第430話 ケイオン!!

 前話にアキが一人でどこかに行く描写を追加しました。


■■■



 俺とシアは声に誘われて音楽室の方に歩いていく。


「……♪……♪……♪」


 聞き覚えのある声は徐々に大きくなり、ハッキリと聞こえてくる。


「あーちゃん?」

「ああ。多分な」


 その聞き覚えのある声は俺達のパーティメンバー霜月天音の声によく似ていた。その上、歌声はなかなか堂に入ったもので、非常に歌いなれていることが窺い知れた。


 俺達はその声がする部屋の外から扉に着いた窓からそっと中を覗くと、三人の女の子達が楽器を鳴らしながら練習している。


 その先頭で歌っているのがまさに天音だった。


「天音がまさかこんなに歌が上手いとはな」

「ん」


 小柄なシアが前に、その後ろから俺が並び、扉の窓部分に二人でこっそり顔を出して、汗を迸らせて唄う天音の姿を見つめながら感想を呟いていると、天音の視線がこちらを向いた。


「あ、普人君!!アクレシア!!」


 そして俺達の名前を叫んで演奏を中断をすると、俺達の方に駆け寄ってきた。俺達は扉に張り付いていたのですぐに距離をとる。


―ガラガラガラッ


「二人ともどうしてここに?」


 勢いよく扉が開いて天音が俺達にここにいる理由を尋ねた。


「いや、聞き覚えのある声がするなぁと思ってな。覗いてみたら天音が歌っていたんだよ」

「そういうことね」


 俺の答えに腑に落ちたらしい天音。しかし、俺には疑問に思っていることがあった。


「でも、天音はダンジョン探索部だろ?なんでバンドを?」

「えっと、彼女達は三人でバンドを組んでいたんだけど、ボーカルの子がちょっと参加できなくなっちゃったらしくてね。たまたま私が鼻歌を適当に唄っていたら、彼女たちに声を掛けられたのよ」

「いやいや、天音ちゃん、めっちゃ歌上手いよ!?」


 そう俺の疑問はなぜ天音が彼女達と一緒にバンドをすることになったということ。


 天音が語ったところによると、どうやら二人は、山城千尋さんと田中真広さんというらしい。黒髪のロングヘアーとツインテールをしている。高校生にしてツインテールは中々攻めている感じがするけど、結構小柄な体格のせいか良く似合っている。


 彼女たちはもう一人の多々良彩花さんとの三人で軽音部でバンドを組んでいたようだ。そしてその三人目の子が急に暫く入院することになったらしくて、せっかく三人で文化祭に向けて練習していたのに、参加が危ぶまれた。


 そんな状況に陥った時、どこからともなく滅茶苦茶上手い鼻歌が聞こえてきた。その音が元を辿ってみたら、その先にいたのが天音だった。天音の声にほれ込んだ二人は、今度の文化祭だけでいいので、多々良さんの代わりにバンドのボーカルとして参加してほしいと頼んだ、ということらしい。


「へぇ~、そうなのか、それじゃあ、少し聞いてってもいいか?」

「え?私は別にいいけど?」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいね」

「予行練習だと思えば、悪くないかも?」

「じゃあ決定!!」


 全員特に反対なしということで彼女たちの演奏を聴くことになった。


「ワン、トゥー、スリー、フォー」


 田中さんの掛け声によって演奏が始まる。ギター&ボーカルを天音。ベースを山城さん、田中さんがドラムでリズムを取る。高校生ガールズバンドとしてはなかなか上手いのではないかと思う。


 勿論プロと比べれば拙い部分があるように思えるけど、彼女たちが文化祭に向けて一生懸命練習しているのを感じさせられた。天音の歌声も、見た目が少し大人っぽい雰囲気のある彼女に似合う、少しだけハスキーで深みのある物で、その上手さが他の二人の拙さをカバーしているように見える。


「ありがとうございました」


―パチパチパチパチ……


「よかった」

「息も合っていたし、演奏も上手かったし、天音の歌もよかったよ」


 俺たちは拍手をしながら、感想を述べる。シアのアホ毛が飛び跳ねているところを見ると、彼女も俺と同じように本心からそう思っていると思う。


「えへへ、よかったわ」

「全然知らない人だから緊張したよ~」

「ホントホント。でもさっきも言ったけど、いい予行演習になった」


 彼女たちも自分たちの努力が認められて満更でもなさそうだ。


「それならよかった。これなら文化祭の演奏も期待できそうだ」

「ちょっとハードル上げないでくれる?」

『あははははっ』


 俺がにやりと口端を釣り上げて告げたら、天音が、困ったような、それでいて不満そうに俺に文句を言うと、彼女たちとみんなで笑った。


「じー」


 ひとしきり笑いあった後、シアが彼女たちを見つめている。


「どうかしたのか?」

「楽しそう」

「バンドか?」

「うん」


 シアに聞いてみたら、天音たちがグループで一つの目標に向かってバンドの練習をしているのが楽しそうで羨ましいようだ。


「あ、それならアレクシアも一緒にやったらいいんじゃない?ねぇ?」

「えっと、うん。葛城さんでいいのかな?何か楽器出来る?」

「ピアノ」


 シアはどうやらピアノを習っていたらしい。意外だ。いや見た目だけで言えば引けてもおかしくないけど、中身的には予想外だった。


「そっか。それならキーボードでもやってみる?」

「いいの?」

「ええ。ただ時間があまりないから大変かもだけど」

「頑張る」


 上手い事まとまったみたいだな。


「よかったな」

「ん」


 シアの頭をポンポンと撫でるとアホ毛が嬉しそうに飛び跳ねる。


「何自分は関係ないみたいな顔してんのよ」

「は?」


 シアの頭を撫でている俺に、腕を組んで面白そうなものでも見る顔でそんなことを言う天音。何を言っているか理解できずに変な声が出てしまう。


「普人君もやるのよ」

「なんで!?」


 なぜか俺までやることになっている。


 いや、やりたくないわけじゃない。むしろやってみたいという気持ちはあるけど、昔からそういうものに誘われたことがなかったから、困惑してしまう。


「いいじゃない。一人だけ仲間外れよりいいでしょ」

「そうか……そうだな。でも俺は男だけどいいのか?」


 確かに見てるだけよりも、せっかくの一度きりの高校生活だし、一緒にやってみたい。でも彼女たちは俺以外全員女子だ。そこに俺が入ってもいいのだろうか。


「うん、問題ないよ!!」

「私もいいよ」


 どうやら問題ないらしい。


 なんだかまた別の方面でヘイトを買ってしまったような気がするけど、気のせいだと思いたい。


「それじゃあ、早速特訓よ!!」

「おお!!」

「ん!!」


 俺たちの参加が決定したところで天音の音頭で俺たちの猛練習が始まった。

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