第435話 こんなこともあろうかと

 文化祭の開始が宣言されたことによって俺達は最終的な装飾や店内の配置などを行う。


 俺とシアはマジックバックを持っているので、時音先輩の実家から借りてきた趣きを感じさせるテーブルや机、そして調度品などを配置していく。


 本来であれば、先にやっておいたほうがいいことかもしれないけど、盗難防止のため念には念を入れて教室に誰かが必ず教室にいる状態の今、設置が行われている。


「えぇ~、材料がない!?」

「うん、調理室に取りに行ったら、なぜか無くなってて……」

「泥棒じゃない!!」

「犯人を捜しましょ!!」


 しかし、準備を進めている中で調理班の女子達から突然大きな声が聞こえてきた。


 話を聞く限り、調理室の冷蔵庫に保管していていた、俺たちが取ってきたデザート用の食材が忽然と消えてしまったようだ。


 なんてことだ、犯人許すまじ!!


 しかし、そんなことよりも材料がなければ店を開くことができない。


「いや、今は犯人を捜している場合じゃない。というかそれは先生たちに任せよう。それよりも食材をどうするかだ」


 クラスの人気者高橋君も同じ意見のようで、皆を宥めて犯人捜しを止めさせる。


 現状犯人捜しをしても店が開けるわけじゃないからな。

 こっちはラックに任せよう。


「ラック、俺達の食材を持って行った奴の調査をして、犯人は怪我をさせないように無力化し、そいつらが犯人であることが分かるようにしておけ」

「ウォンッ」


 俺は小声で指示を出し、ラックはそれを了承して探りに行った。


「でも高橋君、今から食材をどうにかするなんて……それにダンジョン食材だし……」

「それは仕方ないから普通の食材にするしかないね……」


 今から取りに行っていたら間に合わない。クラスメイト達はものすごく落ち込んでしまった。


「はぁ……折角葛城さんたちに取ってきてもらったのに……スーパーので我慢するしかないかぁ」


 さらに続けて女子生徒が悲し気にぼやく。


 気持ちは分かる。確かにスーパーによっては開き始める頃合いだし、買いに行けば間に合うところではあるけど、それはなんだか気に入らない。


「あるよ」


 だから俺が助け船を出した。


「へ?」

「だから、食材なら全部あるって」

「えぇ~!?」


 俺の言っている意味が分からなかったようで、調理班のリーダーは呆けた表情をしたので、改めて言い直すとようやく俺が言っている意味が分かったらしく、物凄く驚いていた。


 俺たちは勢い余って食材を取りすぎたからな。その取りすぎた食材に関しては影の中に仕舞ってある。最近は特に使う理由もなかったからそのまま残してあった。


「ほら」


 俺は材料がおかれるであろう机の上に以前集めるように言われた食材をマジックバックから取り出すようにして並べてやった。


 空気になっている俺達だけど、別に虐められてるわけじゃないし、不快な思いをしてるわけでもないので、折角の文化祭、楽しい思い出にしたいと思うのは当然じゃないだろうか。


「うわぁ!!ホントだ!!」

「すごい!!」

「ありがとう鈴木君」

「いや、佐藤だから」

「あっ、ごめん!!」


 調理班の女子にものすごく感謝されたけど、名前を覚えられてないと言うオチがついた。


 まさかクラスメイトに名前さえ覚えられていないとは……。


 俺は物凄い衝撃を受けた。


「い、いや、それはまぁいいよ。材料はあるからこれを使ってくれ」

「いいの?」

「勿論だ」

「ホントにありがとね」

「どうしたしまして」


 材料を受け取った調理班。しかし、すぐにつぎの問題が浮上する。


「皆ごめん!!。やっぱりちょっと親父に頼んだ調理機材が間に合わないってよ!!」

「えぇ~!?そんな!?」


 実家が店を営んでいるクラスメイトが使ってない調理機材や器具を持っていることになっていたんだけど、どうやら厄介な渋滞に巻き込まれてしまったらしく、ギリギリまで待ってみたけど、間に合わないということらしい。


 再び調理班の女子達が悲嘆にくれる。


「はぁ……」


 全く仕方がないな……。


「あるよ」

「え!?」

「だから調理機材もあるってほら」


 さっきと全く同じ流れで調理機材を出してやった。


 また驚いているという事実は無視する。


「な、なんでそんなもの持ってるの?」

「なんでってダンジョン飯を作る時にいるだろ?」

「いやいるだろって言われても……」


 驚いた様子で尋ねられたので探索者必修のダンジョン飯の説明をしたらなぜか困惑されてしまった。


 なんでだ?


「まぁいいじゃないか。調理機材もあったんだから。これ使っていいんだよな?」

「ああ。ちゃんと返してくれれば問題ない」

「分かった。ありがたく使わせてもらうね」


 高橋君が俺たちの間に割って入り、止まっていた作業が動き出した。


「あぁ~!?看板が滅茶苦茶になってる!!」


 またもや別のところでトラブルらしい。


「見てくれよ。せっかくおしゃれに描いた看板が滅茶苦茶になってんだよ」

「ひどい……!!」


 どうやらおしゃれなカフェ風の看板を自作し、ブラックボードにいい感じにメニューを描いたらしいけど、それも落書きのようなものがされてひどいありさまになっていた。


 はぁ……全く仕方ない……。


「完成品の写真はあるか?」

「え?あ、ああ。出来が良かったから画像は残っているぞ」

「見せてくれ」


 俺は嘆いている生徒に作った看板とメニューの写真を見せてもらうと、影の中から材料と機材を取り出してすぐに同じものを作りあげた。


「これでいいか?」

「え、あ、うん、助かった」

「気にするな」


 別に見た物を見たまま作っただけだ。大したことじゃない。


「でもなんでそんなものを持っていたんだ?」

「こんなこともあるかと思ってね」

『ねぇよ!!』


 俺としては念のために持っていた材料だったんだけど、なぜかみんなに突っ込みを入れられてしまった。


 おかしいな。


「よ、よし。もう気にしないことにしよう。突っ込んでいたらきりがない」

「そうね」

「あとは問題ないな?準備を終わらせるぞ!!」

『おおー!!』


 何故かものすごく呆れられてしまったけど、その後は何事もなく、開店に漕ぎ着けることができた。


 解せぬ。

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