として二人の下にやってくると、七海は再び熱に浮かされたような表情になって息が荒くなり、零が綺麗にナプキンのようなものをどこかから取り出して綺麗に口元を拭いてお嬢様みたいな雰囲気で感想を述べた。


「おいおい、七海。本当に大丈夫か?」

「だ、だだだだ、大丈夫……。と、とっても美味しいよ!!」

「そうか。それなら食材を取りに行った甲斐もあったな」


 七海の額に手を当てて尋ねたら、顔を赤らめてにっこりと笑ってひとまず安心しながら俺は安心した。


 熱もないようだしな。


「ちょっとさっきの額に手を当てるの尊くない?」

「ほんとそれ、私もやってほしい」

『キャー!!』


 周りがなんだか黄色い声で盛り上がっているようだけど、皆スイーツに満足してくれているんだろう。


「二人はこれからどうするんだ?」

「お兄ちゃんに会えたから、あとはライブまでいろんなお店を回ってるよ」

「そうか、人混みには気をつけてな」

「うん」

「それでは、お嬢様方、ごゆっくり」


 二人の予定を聞いた後、俺は再び恭しく腰を折って二人から離れて業務に戻った。


「ふぉおおおおおおおっ!!」


 後ろから変な声が聞こえてきたけど気のせいだろう。

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