第440話 合流
七海たちを見送り、何事もなく、担当の仕事をこなしてようやく交代に時間になった。俺とシアは山城さん達と合流するために、更衣室で着替えてから、あらかじめ決めていた合流場所へと向かうことにした。
しかし、教室を出ていこうとすると後ろから声が掛かる。
「あ!!普人さま!!ライブ用の衣装を用意しておきましたので、私もご一緒しますデスよ!!」
その声の主はノエルだった。
俺たちとしては制服でやるつもりだったからすっかり意識の外に置いてしまっていたけど、彼女はどうやら俺たちのライブ用の衣装も作っていてくれたらしい。
目の下の隈はクラスの衣装だけでなく、俺たちの衣装まで作ってくれた証ってことか。
「マジか。すっかり忘れてた。制服で演奏するつもりだったからな」
「そういうと思って作っておいたのです」
「ありがとな」
「えへへ、どうしたしまして、デスよ!!」
俺の言葉にない胸を張ってピノキオのように鼻を伸ばしてどや顔を決めるノエルに、シア同様に少し小柄な体型から、七海を撫でる癖で俺はつい頭をポンポンと撫でてしまった。
しまったと思ったけど、嬉しそうにはにかんでいるので、結果オーライということで何も言わないことにした。
俺たちの分の衣装まで作ってくれたとあっては、後で埋め合わせというか、何かプレゼントでもして感謝の気持ちを形にしようかな。シアと山城さん達とも話し合っておこう。
この衣装に着替えるなら更衣室は後回しでいいか。
「あ、佐藤君にアレクシアちゃん、ちゃんと来てくれたね」
「ん」
「そりゃあ来るだろ。今更来ないとかどんな屑なんだ?」
「アハハ……。確かにそうだね。えっとそちらは確か聖女様?」
合流場所に到着すると、そこにはすでに山城さんと田中さんが来ていて、俺を見るなり田中さんがとても失礼なことを言う。
俺ってそんなに屑野郎だと思われていたのだろうか。
確かに美少女たちと一緒にパーティを組んでいるという点ではハーレムみたいに見えても文句は言えないし、今でこそ自分の置かれている状況を自覚したとはいえ、少しショックだ。
山城さんはごまかすように苦笑いを浮かべながら、俺たちと一緒に来ていたノエルに視線を向けた。
「ああ。なんでも俺たちのライブ衣装を作ってくれたらしい」
「え!?そうなんだ!?あ、ありがとうございます!!初めまして、聖女様。私は山城千尋と言います。よろしくお願いします」
「わ、私は田中真広です。よろしくお願いします。衣装ありがとうございます!!」
俺がノエルがやってくれたことを説明しながら紹介すると、山城さんと田中さんが非常に焦った様子でノエルにぺこぺこと頭を下げながら、礼と自己紹介を行う。
その様子は、一般庶民の中にいきなり超有名人がやってきたかのようなやり取りで、思わず心の中で笑ってしまった。
「どうも初めまして!!ノエル・キャロと言いますデスよ!!そんな堅苦しいしゃべり方はやめてください。別に偉いわけじゃないのデスよ!!ノエルで良いデスよ!!」
「そ、そう?分かったわ。ノエルちゃん、よろしくね」
「よろしく!!」
「よろしくデスよ!!」
ノエルも元気に挨拶しつつ、山城さんと田中さんにもっと気軽に接するように促し、二人は再び少し気安い返しで挨拶しあう。
「お待たせ~!!」
ノエルとの顔通しが終わったその丁度いい頃合いを見計らったかのようなタイミングで、もう一人の女の子の声が俺たちに浴びせられる。
「あ、天音ちゃん、いらっしゃい」
その声は少しだけ息が上がっている様子でやってきた天音だった。
「ええ。なんとか間に合ってよかったわ」
「まだ少し時間に余裕があるから大丈夫だよ」
「そう。でも準備は早いにこしたことはないでしょ、早速体育館に行きましょ」
多少時間に余裕はあるけど、体育館に行って準備をしておいたほうが良い時間でもある。そのため、天音はすぐに俺たちを連れていこうと促した。
「えっとね、それなんだけど、ノエルちゃんが私たち用の衣装を作ってくれたんだって」
「あ、ノエルじゃない。着てたのね」
しかし、ノエルが作ってきた衣装にこれから着替えるところだった。それで山城さんがノエルの方に視線を向けると、天音がそれにつられてノエルを見て初めて、ノエルがその場に来ていたことを認識し、声を掛けた。
「ハイですよ。皆にあった衣装を作ってきたので、ぜひ来てほしいデスよ」
「そういうことね」
ノエルが鞄をポンポンと叩いて見せると、天音が状況を理解して頷く。
「分かったわ。それでどんな衣装なのかしら?」
「それは着替えるときのお楽しみデスよ!!」
「はいはい、それじゃあ、着替えに行きましょ」
『了解』
合流を果たした俺たちは更衣室へと向かった。
「それじゃあまた後でね」
「ああ」
「くれぐれも覗いたりしないようにね!!私は構わないけど他の子たちもいるからね!!」
「私も別に気にしない」
「私はちょっと……」
「え……!?佐藤君ってそういうことをする人だったの?」
「そんなことするかよ」
更衣室への分かれ道で軽口をたたいた後、俺たちはそれぞれの更衣室に入るのだった。
勿論俺は紳士なので覗いたりすることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます