第436話 想定外とお披露目

 今更だけど、ウチの学校は日本でも有数の名門校であり、有名校でもある(知らなかったけど)。そして、この学校の文化祭は学校関係者以外の入場も認められている。


 つまりどういうことかというと、一般客が沢山やってくるということだ。


 文化祭の開催を宣言され、学校の校門が対外的に解放されると、なだれ込むように人々が中に入ってくる。


 最近はなかなかお祭りやイベントなどの開催もなく、鬱屈した感情をため込んでいたはずだ。それが久々に近隣で、一学校とはいえ、開催される大きなイベントがあるとなれば、ストレスの発散を求めてこぞってやってくるのも不思議な話ではなかった。


「でもこれってちょっと多くないか?」

「ホントホント。先輩に聞いてたのよりずっと多そう」

「大きな花火大会でもやってるみたいだ」


 ただ、学校側の誤算はその客の数があまりに多かったことではないだろうか。教室の窓から見ていた生徒たちも困惑の声を上げている。


 俺もチラッと見る限りとんでもないことになっているのが見えた。


 彼らの言っている通り、花火大会が開かれる場所の最寄り駅のような様相を呈している。何故俺がそんなことを知っているかと言えば七海をよく連れて行ったからだ。


「こんなに人が来て大丈夫なのかね」

「何とかなるんじゃないか。それこそこの学校には探索者がいるんだし」


 その数に怯える人間もいるけど、多くの生徒は探索者を数多く抱えているだけにあまり危機感を抱いてはいなかった。しかし、それでもどうにもならないこともあるかもしれない。


 一応気を付けておくか。


「影魔達は各所の警備につくように」

『ウォンッ』


 俺の思念による指示で、影魔達は学校の近くにいる影魔達が学校に集まってきて、あちらこちらの影に潜みながら、生徒たちの安全を見守るように警備を開始した。


 高ランク探索者が暴れたりしたらどうにもならないかもしれないけど、少なくとも一般人からCランク探索者くらいまでなら影魔でもどうにかなると思う。いや、こっちには数の暴力があるからBランクくらいまでなら抑え込めるかもしれない。


 とにかく教員たちや雇われている警備員だけでは、あの人数に対応するのは絶対に無理だと思うので、少しでも助けになればそれでいい。


 それはそうと、俺たちは交代制で店員をやることになっている。俺はバンドの関係上、最初の班で執事をやることになっていた。当然そうなると、シアも当然のように同じ時間帯になるわけだ。


 つまり俺もシアも執事服とメイド服に着替えている。


 最初に作ったメイド服から皆意見を取り入れたり、時音先輩宅のメイドを見ることによってさらにパワーアップしたものを身に着けたシアは、それはそれはその日本人離れした容姿も相まってレベルの高い女子達の中でも圧倒的な存在感を放っている。


「ん。ふーくんかっこいい」

「シアも似合ってるよ」

「ありがと」


 シアが着替えた俺を見るなり、褒めてきたので俺も褒め返す。各々ノエルから渡されて着用して問題ないことは確認しているものの、こうして男女で見せ合うのは今日が初めてだ。


「ふぉ~!!普人様の執事服姿、まるで『モブバトラー~俺は悪魔で一般人~』に出てくる主人公みたいデスよぉ~!!ハァハァ……」


 シアとは別にノエルが俺の横であまり人には見せてはいけないような顔になっているけど、気にしないことにした。どうやら全員分の衣装を作るのに徹夜しまくったりして、テンションがおかしくなっているらしい。


 彼女の当番は午後からなのだけど、すでに自分が作成したメイド服に身を包み、いつでも交代できる状態だ。ノエルもシアに負けず劣らずの美少女なのでよく似合っているけど、それだけに今の態度とのギャップに引いてしまう。


 他の面々もノエルの本性にドン引きしながら、触らぬ神に祟りなしの精神を貫いていた。


「はぁ~、全く砂糖吐きそうになるぜ」


 俺たちの様子を見てたアキがやってられねぇといった仕草でぼやき、何故か他の面々も同意するように頷いている。


「アッキーもまぁまぁ似合ってる」

「あっりがとうございまーす、アレクシアちゃん!!」


 しかし、シアがアキを褒めた途端、こいつは手に平を返したように仰々しい態度で執事らしく腰を折った。


 よく見ると他の女子生徒と男子生徒たちも何人かはお互い褒めあったりしていて中よさそうだ。


「いてっ!?お前ら止めろ!!」


 同意していたクラスメイト達が裏切ったアキに制裁を加え始めた。自業自得なので俺は特に止めることはしなかった。


「はーい注目!!準備が整ったから私たちのお店も開店するわよ!!準備はいいかしら?」

『はーい』


 考え事をしていたら、ようやく準備が整ったようで俺たちの執事&メイド喫茶が開店することとなった。


『おかえりなさいませ!!お嬢様!!』 

『おかえりなさいませ!!旦那様!!』


 俺たちは開店してすぐに御なじみのセリフを叫んだ。

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